ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『はぐれ刑事純情派』1―#15

2019-02-16 12:00:13 | 刑事ドラマ'80年代









 
☆第15話『美人銀行員の完全犯罪』

(1988.7.13.OA/脚本=石松愛弘/監督=鷹森立一)

東和銀行の預金3千万円が不正に引き出される事件が発生。さらに数日後、同銀行に出入りするシステムエンジニア=今井(森田順平)が他殺死体で発見されます。

東和銀行には、安浦刑事(藤田まこと)の亡くなった妻の親友で、家族ぐるみの付き合いが今も続いてる小島さん(稲野和子)の一人娘=恵(北原佐和子)が勤めており、安浦は退勤後に恵と会って話を聞こうとしますが、彼女は守秘義務を理由に何も話そうとしません。

捜査を進めると、殺された今井は妻と別居中で離婚の噂もあったらしく、プライベートで恵と一緒にいるところも目撃されており、いよいよ彼女が事件に関わってることを疑わざるを得ない。

「年がら年中こんな事ばっかりしてるんです。まったく、イヤな稼業でね……」

母親=小島さんの許可を得て恵の部屋を調べながら、安浦が呟いた言葉です。単なる愚痴だし、表情も変えず抑揚もつけない、言わば棒読みにも関わらず、安浦のやるせない気持ち、死んだ妻への申し訳ない気持ちが痛いほど伝わって来るんですよね。

藤田まことさんはこういう芝居が本当に上手い! 今あらためて観ると、このシリーズが藤田さんの演技力と人間的魅力に支えられてたことがよく分かります。こういう何気ない芝居の1つ1つがボディーブローみたいに効いて来て、誰もが知らず知らず安浦刑事のことを好きになってしまう。まったく凄い役者さんです。

ところで安浦は、恵が就職する際に身元保証人を引き受けており、もし彼女が事件に関わってたら、不正に引き出された3千万円を自分が弁償する羽目になりかねません。

恵が頑なに口を閉ざす理由も、実はそこにありました。彼女は真犯人らしき人間から、それをネタに(事実が明るみに出れば安浦に損害が及ぶと)脅迫されてたのでした。

でも、母親の小島さんが自分の生命保険で償おうと自殺を図るに至って、ようやく恵は真相を安浦に打ち明けます。

恵はやはり今井と不倫関係にあり、オンライン開発の研究費と、妻との離婚で支払う慰謝料がどうしても必要だと彼に頼み込まれ、顧客のパスワード情報を漏洩させたのでした。

その証言により、事件は一気に解決へと向かいます。実は今井の妻(松井紀美江)も不倫しており、彼女はその相手(早坂直家)と共謀し、保険金狙いで今井を殺害した。例の3千万円もこの二人が横取りしたことが判明し、安浦はどうやら弁償せずに済みそうですw

新しい仕事を見つけて再出発すると言う恵に、安浦はあっけらかんとこう言います。

「保証人が必要になったら、いつでも言って来なさいよ」

そんな底抜けのお人好しさも、安浦刑事だとごく自然に感じられます。これもまた、藤田さんが演じればこそでしょう。

「お店を手放そうかと思ったんですけどねぇ」

高級バー「さくら」のママ=由美(眞野あずさ)は、安浦から3千万円の借金を打診されて、そこまで覚悟してたんだそうです。

借金の件は冗談だったと言って慌てる安浦に、由美はしれっとこう言うんですよね。

「私はね、冗談では聞けなかったの。そういう女もいるんですからね」

飛びっきりの美女にここまで露骨にアプローチされても、それから更に10年以上に渡って鈍感を貫き通す、安浦さんがいくらなんでもアホ過ぎますw だけどこれもまた、藤田さんが演じると自然なんですよねぇ。

今回、エピソード自体は凡庸と言わざる得ないけど、それでも『はぐれ刑事純情派』がなぜ大衆に長年支持されたか、その理由がこれ1本観ただけでもよく解ります。

まずは何と言っても前述の通り、藤田まことさんの名演によってさりげなく醸し出される、安浦刑事の人間的魅力。

それに加えて、ラストシーンにおける「さくら」ママに代表される、安浦を取り囲む女性たちの魅力。この何とも言えない居心地の良さ!ですよねw

亡くした妻はもちろん、彼女の連れ子=血の繋がらない娘2人(松岡由美、小川範子)も、同僚の田崎婦警(岡本 麗)も、そしてゲストキャラの女性たちもみんな、口ではキツイこと言っても安浦のことが大好きなんですよね。中年男性にとってこれ以上のドリームは無いですよホントにw

いや、女性にモテるだけじゃなくて、見るからに頼もしい横溝署長(梅宮辰夫)が常に支援してくれるし、同僚たちみんなに愛されて、昨今の刑事物にありがちな「主人公を目の敵にする」不快なキャラが1人もいない。理想の職場と言われた七曲署(太陽にほえろ!)でさえ署長はうるさかったですから、この居心地良さは異常とも言えます。

そんなファンタジー世界にもリアリティーを与え、決して嫌味に感じさせないのが藤田まことさんの凄さなんだと私は思います。

今回のゲスト=北原佐和子さんは当時24歳。雑誌モデル出身のアイドル歌手で「花の'82年組」のお一人。デビュー時から女優としても昼帯ドラマや時代劇など幅広く活躍し、刑事ドラマも『私鉄沿線97分署』のあゆみ(渡哲也さん扮する検視官の助手)役をはじめ『太陽にほえろ!』『大都会25時』『さすらい刑事旅情編』『愛しの刑事』など数多くゲスト出演。中でもこの『はぐれ刑事純情派』はシリーズ通算8回のご登場で、常連ゲストのお一人と言えましょう。
 
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『はぐれ刑事純情派』シリーズ '88~'05

2019-02-16 00:00:05 | 刑事ドラマ HISTORY









 
1988年から2005年まで(年1回のスペシャル版を含めると2009年まで)、別のシリーズと半年(末期は3ヶ月)交代で放映された長寿番組です。全18シリーズ(第8シリーズまではフィルム撮影)、スペシャル版含めて全444話に劇場版が1本。

テレビ朝日&東映の制作で、水曜夜9時枠の放映。つまり『特捜最前線』から後の『相棒』へと繋がる伝統の刑事ドラマ枠です。このシリーズの合間に宇津井 健『さすらい刑事旅情編』や柴田恭兵『はみだし刑事情熱系』等が放映されてました。

東京・山手中央署刑事課の名物刑事「やっさん」こと安浦吉之介(藤田まこと)の人間味あふれる捜査を描いた、人情系の刑事ドラマです。

藤田さんの他、梅宮辰夫(署長)、岡本 麗、ぼんちおさむ、島田順司(課長)らがレギュラー刑事を務め、若手刑事枠を木村一八、吉田栄作、西島秀俊、城島 茂、七瀬なつみ、ケイン・コスギ、賀集利樹、村上信五、植草克秀らが代々務めておられます。

私は知らなかったのですが、末期には加藤 茶、国広富之といった人らも刑事を演じられてたみたいです。あと、安浦が通い詰める高級バー「さくら」のママさんに眞野あずさ、安浦の娘に小川範子、松岡由美。

「刑事にも人情がある。犯人にも事情がある」

↑ っていうのが本作のキャッチコピーなんだけど、私としては「んなこたぁ分かっとるわい」ってなもんでw、当時はほとんど相手にしてませんでした。

人情系の刑事ドラマって、如何にも「正論」を「説教」されてる気になっちゃうんで、私は今でも好きにはなれません。勿論アクション系の番組にもそういう要素はあるんだけど、それがメインになっちゃうと敬遠したくなります。

だって、人情やモラルを説くだけなら、別に刑事じゃなくたって出来るワケです。同じ説教されるなら、学校の先生とか爺ちゃん婆ちゃんとか、国家権力など持たない身近な人にされる方が、素直に聞けるんじゃないでしょうか?

それより、正義の名の下で堂々とヤクザをぶん殴ったり、拳銃をぶっ放したり出来るのは、日本だとドラマの中の刑事さんか、後は特撮ヒーローぐらいしかいないワケです。

謎解きなら家政婦やタクシードライバー、三毛猫にだって出来ちゃうんだし、刑事物でしか出来ない事って言えば、やっぱりアクティブな描写、ドンパチやカークラッシュに尽きるワケです。それをやらずして何の為の刑事ドラマなの?って、私は言いたいです。

だから、アクションで売ってた舘ひろしさんが人情系の刑事ドラマをやったり等、全くナンセンスだと思います。どうしても人情系で行かなきゃ仕方ないのなら、それを演じきれる俳優さんに任せるべきです。

この『はぐれ刑事純情派』が成功した理由って、主役に藤田まことさんをキャスティングした事に尽きるんじゃないでしょうか? 職業が刑事であろうが何であろうが関係なく、藤田さんの人情ドラマに多くの視聴者が共感した。

それと、ターゲットを思いきって年輩層に絞った戦略ですよね。テレビがもはや、家族揃って観るメディアじゃなくなった時代に、見事それがハマったんだろうと思います。

藤田さんはテレビというメディアの幼少期に『てなもんや三度笠』を、青春期に『必殺仕事人』シリーズを大ヒット&長寿番組化させ、中年期から老年期にこの『はぐれ刑事純情派』をモノにされた。まさにテレビメディアの成長と共に人生を歩んだ俳優さんで、年輩視聴者にとっては「テレビの顔」だったんでしょう。

脇を固める俳優さん達にしても、旬の人気者より実力重視のキャスティングが、年輩層に好まれたんだろうと思います。若手刑事枠にしても、東山くんじゃなくて植草くん、長瀬くんじゃなくて城島くん、ですからねw ルックスじゃない、他の何かを見て選んでるとしか思えませんw

私自身は上記の理由でほとんど観てなかったけど、たまに観れば確実に楽しめる番組でした。脚本のクオリティーが高いし、芝居がちゃんと出来る人、味のある人が演じるドラマはやっぱり面白い。

でも、この番組がヒットしたからって、刑事ドラマが一斉に人情路線に走ったのは間違いでした。別に世の中が人情刑事を求めてたワケじゃなくて、たまたま面白い番組が順当にヒットしただけの話なんだから。

バブル崩壊でテレビ番組の製作費が急落した事や、撮影に対する法規制がどんどん厳しくなってアクション物が創りにくくなった事など、刑事ドラマが人情路線に走る理由は他にも色々ありました。そんな時に『はぐれ刑事純情派』が絶妙なタイミングで現れ、ヒットしちゃったのは、アクション系の刑事ドラマにとってトドメの一撃でした。

だから私にとっては恨めしい番組なんだけど、質の高さは認めざるを得ないし、刑事ドラマというジャンルが生き残る道を開拓した功績には、素直に敬意を表したいと思います。
 
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