ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『仮面ライダー』#04―1

2018-10-10 12:00:03 | 特撮ヒーロー









 
私が『仮面ライダー』を観始めたのは2号ライダー(佐々木 剛)から、それも午前中(夏休み?)の再放送だったと記憶してます。

だから初代の本郷 猛=藤岡 弘さんは、復帰後の「新1号ライダー」のイメージが強かったですね。

特撮ヒーローファンの間じゃ常識的に知られてる事ですが、藤岡さんは第10話あたりの撮影中にバイク事故で複雑骨折の重傷を負い、しばらく戦線離脱を余儀なくされました。つまり2号ライダーの登場は予定されてた事じゃなくて、主役負傷という大アクシデントによる苦肉の策だった。

藤岡さんが無事に復帰出来るか否か未知数だったにも関わらず、その復活を信じ、それまでの繋ぎとして、藤岡さんと仲の良かった佐々木さんが2号ライダー役を引き受けたんだそうです。

現在のテレビ業界じゃ絶対にあり得ない事だけど、番組初期は藤岡さんが自らライダーマスクを被って、変身後のアクションも演じておられたんですね。

その上、低予算ゆえの過密スケジュールで、疲れがピークに達してる時にバイク走行の撮影をし、恐らく集中力が一瞬途切れて転倒されたんじゃないかと推察します。

その時の藤岡さん並びに番組関係者たちの焦りと絶望たるや、計り知れないものがあった筈ですが、それが2号ライダー登場という画期的なアイデアを生み、藤岡さんの復帰によってWライダー揃い踏みというイベント篇まで生んで、それが更なる人気爆発に繋がったワケですから、まさに究極の「怪我の功名」と言えましょう。

で、ここではバイク事故前の仮面ライダー(いわゆる旧1号)を取り上げたいと思います。

子供の時は後期の明るい王道ヒーローぶりが好きだったけど、今あらためて(オトナの眼で)観ると、少々ダークでハードボイルドな旧1号篇が、そのシンプルなコスチュームも含めて一番カッコ良く感じます。

中でもこの第4話は、あの市川森一さんが脚本を書かれた唯一の『仮面ライダー』だったりします。(企画から参加されてたものの、他作品で忙しく、1本しか執筆出来なかったそうです)


☆第4話『人喰いサラセニアン』

(1971.4.24.OA/脚本=市川森一&島田真之/監督=折田 至)

♪迫る~ショッカー~地獄の軍団~…っていうお馴染みの主題歌『レッツゴー!!ライダーキック』ですが、なんと最初期は藤岡さんが自ら唄われてたんですよね!

初めて旧1号篇を観た時に、一番驚いたのがコレでした。子門真人さんの歌声がDNAレベルで染みついてましたからね。藤岡さんの歌唱力については、ノーコメントとさせて頂きますw

第4話は向ヶ丘遊園のシーンからスタートします。「花のオランジェリー」なる植物園で、歳の離れた姉弟が食虫植物のキングサラセニアを観察していると、なんと植物が怪人サラセニアンに変身し、姉のユキエ(篠 雪子=後の太田きよみ)を蟻地獄みたく地中に引きずり込んだ!

「きゃあーっ! 誰かたすけてぇーっ!!」

「お姉ちゃん!?」

初期の『仮面ライダー』は「SF怪奇アクションドラマ」と銘打つほど、ダークで不気味な演出を売りにしてただけに、この場面もチビッコ視聴者にとってはトラウマ必至の恐ろしさ。

植物園を飛び出した小学生の弟=ケンジ(五島義秀)は、たまたま遊びに来てた緑川ルリ子(真樹千恵子)と野原ひろみ(島田陽子)に保護されます。

緑川ルリ子は、ショッカーに拉致されて改造人間の開発に協力させられた(つまり仮面ライダーの生みの親)緑川博士の一人娘で、やがて本郷 猛に想いを寄せるようになるんだけど、藤岡さんの戦線離脱により巻き添え降板させられた悲劇のヒロインでもあります。

その親友でセミレギュラーの野原ひろみを演じるのは、デビューして間もない頃の島田陽子さん。この後『続・氷点』や『われら青春!』等で注目され、米国ドラマ『SHOGUN』に抜擢されて国際女優と呼ばれるようになります。

「えーんえんえんえん。お姉ちゃんが、お姉ちゃんが。えーんえんえんえん、えーんえんえんえん」

当時の子役たちは、本当に演技がヘタクソですw ちゃんと感情を作って、本物の涙を自由自在に流して見せちゃう現在の子役たちとは雲泥の差。

上手な子役は数少ないゆえギャラが高騰し、低予算の番組じゃ雇えない事情もあったでしょうが、明らかに眼薬の涙を単調に拭いながら棒読みで台詞を「言わされてる」感じが、当時としては当たり前の光景でした。

私なんかは、その方が観てて安心します。幼い子供が自由自在に涙を流せちゃう事の方がよっぽど不自然で、恐ろしいです。

「ええっ? 花に食べられた?」

ルリ子とひろみはスナック「アミーゴ」にケンジを連れて行き、本郷 猛らに事情を話すのですが、マスターの立花藤兵衛(小林昭二)は、にわかには信じられないご様子。

皆さんご存じかと思いますが、この立花のおやっさんは後にレーシングチームや少年ライダー隊の代表を務め、歴代の仮面ライダーたちの良き理解者として活躍する、昭和ライダーシリーズに欠かせない存在です。

演じる小林昭二さんは『ウルトラマン(初代)』の科学特捜隊キャップとしても知られており、2大特撮ヒーロー両方にレギュラー出演された偉大なる俳優さんなのですね。

ちなみに、企画初期の段階では立花藤兵衛に高品 格さん、本郷 猛に近藤正臣さん、緑川ルリ子に島田陽子さんというキャスティングが予定されてたそうです。

さて、一般市民である藤兵衛にはピンと来なくても、猛は何しろショッカーによって拉致され、改造人間にされた身ですから、ケンジの姉=ユキエが同じ目的でさらわれたであろう事を直感で察知します。

両親を亡くしたケンジが、ユキエと2人だけで暮らすアパートを訪れ、手掛かりを探す猛。

「この小さなアパートの中で、二人は力いっぱい生きてるんだ……そしてユキエさんは、ケンジ君にとっての父であり、母であり、まだ幼いケンジ君にとっての全てなんだ……ユキエさん、植物園でいったい何が起こったと言うんだ?」

猛自身も家族がいない上、改造人間であるという特殊な存在ゆえに、とてつもない孤独感を抱えてる。ケンジに同じ想いをさせない為にも、猛はユキエの救出に強い使命感を燃やします。

「ケンジ君。きっとお兄さんがね、お姉さんを探してあげる。だから、もう泣くんじゃないぞ。ね?」

ケンジを勇気づけようとして、猛は彼の手をギュッと掴みます。すると……

「痛い! 痛い!」

そばにいたルリ子が、慌てて猛をケンジから引き離します。

「手を離して! こんなに赤く腫れ上がっちゃって……痛かったでしょ、ケンちゃん?」

そう、猛は改造人間ゆえに、変身前でも人並み外れたパワーを有してる。第1話でも、普通に水を飲もうとしたら水道の蛇口を引きちぎっちゃった、なんていうショッキングな描写がありました。

「俺は……俺はショッカーによって、子供をもあやせない身体になっていたのだ……」

なんとも暗い話ですがw、そういうシビアな孤独感が強調されるのも旧1号篇ならではの特徴で、市川森一さんらしい描写とも言えましょう。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん待って!」

たまらずアパートを出て行った猛を、飛行機のプラモデルを持ったケンジが追いかけます。

「お兄ちゃん、ボクのプラモデルあげるから、お姉ちゃん見つけて!」

プラモデルに惹かれたワケでもないでしょうがw、猛は気を取り直します。

「……分かった。必ず見つけてあげる。必ずね」

独り捜索に向かう猛の後ろ姿に、中江真司さんのナレーションが被ります。

「改造人間・本郷 猛……ショッカーの恐ろしさを知るただ1人の人間として、ショッカーとの戦いに命を懸けているのだ!」

現場百回って事で植物園を捜索する猛を、ショッカーの戦闘員たちが襲撃するのだ! 戦闘員が投げたナイフでケンジのプラモデルを真っ二つにされた本郷 猛は、怒りに燃えてショッカーのマシン(普通の日産車w)をサイクロン号で追跡するのだ!

ショッカーは日産車の排気口から毒ガスらしき煙幕を噴射するのだ! これでいいのだ!

「くっそぉ、ジャーマンガスだ!」

ジャーマンガスとは、第二次世界大戦でドイツ軍が開発・使用した毒ガスの総称なのだ! サリンもその内の1つなのだ!

「改造人間・本郷 猛は、ベルトの風車に風圧を受けると、仮面ライダーに変身するのだ!」

一世を風靡した「変身ポーズ」が、旧1号ライダーにはありません。2号ライダー役の佐々木剛さんがバイクに乗れない為、風圧を受けなくても変身出来るよう考慮した苦肉の策が、これまた怪我の功名となり、大ヒットに一役買ったのでした。いや、買ったのだ!

さて、ライダーvsショッカーの第1ラウンドは、造成地における戦闘員たちとの格闘です。怪人との一騎討ちよりも、沢山の敵をバッタバッタと倒して行くこのファイトが、私は一番好きでした。

しかも、この旧1号篇では藤岡さんご自身が実際にライダースーツを着て立ち回りされてるワケで、それを頭に置いて観るとなおさら燃えますよね。

崖から派手に転がり落ちていく、タイツ姿の戦闘員たち(大野剣友会)も命懸けだし、ライダー自身も結構な高さから飛び降りて、いつ怪我してもおかしくない本気のアクションです。

あのライダーのマスクは視界が極端に狭く、しかも吐息で曇っちゃうもんで、周りがほとんど見えない状態で藤岡さんは闘っておられるんですよね。

リハーサルを重ねて段取りを頭に叩き込み、本番は感覚だけで動いてたワケです。あんたはジェダイ騎士かよ!? フォースかよ!?ってw、尊敬を込めてツッコミを入れたくなります。武道を究めた藤岡さんでなきゃ出来ない芸当です。

もちろん相手役=大野剣友会の人達による完璧なカバー無くしては不可能な事でもあり、この番組に賭けるキャスト&スタッフの情熱とプロ根性が最もストレートに伝わって来るのが、この立ち回りシーンじゃないでしょうか。

死闘の末に戦闘員たちを蹴散らしたライダーは、その中の1人を捕獲する事に成功します。

他の連中はショッカーの秘密アジトへと逃げ帰り、怪人サラセニアンに状況を報告します。サラセニアンは「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」って唸る事しか出来ないのに、戦闘員たちはいっちょ前に日本語を話しますw

例の「ヒィー!」っていうショッカー語は2号ライダー篇以降で、旧1号篇の戦闘員は普通に喋るし、顔も出してます。(不気味なペイントを施すメイクアップに時間がかかる為、2号篇からマスク有りに変更)

「本郷 猛に1人捕まりました」

「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」

これでは会話にならないのでw、ショッカーのボス(声=納谷悟朗)がスピーカーから解説を入れます。旧1号篇ではまだ、首領とか死神博士みたいな幹部が存在しないんですね。

「ライダーに嗅ぎつけられたな? サラセニア人間よ、ショッカーの掟に従って、ナンバー3を消しにいけ!」

「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」

囚われて身動き取れなくされたユキエが、サラセニアンに話し掛けます。

「何処なんです、此処は!?」

「エヘ…エヘ…エヘエヘエヘ…」

これでは会話にならないのでw、親切なショッカーのボスが代わりに答えてくれます。

「ショッカー・サラセニア人間・地下アジト。その男には、予備注射を打ってある。今からショッカーの改造人間として、肉体改造テストを受けるのだ」

猛が改造手術を受けたのと同じ(と思われる)手術台に、無名の大部屋俳優さんが張り付けられてます。

「その男の身体に5万ボルトの電流を流す。それに耐えられれば、改造人間研究室に送り込まれ、ショッカーの改造人間として働く」

普通は死ぬだろうと思うんでw、このテストを通過した猛の肉体は、改造される前から人間離れしてたワケですね。

「うぎゃあーっ!!」

「10万ボルトに上げろ」

「うぎゃあぁぁぁ…ぁ……」

「もういい。死んだ」

そりゃ死ぬやろw

「酷い、なんて事を!」

「お前も12時から、このテストを受けるのだ」

ショッカーもちゃんとスケジュールを立てて、時計を見ながら行動するワケですねw しかし、どう見たって平凡なOLのユキエを、なんでショッカーは改造人間の候補に選んだのでしょう? いやらしい目的としか思えませんw

「いやっ! ケン坊の所へ帰して下さい! ケン坊! ケン坊ーっ!!」

「お姉ちゃんっ!」

ルリ子の部屋で寝ていたケンジが、悪夢にうなされて眼を覚まします。

「夢を見たのね? 可哀想に……でも大丈夫よ。ケンちゃんのお姉さんは、猛兄ちゃんがきっと探し出して来てくれるわよ。ね?」

そこで、ブザーの音が鳴ります。早速、猛がユキエを連れて帰って来たのか!?……と思いきや、彼に連れて来られたのは全身タイツのオッサンなのでしたw

(つづく)
 
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『特捜最前線』#215

2018-10-10 00:00:16 | 刑事ドラマ'80年代









 
デビュー間もない頃は薄幸のヒロイン役で刑事ドラマにゲスト出演されることが多かった、風吹ジュンさん。

特に、以前レビューした『大都会 PART II』第41話において徳吉刑事(松田優作)、そして今回の『特捜最前線』で桜井刑事(藤岡 弘)と、いずれも野獣みたいな暴力刑事を相手に演じたw、昭和でなければ成立しないド直球のメロドラマは、我々ファンに強烈な印象を残すと同時に、シリーズ屈指の名作として語り継がれる事になりました。


☆第215話『シャムスンと呼ばれた女!』

(1981.6.17.OA/原案=内館牧子/脚本=橋本 綾/監督=辻 理)

横浜のドヤ街で10kgの覚醒剤が取引されるというタレ込み電話を受け、日雇い労働者を装って潜入捜査する、桜井刑事(藤岡 弘)と紅林刑事(横光克彦)。

冒頭で披露される、藤岡さんのガテン系コスプレがあまりに似合い過ぎてて笑っちゃいますw ほんと、果てしなく肉体派ですよねw

で、場末のスナックで見かけた売春婦=通称シャムスン(風吹ジュン)がシャブ中である事に気づいた桜井は、彼女に接近し、思いっきり漢のフェロモンを撒き散らしますw

そう、桜井はシャムスンをナンパし、自分の女にして覚醒剤組織の正体を掴もうとしてる。かねてから麻薬絡みの事件には異常なほど執念を燃やす桜井は、組織摘発の為なら手段を選ばないのです。

そんな弘に騙されて、これまで誰とも口を聞かず、一切笑顔を見せなかったシャムスンが、徐々に心を開いて行きます。

ところで、なぜ彼女はシャムスンと呼ばれるのか? 書店で外国語の本を物色した桜井は、アラビア語の辞書にその言葉を見つけて、急にニヤニヤし始めます。

「冗談だろ? えらく冗談好きなヤツがいたもんだね、こいつは。ハッハッハ、参ったなあ」

ガテン系コスプレのまま、あの濃い顔で独り言を呟きながらヘラヘラ笑う桜井刑事。さぞ周りのお客さんは不気味だった事でしょうw

やがて、特命課の捜査でシャムスンの過去が判明し、それを知らせに来た紅林刑事は、すっかり男女の仲になった様子の桜井&シャムスンを見て驚愕します。

一匹狼の桜井は例によって、自分の捜査方針を同僚達に一切知らせてなかった。あまりにダーティーな桜井のやり方に、紅林は怒りをぶつけます。

「シャムスンは普通の人間から見ればクズみたいな女だ。しかし彼女だって人間だ! 感情のある生きた人間なんですよ!?」

「紅林!」

「それとも何ですか。あんた、本気であの女に惚れたとでも言うんですか? 平気でカラダを売るような淫売女に!」

次の瞬間、紅林は強烈なライダーパンチを浴びて、約25メートルほど吹っ飛びます。

「あ、すまん」

慌てて謝る桜井に、瀕死の紅林はシャムスンの過去を(自分が息絶える前に)教えようとします。

「いや、それなら分かってるんだ」

「そうですか。そりゃそうですよね、あの様子じゃ」

「他に無いんだったら、俺は……」

「シャムスンは人を殺したことも言いましたか?」

「!?」

桜井の濃い顔が固まります。シャムスンには、2人の男の死に関わったという過去があった。にわかに信じられない桜井は、シャムスンを問い詰めます。

かつてシャムスンと愛し合った2人の男は、いずれも不幸な境遇を背負い、彼女に心中を持ちかけた。シャムスンはそれを受け入れたんだけど、結果的に自分だけが生き残ってしまったという、まるで『嫌われ松子の一生』みたいな波瀾万丈バイオグラフィー。

「みんな、私がやったんだろうって。だから私、頷いた」

「頷いた? なぜ本当のことを言わなかったんだ?」

「どうでも良かったんだもん……捨て子で、施設で育てられて、15になったとたん世の中に放り出されて、助けてくれる人なんか誰もいなかった。頷くか、心を閉ざすしか、生きていけなかった」

自分と愛し合った男は、みんな不幸になる。シャムスンがそう思い込むのも無理ありません。

「だから、私が殺したんだよね」

「いや、殺したんじゃない。シャムスンは助けてあげたんだ。その2人の男をな」

「助けた?」

「ああ。俺がその男達だったら、きっとそう思うだろう」

最期の時間を、一緒に過ごしてくれるパートナーがいる。絶望の淵にいる人間にとってそれは、確かに唯一の救いだったかも知れません。

「ねえ……あんたも私のこと怒ってないよね? 私たち終わりじゃないよね?」

「……これからが始まりだよ、俺たちは。そうだろ?」

「本当? 本当にそう思っていいの? 本当にこれから始まるって思っていいのね?」

桜井は、本気でシャムスンを愛してしまったのか? それともやっぱり、覚醒剤組織を摘発する為に利用してるだけなのか? 顔があまりに濃すぎて、我々視聴者には彼の真意が読み取れません。

だけどシャムスンは、桜井を信じた。信じたからこそ「しばらく帰りません」という書き置きを残し、彼女は姿を消してしまう。

桜井は焦りますが、特命課がすぐにシャムスンの居場所を探し当てます。彼女は、ドヤ街にある小さな病院にいたのでした。

「シャブと縁を切ろうとしてるんです。これからが始まりだと言ってくれた男のために」

昔から知ってる町医者(織本順吉)に、シャムスンはクスリ抜きを志願し、隔離病室に籠もってた。

「生きたいと言ってるんですよ、シャムスンは。これからが始まり……シャムスンにとって、それ以上重い言葉はない」

これまで2度も人生を捨てかけたシャムスンが、桜井と一緒に過ごす未来の為に、大きく自分を変えようとしてる。桜井は、もう既に彼女の人生を背負ってしまった。

……ところが!

「桜井さん、あんた正気なんですか!?」

なんと桜井はシャムスンを退院させ、あえて泳がせるという手段に出た。つまり覚醒剤組織を摘発する為に、彼女をオトリに使おうとしてる。再び紅林が噛みつきます。

「シャムスンはね、あんたの為にシャブと縁を切ろうとして病院に入ったんですよ? それをまた引きずり出そうって言うんですか!?」

「お前さん達がどう思おうと構わん。俺は俺のやり方でやる!」

シャムスンは、桜井が外国に旅立つという情報を与えられ、病室を飛び出します。

「私、待っててもいい? あんたが帰って来るまで……私、あんたが帰って来る日までにちゃんとした女になってる! だから……」

そんなシャムスンに、桜井は優しい笑顔を見せ、甘い言葉を囁きます。

「待つ必要なんか無いよ。一緒に行こう。な? いつか言っただろ? 本当にシャムスンのある所へ……そこへ一緒に行こうって」

「一緒に?」

「そうだ。一緒だ」

シャムスンがすっかりメロメロになったところで、桜井は覚醒剤の包みを取り出し、こう言います。これを売って外国行きの資金を作るから、買い手を紹介してくれと……

かくして組織との接触に成功する桜井ですが、残念ながら……いや、天罰が下ったと言うべきか、正体がバレてしまいます。

「シャムスン、お前はハメられたんだ」

「ハメられた?」

「利用されたんだ、このデカに!」

組織の連中から真実を聞かされ、シャムスンはしばしボーゼン、そして自嘲の笑みを浮かべ、囚われた桜井を冷たく見下ろします。

鬼! 悪魔! 畜生! 濃い顔! せっかく芽生えた未来への希望を、この濃い顔の男に全て奪われたのです。

「私にこの人ちょうだい……今度こそ本当にあの世に行く。この人と一緒に……」

2人で心中してくれりゃ好都合って事で、連中はシャムスンにナイフを手渡します。

「あんたのせいよ……あんたがいけないのよ」

ためらう事なくシャムスンは、桜井の腹にナイフを突き刺します。一切抵抗せず、黙って潔く刺される桜井。縛られて抵抗出来ないし、猿ぐつわされて声が出せないだけかも知れないけどw

……と、その時! 桜井の持ち物から、組織の連中がある物を発見します。それは、赤い表紙の小冊子2冊。

「パスポートだ。ヤツとシャムスンの」

「!?」

シャムスンは理解します。やっぱり桜井は、本当にシャムスンと一緒に旅立つつもりだった! 刑事の職を捨てる覚悟で……

「知らせてあげる。あんたの仲間に」

シャムスンの言葉を聞いて、初めて桜井が、首を激しく横に振ります。

桜井の仲間、つまり特命課の刑事たちがアジト(ビル)の外まで来てるのに、部屋が特定出来ず踏み込めないでいる。4階にあるこの場所を知らせるには……

桜井は涙を流しながら止めようとしますが、どうする事も出来ません。

「本当に連れてってくれるつもりだったんだね、私の国に……私、それだけでいい。後のこと全部ウソでも……それだけでいいんだよ」

そしてシャムスンは、窓ガラスを突き破って……

外で待機してた紅林と神代課長(二谷英明)が、落下して来る女の姿を目撃します。

「シャムスンだ!」

「4階! 4階の西側だっ!」

かくして、覚醒剤組織は特命課によって制圧され、桜井は無事救出されます。もちろん、ナイフで刺された位でライダーは死にません。

シャムスンの面倒を見てたスナックのママ(横山リエ)は、桜井を人殺し呼ばわりして非難しますが、例の町医者がボソッと呟きます。

「知っていたのかも知れんな、シャムスンは」

そして、桜井にだけ告げていた、ある事実を告白するのでした。

「シャムスンはとっくに死んでた。いや、死んでもおかしくない体だったんだよ」

だけどシャムスンは、桜井を愛することで持ち直した。桜井は、危険を冒してでも事件を早く片付けて、彼女を少しでも長く生きさせようとしたワケです。本当に刑事を辞めて、残りの時間を一緒に過ごすつもりだった。

それが、桜井という男なんですね。藤岡弘さんが演じなければ成立しないキャラクターです。

「帰って行くようだな……生まれた所へまっすぐ帰って行くようだ」

シャムスンの葬儀に参列した神代課長が、焼却炉から空に向かっていく煙を見上げて、傍らにいる紅林に言いました。

「シャムスンだよ」

その煙が向かう先に見えるのは……

「太陽?」

「シャムスンというのは、太陽という意味だ」

「そうですか……太陽なんですか」

シャムスンは、桜井に殺されたんじゃない。きっと彼女は、助けてもらったと思ってる筈です。あの、濃い顔の男に……

このエピソードを経て、荒くれ暴走刑事だった桜井が、徐々にマトモな刑事へと進化して行きます。桜井自身もまた、シャムスンに救われたのかも知れません。
 
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