『犯罪小説集』

『犯罪小説集』　吉田修一　角川書店
　犯罪によってあぶり出される人間の真実。犯罪を犯してしまった人間と、それを取り巻く人々の業と哀しみを描ききった珠玉の5篇。
　実際におきた事件を基に、想像をふくらませて別の事件として書かれている。「百家楽餓鬼」以外は、犯人以外が語り手で、事件を複層的に見せる。
　「白球白蛇伝」が私はよかった。家族に大切にされていたのに、本人は成功しても家族に恩返しすることもなく、家族は狭いアパートに暮らし続けている。そのアンバランス感や違和感が、不気味で作品の雰囲気とマッチしている。
　一気に読んでしまったが、どれもただ後味がざらりと悪く、おすすめはしない。