『刑事珍道中』と同じく、角川映画の異色作にして「隠れた名作」とも言われてる、1979年公開の作品です。これも斎藤光正監督がメガホンを取られ、日テレ青春ドラマ&刑事ドラマのキャストがたくさん出演されてます。
原作者=横溝正史さんが自ら顔を出して「この恐ろしい小説だけは、映画にしたくなかった……」なんて、身も蓋もない事をおっしゃるTVスポットも話題になりました。角川書店のそういった戦略センスが、時代の空気を見事に掴んだ絶頂期でしたね。
だけど、私自身は進んで怖いものを見たい観客じゃないもんで、そのCMに釣られたワケではなく、本作を劇場まで観に行ったのは『太陽にほえろ!』のボンボン刑事=宮内 淳さんが重要な役で出演されてたからです。
まだ『太陽~』出演中の時期で、本来ならば掛け持ち出演は御法度なんだけど、『太陽~』でもレギュラー監督陣の一角を担ってた斎藤監督の熱烈なラブコールにより、例外的に実現したキャスティングでした。
斎藤監督が宮内さんに白羽の矢を立てられたのは、もちろん俳優としての力量や人柄を見越しての事でありつつも、同時に角川映画らしい「仕掛け」を目論んでの事だったと、私は推理します。
説明するまでもなく、本作は名探偵・金田一耕助が活躍する横溝ミステリーの一編ですから、真犯人が意外な人物であればあるほど、クライマックスは盛り上がるワケです。
もう40年近く前の映画ですから、ネタをバラしちゃいますが……
あの当時『太陽にほえろ!』は視聴率が常時30%を超える絶頂期にあり、その中でも宮内淳さんはブロマイドの売り上げトップ1を何ヶ月も独走するほど、アイドル的な人気を集めてました。
しかも宮内さん演じる「ボン」は、劇中に登場する刑事達の中でも一番のお人好しキャラで、大袈裟に言えば「日本で最も連続殺人犯のイメージから遠い男」だったワケです。
『太陽~』が俳優デビュー作で、掛け持ち出演は基本的に許されなかった当時の宮内さんは、まだ「ボン」の純朴なイメージしか世間に認知されてない。ゆえに、それを逆手に取って……
もはや言うまでもなく、宮内さんは真犯人の役を演じられたワケです。映画の冒頭で、犯人が連続殺人へと至る発端となる出来事が描写されて、誰だか判らないようシルエットで撮られてるんだけど、ファンが見れば独特な走り方と声で、宮内さんだってすぐに判っちゃうw
それはご愛嬌としても、女性の股間から鮮血が床一面に広がり、階段へと流れ堕ちていく、この冒頭シークエンスはとても衝撃的だし、不吉な内容を予感させる素晴らしい演出だったと思います。
(ちなみに古谷一行さんが金田一に扮する連ドラ版では、宮内さんと同じ役をスコッチ刑事こと沖 雅也さんが演じておられました)
さて、この映画が良くも悪くも話題になり、横溝ミステリーファンの間じゃ賛否両論に分かれてるのは、金田一耕助を演じてるのが西田敏行さんだから。
金田一ミステリーは好きだけど、それほど金田一探偵に思い入れがあるワケじゃない私から見れば、西田さんの金田一は結構ハマってたように思います。それより、私のお目当てはボンボン刑事だったしw
それに、原作者である横溝氏が自ら「この恐ろしい小説…」って仰った通り、内容はとてつもなくドロドロした人間関係と、救いようもない愛の悲劇が描かれてますから、西田さんの明るさや人懐っこいキャラが、どれほど救いになったか分かりません。西田さんで良かったですよホントに。
簡単に書くと、戦後の混乱期に伯爵だか子爵だかがいる華族の屋敷内で、肉欲に溺れた男女が近親相姦を繰り返した挙げ句、生んじゃいけない子供を何人も生んじゃった。
で、それぞれ余所の家に引き取られた男の子と女の子が成長し、お互いそうとは知らずに愛し合ってしまう。知ってしまった時には子供を宿してて、絶望した2人は自らの手で堕胎しちゃうんですね。それが冒頭のシーン。
法律では裁きようのない罪を裁く為に、2人は復讐を誓ったワケです。もちろん、最後には自らの罪をも裁くべく……
悲劇はこの2人だけじゃないんです。金田一に調査を依頼した少女(斎藤とも子)は華族の末娘で、その汚れきった血が自分自身の身体にも流れてる事を、彼女も知る羽目になっちゃう。
そんな彼女を気遣い、犯人兄妹にも同情を寄せながら真相を暴いていく金田一。彼にとっても又、これは生涯において1、2を争うツラい事件だったかも知れません。
だから、癒しキャラの西田局長でないとこの映画はツラいんです。斎藤とも子さんの清楚な魅力も実に効いてましたね。本当に切なくて、泣けて来ちゃいます。
あと、事件の元凶とも言える、近親相姦の末に彼女らを産んだ母親役の、鰐淵晴子さん! 妖艶でありながら、無垢な幼女みたいに頼りない感じもあって、めちゃくちゃ説得力があるんですよね。一番ヤバいのはこういう女だよなあっていうw
宮内さんと禁断の恋に墜ちる妹を演じたのは、二木てるみさん。黒澤明監督の『赤ひげ』(’65)で史上最年少(当時)の助演女優賞に輝いた天才子役が、本作で宮内さん相手に濃厚な濡れ場&ヌードを演じておられます。
お馴染みの等々力警部には夏八木勲さんが扮するほか、池波志乃、梅宮辰夫、浜木綿子、中村玉緒、藤巻潤、三谷昇といった人達が脇を固め、青春シリーズから中村雅俊さんや秋野太作さんもカメオ出演されてます。もちろん角川社長も、そして横溝正史さんまで!w
山本邦山&今井裕によるサウンドトラックも素晴らしくて、この映画はホント、市川崑監督&石坂浩二主演のシリーズにも引けを取らない、まさに「隠れた名作」だと思います。
最近になってようやくDVD化されましたんで、興味がおありの方は是非!









タイトルは「デカチンどうちゅう」と読みますw
脚本=鎌田敏夫、監督=斎藤光正と言えば角川映画『戦国自衛隊』のコンビですが、それ以前に日本テレビの『青春』シリーズや『俺たち』シリーズ、そして『太陽にほえろ!』でも数々の名作を残された二大巨匠でもあります。
『ニッポン警視庁の恥と言われた二人組/刑事珍道中』(’80) はこのお二方に加えて、企画に岡田晋吉プロデューサーも名を連ね、キャスト陣も『青春』『俺たち』『太陽』とほとんど同じ顔ぶれですから、まるで日テレ製作の映画みたいに感じるんだけど、なぜかこれは角川映画だったりします。
松田優作主演『野獣死すべし』と2本立てで公開され、私も当時映画館で観ました。『野獣死すべし』と言えば精神を病んだ元戦場カメラマンによる犯罪と、その末路を描いた超シリアスな作品です。それとこの『刑事珍道中』の組み合わせってのがまた、凄いコントラストでしたw
優作さんが角川で『蘇る金狼』を大ヒットさせた次の作品って事で、メインは『野獣死すべし』で『刑事珍道中』は添え物みたいな扱いでしたけど、蓋を開ければ「デカチンの方が面白い!」「角川映画の隠れた傑作!」といった声が聞こえるほど、実は評判の良かった作品なんですよね。
実際、私はDVDやCATVで4~5回はこの映画を観てるんだけど、何回観ても笑える! 公開から30年も経ってるのに、ちっとも色褪せてないんです。
ドジな刑事コンビ=中村雅俊&勝野 洋が手柄を競いながら事件を解決するという、何の変哲もないお話なんだけどw、それで4~5回観ても飽きないんだから、如何にコメディとして良く出来てるかって事ですよね。
先日CATVで放映されたのを観てて、これはまるでコメディの教科書みたいな作品だ!って、あらためて感心させられました。
1つ1つのオチは、簡単に読めたりするんです。人を笑わせたり泣かせたりするには、意表を突いてやるのが一番効果的だし手っ取り早いと思うんだけど、この映画はそれをしない。あくまで正攻法なんです。
例えばドリフの「志村!後ろ!後ろ!」とかダチョウ倶楽部の「押すなよ!絶対押すなよ!」みたいな黄金パターンばっかりなんですよね。例えは良くなかったかも知れないけどw
ろくに犯人を逮捕した試しがない2人に、いつもカミナリを落とす課長(金子信雄)が、机をバンバン平手で叩くんだけど、そこに画鋲が転がってるワケですよw
最終的にその画鋲が手に刺さってアイタタタ!ってなるのは100%明らかなのに、それでも笑っちゃう。オチが分かってて笑うワケだから、観るのが2回目であろうが3回目であろうが同じなんです。
雅俊さんが犯人の情婦に誘惑され、マンションの部屋で2人きりになって「シャワーを浴びて来て」とか言われちゃう。もちろん犯人が仕掛けた罠です。
バカだからすっかりウキウキ気分でシャワーを浴びてる雅俊さんと、ベッドルームで犯人に殺される情婦、そして犯人から通報を受けた課長ら刑事部隊が部屋へ急行する姿が、カットバックで描かれる。
部屋に着いた課長らが情婦の遺体を見つけると同時に、半裸の雅俊さんが満面の笑顔でシャワー室から登場し、課長と鉢合わせw
100%そうなる事が分かってるのに、何回観ても笑っちゃう。見せ方(脚本、演出、撮影)と俳優さんの芝居が、まさに完璧だからこそ笑えるんだと思います。
こういった笑いは、万国共通だし時代の変化にも影響されません。チャップリン映画と同じで、台詞を翻訳しなくたって映像だけで世界中の観客を笑わせる事が出来る筈です。
今、こういう喜劇を創れる人って、かなり少ないですよね。日本だと三谷幸喜さんぐらいしか思い浮かびません。
まず元ネタありきの小ネタで笑いを取る、クドカンさんや堤幸彦さんとは質が全く違います。元ネタを知らない海外の人が『あまちゃん』を観ても、ほとんど笑えないだろうと思います。
『あまちゃん』が好きな人は『刑事珍道中』の笑いを「古臭い」って感じるかも知れないけど、10年先、20年先に両作品を観比べて、果たしてどっちが古臭く感じるか? きっと面白い現象が起こりますよ。
別にクドカンよりもデカチンの方がいい!って、決めつけてるワケじゃありません。そりゃあ、デカいに越した事はないけれど。
同じコメディでも質がそれだけ違うんだって事を言いたいだけで、どっちを好むかは人それぞれの感性で良いと思います。
それはともかく、本作は青春ドラマのスタッフ&キャストが集結してるだけあって、ただのドタバタ喜劇に収まる事なく、ちょっとホロリとさせられる青春映画にもなってます。
そして藤谷美和子、大楠道代、風祭ゆき、木ノ葉のこ等、時代を彩った女優さん達が登場し、それぞれヌードや水着、下着などセクシーな姿を披露してくれたりもします。
例によって角川社長もカメオ出演してるんだけど、シャレの効いた使われ方で、クスッと笑えます。春樹さん、絶好調でしたねw
音楽は近田春夫さんが担当し、主題歌「マーマレードの朝」は桑田佳祐さん作詞・作曲で、雅俊さんが唄っておられます。