ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『大追跡』最終回

2018-10-28 18:00:16 | 刑事ドラマ'70年代









 
☆第26話『サヨナラは銃弾で……』(終)

(1978.9.26.OA/脚本=柏原寛司/監督=村川 透)

『大追跡』はとにかく「アクションで魅せる」っていうコンセプトが初回から徹底してて、'70年代の作品とは思えないほどドラマ性が無くw、早くから'80年代の軽いノリを先取りした番組とも言えます。

特にシリーズ後半は抜群のチームワークによる掛け合い、アドリブから生まれた「オットー!」に代表される流行語など、ノリだけで突っ走ってる印象が強く、その姿勢は最終回でも変わりませんでした。

敵がいつもよりちょっと大物で、格闘・カーチェイス・銃撃戦と、アクションのバリエーションが豊富なのは集大成的意図があったかも知れないけど、例えば身内が殺されて復讐に燃えるみたいな熱いドラマは皆無で、いつも通りのノリで事件を解決するいつも通りの「遊撃班」が描かれました。

それはそれで『大追跡』らしくて良いんだけど、有終の美を飾るには何だか物足りない。だからかどうか分からないけど、事件解決後に刑事たちがプライベートタイムを楽しむ「カーテンコール」みたいなオマケがつき、そこが最終回の見所となりました。

新田班長(加山雄三)はメンバー全員から「お疲れ様でした」の寄せ書きを貰い、矢吹(沖 雅也)はなぜか射撃訓練場で婦警たちから花束を貰い、滝本(柴田恭兵)はディスコでフィーバー、そして水原(藤 竜也)はタキシード姿で美女(中島ゆたか)とデートし、結城(長谷直美)に至っては映画『最も危険な殺人遊戯』に出演中のアクションスター・松田優作と撮影所で落ち合い、キスをし、通りすがりの阿藤 快をフルボッコにして去って行くというw、本編とは全く関係ない意味不明なノリで幕を閉じるんですよね。

これは最終回を演出した村川透監督(ご本人もカントク役で出演!)が、ちょうど優作さん主演の映画『殺人遊戯』(中島ゆたかさんもご出演)を同時期に撮影中だった事から、ノリで優作さんと中島さんが特別出演されたんだとか。

東宝製作の『大追跡』で東映公開の『遊戯』シリーズを宣伝しちゃうという、通常ならあり得ない事態がまぁ、最終回ならではのサプライズと言えましょう。

とはいえ『大追跡』と『遊戯』シリーズは共に大野雄二さんが音楽を担当しており、同じ曲を流用し合ってるという接点が元からあるんですよね。だからそんなに違和感はありません。

とにかく楽しくて、すこぶる格好良い番組でした。でも、濃密な人間ドラマやメッセージを伴う'70年代ドラマを大量に観て育った我々世代からすると、ただ楽しくて格好良いだけの作品は物足りない。

それでも観賞に耐えうるのは、藤竜也、沖雅也、柴田恭兵という、抜群にアクションが映えるスターが揃ってるから。そんなスターがいなくなっちゃった現在では、もはや成立しない作品です。

もう二度と、こういうドラマは観られない。貴重な文化遺産と言っても過言じゃないと、私は思います。
 
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『大追跡』#19―2

2018-10-28 12:00:16 | 刑事ドラマ'70年代









 
ちり紙交換業者の横光(丹古母鬼馬二)が富裕層の主婦たちから依頼を受け、その亭主たちを夜な夜な暗殺してるのは間違いないんだけど、残念ながら証拠が無い。

水原刑事(藤 竜也)は結城刑事(長谷直美)と組んで横光を尾行しますが、あまりに堂々とつけ回すもんだから横光にはバレバレです。

「ねぇ、こんなおおっぴらに尾行しちゃっていいの? こっち見てるわよ?」

「いいんだよ」

「水さん、警察学校行き直した方がいいんじゃない?」

「結城、穴の中のタヌキを追い出すにはどうしたらいいか分かるか?」

「ええ?」

「いぶり出すに限るんだよ」

例によってニヤリと笑う水原は、どうやら横光にわざと自分の存在をアピールしてる。横光が仕事帰りに居酒屋で安酒を呑めば、その隣に座って彼を挑発します。

「県警の水原ってんだ。あんたが殺し屋じゃねえかと思ってマークしてるんだけどさ」

「……冗談よして下さいよ。私は廃品回収業者ですよ」

「それは割れてるんだよ。割れてるんだけどさ、古雑誌や古新聞の他に人間も扱ってるんじゃねえかって、な」

「へっ、へへへ、なんの事だか私にゃサッパリ分かりませんよ」

「へへ、そうか、上等だよ。しらばっくれるのも今の内だな。娑婆でのんびり酒呑んでんのも今の内だぞこの野郎。呑み過ぎて先にくたばんなよ、おい」

去り際には横光のもじゃもじゃ頭を掻きむしり、わざと怒らせて自分に刃を向けさせようって寸法です。

挑発に乗った横光は翌日、食堂のトイレで水原を襲撃します。金属製っぽいワイヤーで、ロデオよろしく標的の首に引っ掛けて吊り上げるという、如何にも野人=横光らしい手口。

「き……貴様……そうやって絞め殺したんだろ……」

格闘や射撃なら百戦錬磨の水原だけど、予想外の野人攻撃になす術なく、あわや窒息死寸前のところに一般人がオシッコしに来てくれたお陰で、横光はトドメを刺せないままガラスを突き破って逃走します。

「……ついにいぶり出してやったぞ、この野郎……」

その頃、遊撃捜査班の刑事部屋では、新田班長(加山雄三)が失踪した宇津木社長の妻=章子(稲野和子)を取り調べ中。彼女の依頼で宇津木社長は横光に殺されたワケですが、当然ながら簡単には口を割りません。

真相は食事をしてから話すという章子に、一番若手の滝本刑事(柴田恭兵)が注文を伺います。今や俳優界の重鎮になりつつある恭兵さんが、このドラマじゃまだまだ新米で、パシり扱いなのが何だか新鮮です。

「奥さん、なに食うの? いや、奥様、何になさいましょうか? えっとね、カツ丼とかラーメンライスとか美味い店あるんスよ」

「レストラン・トゥーブルターニのシェフに電話して下さる? オードブルはペリゴルサンフォアグラニスモークサーモン、それとトリフのスープ、メインディッシュはラングースとアラポトス、ワインはル・モンラッシュお願いするわ」

「マングースのポテトチップとか何とか言ってるけど」

滝本のボケに、すかさず矢吹刑事(沖 雅也)がツッコミを、そして結城が合いの手を入れます。

「ポテトチップじゃない、ラングースとアラポトスだ」

「なんスか、それ」

「何だろうね?」

「ステーキでいいんじゃない?」

「ス・テ・キ!(拍手)」

実に下らないんだけどw、メンバーの息がピッタリで観てると楽しいんですよね。このノリが『俺たちは天使だ!』にも活かされ、更に『あぶない刑事』へと受け継がれて行く事になります。

「全てお話しますわ。主人は蒸発など致しておりません。わたくしが殺しました」

素敵なステーキを平らげた章子は、なぜか自分が夫殺しの犯人であると主張し始めます。どうやら守秘義務を破る事は横光に消される事を意味するようで、死ぬよりは刑務所の方がマシと判断したのでしょう。

と、そこに水原が首にくっきりアザをこしらえて戻って来ます。

「横光がシッポ出したぞ」

その言葉を聞いて、章子は顔色を変えて叫びます。

「こ、殺したのは私です! 私が殺したんです!!」

その反応は逆に、横光が真犯人である事を裏付けてるようなもの。確信を得た遊撃捜査班は、例の仕切り場に宇津木社長の死体が隠されてると見込み、全員で捜索を開始します。

だだっ広い敷地に無数の廃品が散乱しており、此処で死体を見つけ出すのは至難の業と思いきや、プレハブ小屋の電気メーターが回っているのを結城が発見します。

ドアノブを拳銃で撃ち壊し、小屋に入った水原と結城は、地下室に巨大冷凍庫があるのに気づきます。

「おい、メーターがキ○ガイみたいにグルグル回ってたのはコイツのせいだぞ」

「仕切り場に冷凍庫っていうのはおかしいんじゃない?」

「おかし過ぎるよ」

「わぁ、涼しい」

冷凍庫に入って呑気な感想を述べる結城ですが、すぐに悲鳴を上げる羽目になります。庫内には、失踪した男たちの死体が無数に冷凍保存&展示されてるのでした。もちろん、水原が救えなかった宇津木社長も凍りついてます。

「宇津木さん……落とし前つけてやるからよ」

結城に呼ばれて、新田、矢吹、滝本も庫内に入って来ます。

「どういう事ですかね? 殺した死体を凍らせて、それを又こうやって保存しておくってのは……」

あまりにも異常な光景に疑問を抱く矢吹ですが、仏頂面の新田が事も無げに言います。

「ネコロフィリアだな、奥田という男は」

「何スか、そのネコ何とかって」

「死体愛好者の事だ。外国ではこのテの猟奇犯罪は珍しい事じゃない」

「へえ~、日本の犯罪もいよいよ世界レベルに近づいたというワケか」

滝本がトボケたこと言ってる間に、外側から何者かが冷凍庫の扉を閉めちゃいます。もちろん、内側から開く事は出来ません。

「しまった!」

「横光……アンニャロウだよ」

何とかして脱出しないと、遊撃捜査班のメンバーも全員アイス人形になっちゃいます。

「ダクトからの冷気が止まった時にサーモスタットを吹き飛ばせば、冷気は完全に止まるな。サーモスタットを探せ。滝本、拳銃の弾丸から火薬を集めろ」

さすが班長の新田、仏頂面をピクリとも動かさず指示を出します。言われるまま拳銃の弾丸から火薬を抜いて集める滝本は、寒さに震えながら隣で作業を手伝う結城に言い放ちます。

「結城さん、あんまり寒くないでしょ」

「なんでよ?」

「脂肪ついてるから」

「バカ」

明らかにこれも恭兵さんのアドリブで、直美さんのリアクションも手慣れたもんですw

『俺たちは天使だ!』でも恭兵さんは直美さんを「太ったゴキブリ」と形容するなど言いたい放題w あのアドリブ帝王の松田優作さんでさえ「恭兵にだけは適わないよ」と脱帽されてたそうです。

やがてサーモスタットが見つかり、冷気も収まって来ます。

「止まった。矢吹!」

矢吹がパイソン357マグナムでサーモスタットを吹き飛ばし、冷凍庫の冷却機能は完全に停止しました。

仕切り場の管理人で「ネコ何とか」の奥田(横森 久)が、冷凍庫の外側でうろたえます。

「し、死体が……私の死体が溶ける!」

さらに新田は、滝本が集めた火薬をハンカチでくるみ、扉の隙間に挟み込みます。それを再び矢吹がパイソンで撃ち、扉を吹き飛ばして脱出!

だったら別にサーモスタットはぶっ壊さなくて良かった気もしますがw、まぁあらゆる手を尽くすに越した事は無いって事でしょう。

慌てて逃げ出す奥田を、新田班長が背後から1発で射殺します。当時のアクション刑事ドラマじゃ犯人射殺は珍しい事じゃないんだけど、警告もせず無言で背後から撃っちゃう刑事は珍しいかも知れませんw

そんな冷酷非情な新田さんの使用拳銃は、コルト・トルーパーの銃身を2.5インチに切り詰めたオリジナルのカスタムプロップで、なかなかレアな代物です。

ほか、水原と滝本がトルーパーの4インチ、矢吹がパイソンの6インチ、そして紅一点の結城はベレッタM1934(電気発火式プロップ)という、これまた日本の刑事ドラマとしてはレアな拳銃を使っておられます。

さて、ここから5分以上に渡って、ノンストップで展開するアクションシークエンスが本当に素晴らしい!

廃品回収のトラックで仕切り場内を逃げ回る横光を、遊撃捜査班のメンバー全員が全力疾走で、延々と追いかける。刑事をやたら走らせる事で知られる『太陽にほえろ!』でさえ、これだけの長時間をノンストップで全力疾走させた例は無かったように記憶します。

藤さんも沖さんも恭兵さんも、走る姿が本当に画になるし、実際かなり足が速いんですよね。

とにかく走って走って、廃品の上を飛び回り、拳銃を撃ちまくってまた走る。恭兵さんは高所から走るトラックの荷台に飛び降り、トラックは恭兵さんを荷台に乗せたまま掘っ建て小屋に突っ込む!

ヤケになった横光は、卑劣にも紅一点の結城をひき殺そうとしつこく追い回す! 怒りに燃える男たちの銃弾が横光めがけて一斉に降り注ぎ、最後は水原がボンネットに飛び乗ってトドメの1発!

至近距離から眉間を撃ち抜かれ、さすがの野人もついに陥落、廃品の山に突っ込んでようやくトラックは停止、耳に馴染んだアナウンスが虚しく鳴り響きます。

「毎度お騒がせしております。こちらは、お馴染みのちり紙交換車でございます。ご家庭でご不要になった……」

野人の最期を見届けた遊撃捜査班メンバー5人が、無言のままGメン歩きで去って行く後ろ姿が、実にハードボイルドで格好いい! けど、野人の死体は誰が回収するんでしょうか?w

さて後日、横光に亭主の暗殺を依頼した妻たちが、続々と神奈川県警に連行されて来ます。そのメンツがやけに豪華で、伊佐山ひろ子さん、山口美也子さん、田口久美さんといった、普段はメインゲストで呼ばれる女優さん達が、このワンシーンだけの出演で一堂に集結!

「電話の取り次ぎも満足に出来ないのか……主人はそう言ってわたくしを怒鳴ったんです」

「あの人は、わたくしの帰宅時間が少しでも遅れると凄く怒るんです。わたくし、主人の所有物ではありませんから」

「イビキと歯軋りが酷いんですの、ウチの主人は」

「主人が3年前、私に向かって言ったんです。ブスだって」

「主人の食事の仕方って、とっても下品ですの」

「お前は俺が食わしてやってるんだって、そんな主人の思い上がりがイヤでイヤで……」

「一言で言えば、性的不一致ですわ」

……というのが、妻たちが夫を抹殺しようとした動機なのでした。

ウクレレで加山雄三の歌を弾き語りしながらw、滝本が刑事部屋でぼそりと呟きます。

「俺さ……結婚なんかしないんだ」

元より女性が苦手な矢吹も同調します。

「女ってのはやっぱり、怖いよな……」

メンバー達の視線が、自然と紅一点の結城に注がれます。

「なによ? 私はね、そんな女じゃありませんからね」

すると素晴らしいタイミングで外から聞こえて来る、あのアナウンス。

「こちらは、お馴染みのちり紙交換車でございます……」

「おっと、ちょうどいい」

動き出した結城を見て、男たちが慌てます。

「おい結城!」

「待て、早まるな!」

「滝本、お前いつも結城のこと傷つけるだろ、女らしくないとかさ!」

「そんな事は言わないでしょ!」

「キミたち2人が悪いんだよ!」

「何を言ってんのよ? 貯まってる新聞紙を持ってってもらうのよ!」

「オットットーッ!!」

こうして文字に起こすとホント下らないんだけどw、毎週観てるとこのノリがクセになって来るんですよね。「オットー!」もやはり恭兵さん発信によるお約束フレーズなんだけど、今回は最後の最後に登場しました。

男から見てもセクシーな男たちが、全力で走って跳んで撃って、大真面目にフザケてる。こういうドラマ、すっかり観られなくなっちゃいましたね。ホント素晴らしい時代でした。
 
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『大追跡』#19―1

2018-10-28 00:00:18 | 刑事ドラマ'70年代









 
子供の頃、我が家じゃ夜9時以降のテレビ鑑賞が禁止されてましたから、『大追跡』(火曜夜9時、日本テレビ系列)はリアルタイムで観てません。クラスメート達がしきりに「オットー!」とか言っても、何の事だか私にはサッパリ分かりませんでしたw

だから、そんなに強い思い入れは無くて、『太陽にほえろ!』ほど詳細なレビューは出来ませんm(_ _)m 第19話を選んだのも、数年前のCS放送を録画したのが、たまたまHDDに残ってたから。ゆえに画像には「ファミリー劇場」のテロップが入ってますm(_ _)m

この録画を消さずに残してたのは、クライマックスにおけるアクションシーンが、何回でも観たくなる素晴らしい出来映えだったから。数多ある当時のアクションドラマの中でも、『大追跡』のアクションはトップクラスのクオリティーを誇ってました。

それはやっぱり、藤 竜也に沖 雅也という、アクションがずば抜けて画になる素晴らしいスターが揃ってた事が、何より大きいかと思います。特に沖さんは、スコッチ刑事とはまた違ったホットな魅力をこのドラマで見せつけ、新境地を開拓されてその人気を決定づけました。

そして更に、後の『俺たちは天使だ!』や『プロハンター』『あぶない刑事』にも受け継がれて行く、独自のノリによる軽快な台詞のやり取り。それら全ての作品に出演されてるのが柴田恭兵さんで、明らかにこの人のアドリブが発信源になってるんですよね。

そんな恭兵さんを連ドラのレギュラーキャストとして初めて起用した点でも、この『大追跡』っていう番組の功績は大きかったと思います。

それらの魅力は、残念ながら文章で伝えられるもんじゃないんだけど、その雰囲気だけ少しでも感じて頂ければ幸いです。


☆第19話『ご不要な亭主 始末します』

(1978.8.8.OA/脚本=永原秀一、柏原寛司/監督=櫻井一孝)

ちり紙交換車って、今も町内を回ったりしてるんでしょうか? 久しく聴いてないこのアナウンス、昭和の時代はしょっちゅう耳にしたもんです。

「ご町内の皆様、お騒がせしております。こちらは、お馴染みのちり紙交換車でございます。ご家庭で、ご不要になりました古新聞、古雑誌……」

このアナウンスを聴いた町の奥さん達が、ちり紙と交換する為に差し出すのが古新聞や古雑誌じゃなくて、古亭主だったとしたら?w これは、そんな恐ろしい(だけど妙にリアルな)お話です。

高級住宅地に住む富裕層の男たちが次々と失踪し、神奈川県警・遊撃捜査班の水原慎介(藤 竜也)は殺し屋が暗躍していると睨み、横光(丹古母鬼馬二)というちり紙交換業者に眼をつけます。

その読みは的中し、横光は会社社長・宇津木の妻=章子(稲野和子)を訪ねて密談します。

「主人は間違いなく、ナニして貰えるんでしょうね」

「心配するなよ。すぐナニしてやるよ。でないと、次のお得意をアンタに紹介してもらえなくなる」

どうやら横光は、金持ちの主婦たちによる口コミで暗殺の仕事を得ているらしく、その点も水原は見抜いてる。

だけどあまりにも常識外れな水原の推理に、遊撃捜査班・班長の新田英一(加山雄三)は懐疑的で、その根拠を示すよう要求します。

「根拠? 調べてみるとな、この女たち皆どっかで繋がりがあるんだ。お茶、踊り、美容体操、テニスクラブ、そういう所で知り合ってるんだ」

トライデントのガムを噛みながら、水原は上司である新田にタメ口を叩きます。年齢も階級も自分が下だけど、そういった組織の枠に一切囚われない水原は、捜査の為なら情を捨てちゃう新田の刑事バカぶりが気に食わず、ずっと反発してるんですね。

「しかも女たちに共通してるのは、亭主以外にも男がいるっていう事だな。つまり、浮気だ」

「殺し屋を紹介し合って、次々とご主人を蒸発させちゃってるワケ?」

興味深げに口を挟んだのは、紅一点の結城佳代子(長谷直美)。アイドル歌手から『俺たちの朝』で女優に転身し、本作はレギュラー出演第2作目。既に『太陽にほえろ!』にもセミレギュラーとして参加されてました。

何だか楽しそうな結城とは対照的に、新田班長は仏頂面で応えます。

「水原。我々は今、麻薬密売の大物・坂口逮捕へあと一歩のとこまで来てるんだ。そっちが先だ」

「こっちは殺しだぜ、おい?」

『若大将』シリーズの爽やかイメージを払拭したかったのか、新田を演じる加山雄三さんは終始無表情で、クールと言うよりも「いつも不機嫌なオッサン」にしか見えず、このドラマではちょっと浮いた存在のように私は感じました。

対する藤竜也さんは、逆にそれまで演じて来た無口でクールなキャラクターとは違う、ホットでお茶目なこの水原刑事役を魅力タップリに演じられ、見事イメチェンに成功されたように思います。

新田の命令を無視して、水原は単独で横光をマークし、次なる殺しのターゲット=宇津木社長が深夜に吉沢町の仕切り場(回収した廃品を整理・取引する場所)に侵入する所まで追い掛けますが、途中で見失います。

だだっ広い仕切り場を必死に探し回る水原は、今まさに殺しを終えたばかりの横光と鉢合わせします。放映日が真夏の8月である事を意識してか、この深夜の仕切り場はかなりホラータッチで描かれており、横光を演じる丹古母鬼馬二さんは特殊メイク無しでもオバケにしか見えませんw

「……危ねえじゃねえか」

「…………」

「何か?」

「……別に」

「そうかい」

殺害現場を見てない以上、緊急逮捕するワケにも行かず、水原はそのまま立ち去る横光を見送るしかありません。仕方なく水原は殺しの痕跡を探しますが、死体も凶器らしき物も全く見当たりません。

と、いきなり水原が懐中電灯の光で照らされ、丹古母さん以上に不気味な管理人=奥田(横森 久)が登場します。

「ここは私有地だ。勝手に入ってもらっちゃ困る」

「おたく、ここの人?」

「ああ、ここは私の仕切り場だよ」

「あ、そうすか。どうもすいませんでした。あんまりこう、広いでしょ? 迷っちゃいましてね。繁盛してますねぇ」

「さっさと出てってもらおう」

不気味な外見だからってワケでもないでしょうが、奥田も殺しに関わってる事を水原は直感します。

「どうせお前もグルだろ。そのうちワッパ嵌めてやるからなこの野郎」

声の届かない距離でそう呟きながら、奥田にウインクしてニヤリと笑う水原。

この、ガムを噛みながらのニヤリ、がサマになる人はそうそういません。当時の藤さんは30代半ばですが、こんな芝居をして失笑を買わない30代の俳優……ていうか男は、現在の日本にはいないでしょう。

さて翌日、遊撃捜査班の若手コンビ=矢吹史朗(沖 雅也)&滝本 稔(柴田恭兵)は、新田の指示通り麻薬密売の大物=坂口のマンションを張り込み中。

沖雅也さんは同じ日活出身の藤竜也さんとも仲が良かったけど、ほぼ同い年の柴田恭兵さんとは殊の外ウマが合ったらしく、珍しくプライベートでも連絡を取り合うほど仲良しだったそうです。

沖さんもこの『大追跡』でハード&クールなイメージを払拭し、後の主演作『俺たちは天使だ!』(恭兵さんと直美さんも共演)へと繋がるソフト&コミカルな新しい魅力を開拓されましたが、それは恭兵さんの自由奔放な芝居に触発された部分もかなり大きかったみたいです。

「坂口が来ました。出口を塞ぎます!」

無線でそう言って車を発進させる紅一点の結城。演じる長谷直美さんはA級ライセンス所持者でスピンターン等の荒技も軽くこなせる人だけど、ここではほんの数メートル前進しただけでしたw

「坂口さん。お早うっス」

「はじめまして。動くな!」

駐車場に車を停め、降り立った坂口を矢吹と滝本が銃を向けて歓迎します。矢吹の使用拳銃はコルト・パイソン6インチ、滝本はコルト・トルーパー4インチで、共に357マグナム弾を使用するリボルバー。

すかさず車に戻って逃走しようとする坂口に、357マグナムをやたら撃ちまくる矢吹&滝本の軽やかな姿は、まるで後の『あぶない刑事』の港署コンビ=ダンディー鷹山(館ひろし)&セクシー大下(恭兵さん)の若手時代って感じです。

しかし、さすが大物と言われるだけあって簡単に諦めない坂口は、出口を塞いだ結城の車に突っ込み、強引に押しのけて逃走します。

「どうしてくれんのよ、私のクルマ!」

「負けそうですね、これ」

「水さん、出番です!」

お手上げの『俺天』トリオは、更に離れた場所で張り込む水原に後を任せますが、昨夜は横光を追って徹夜だった水原、なんと車で気持ち良さそうに爆睡中でしたw

坂口はボロボロになった自分の車を捨て、水原が刑事だとは知らずその車に乗り込みます。銃を向けられ、仕方なく車を出した水原は反撃のチャンスを待ちますが、仲間から無線連絡が入ってアッサリ正体がバレちゃいます。

「てめぇ、デカだな? とぼけやがって!」

「ちょっと待て待て、早まるな! いや俺は確かにデカだ、しかしな、お前がさっきマンションで会ったデカとはひと味違んだよ、な!」

このドラマでの藤竜也さんは、ホントによく喋ります。このノリの良さが恐らく素顔の藤さんに近い姿で、それは沖さん、恭兵さん、直美さんも言える事です。だから、1人だけキャラを作り込んでる加山さんが、ちょっと浮いて見えちゃうんですよね。

「いや向こうはさ、今どき流行んないモーレツ刑事で、俺はサラリーマン刑事、ね。こういう危険なことが無いようにって毎日お祈りしながら出て来るのよ! ねぇやめてよ!」

そんな泣き落としが通用するワケもなく、水原は次の手を打ちます。

「あれ? あれえ? こりゃ参ったなぁ、おい」

「スピード落とせバカ! ブレーキ踏むんだ!」

「そのブレーキがぶっ壊れてんだっ!」

……というフリをして坂道を猛スピードで下った水原は、急ブレーキでよろけた坂口から一瞬で銃を奪い取り、愛銃トルーパー4インチと2丁の銃口を向けて、ニヤリ。

「ご苦労さんでした。騙して悪かったな」

かくして結果オーライ、麻薬密売の大物は逮捕されました。が……

「怒ってたわよ、新田さん」

「そう。坂口の捜査をほったらかして、どうしょうもない奴だ!」

遊撃捜査班の刑事部屋で、結城や矢吹が水原をからかいます。

「そう言ってたか。ハハ、上司が怖くてデカが勤まるか!」

「おっ、ずいぶん強気じゃないの」

「ふふん」

そこに素晴らしいタイミングで新田班長が戻って来ますw

「水原!」

新田のデスクに足を乗せてふんぞり返ってた水原が、慌てて立ち上がって頭を下げます。本格アウトローと言えども上司はやっぱ怖いんですw

「坂口の件に関しては俺が悪かった。謝る」

「そんな事じゃない。3時間ほど前に宇津木明子から亭主の捜索願いが港東署に出されたそうだ。当たってみろ」

つまり、宇津木社長はやっぱり消されてた。その直後に妻が捜索願いを出すのも、一連の失踪事件お決まりのパターン=横光の手口なんです。

水原は指を鳴らして、当時大流行したピンクレディーの振り付けを真似します。

「ウォンテッド!」

そしてまたニヤリ。こんな失笑スレスレの芝居も、多分みんな恭兵さんに乗せられてやっちゃうんでしょうねw

(つづく)
 
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