ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#020―1

2019-02-19 00:00:08 | 刑事ドラマ'70年代









 
ジュリー=沢田研二さんが「友情出演」され、市川森一さんが初めて『太陽にほえろ!』の脚本を書かれた重要作です。

マカロニ刑事を演じるショーケン=萩原健一さんと市川さんに以前から交遊があり、市川さんがメインライターを務めておられた30分枠の連ドラ『刑事くん』に犯人役でゲスト出演されたのが、ショーケンさんが俳優業を始めるそもそものキッカケでした。

で、ショーケンさんの紹介でジュリーも『刑事くん』にゲスト出演。お二人が所属するナベプロのスターたちが続々と同番組に登場する流れが出来ていきました。(ジュリーに『さん』を付けると何だか違和感あるので、あえて敬称略とします)

つまり大物スターが刑事ドラマで犯人役を演じるパターンを日本で定着させたのもショーケンさんだったワケで、この方が国内ドラマ全体に与えた影響はホント計り知れません。

で、その流れを受けてジュリーが『太陽にほえろ!』に呼ばれる運びとなり、そのオファーをジュリー側が受諾する条件の1つに「市川森一さんに脚本を書かせること」があったワケです。

『太陽~』の脚本は基本的に全てメインライター・小川 英さんのチェック&直しを受けなきゃいけないんだけど、上記の流れから市川脚本だけは例外的にノーチェックとなり、その結果、本作は『太陽』屈指の名作にして最大の問題作となったのでした。


☆第20話『そして、愛は終わった』

(1972.12.1.OA/脚本=市川森一/監督=金谷 稔)

マカロニ刑事が黙々と射撃練習するファーストシーンに続き、ジュリー扮するインテリ風の若者=清坂(沢田研二)が、きよ(千石規子)という老婆の首を背後から細紐で絞め、殺してしまう衝撃的なシーンでドラマは幕を開けます。

「そりゃあまあ、坊っちゃんも同罪だから。こっちはどちらから頂いても結構なんでございますよ」

殺される前にきよが清坂に言った台詞から、きよは清坂とその叔母=絹子(三条泰子)の何か秘密を握っており、それをネタに大金を強請っていたことが伺えます。

それにしても天下無敵のアイドルスターであるジュリーが、神棚に向かってお経を唱えてる婆さんを、黙って背後から絞め殺すというビジュアルはあまりにショッキング。

動機は「強請を受けていたから」って事になるんだろうけど、本当にそれだけなのか? 老い先短い婆さんを殺してまで隠したかった、ジュリーとその叔母の秘密とは一体何なのか?

安易な犯人当てゲームとは全く違った興味で、一気に我々を引き込んじゃう脚本がやはり見事です。市川さんが担当されたエピソードは、だいたいにおいて最初から犯人が割れてるんですよね。

さて、犯行時にかけてた眼鏡のレンズを割ってしまった清坂は、車を飛ばして眼鏡店に立ち寄り修理を依頼すると、埼玉方面の山間部へと向かいます。きよは独り暮らしでしたから、遺体を山に埋めてしまえばしばらく事件が発覚することは無いでしょう。

ところが!

「お願いします、協力して下さい!」

なんと清坂は、その道中で長髪の新米刑事=マカロニと運命的に出逢ってしまう。指名手配中の殺人犯=桑田を追ってたマカロニは、車で逃げられ、追跡する車が無いもんで清坂の車を強引に停めたのでした。

で、清坂は自分の車をカーチェイスに使われ、撃ち合いにまで巻き込まれ、眼鏡が無いもんで夜の暗闇のなか足を滑らせ、浅い崖から転落して気を失うという踏んだり蹴ったりぶり。ほんと悪いことは出来ないもんです。

一方、マカロニも犯人追跡は断念せざるを得ず、車もタイヤを撃たれて使い物にならず、そのうえ携帯電話も無い時代ですから、清坂を担いで病院を探し回る羽目になっちゃいます。

それで辿り着いたのが黒木医院という産婦人科。マカロニと清坂はどうやら川越市まで来ちゃったみたいです。

「馬鹿者っ、民間人と同乗してホシを追うヤツがあるか!」

報告を受けた東京・七曲署捜査一係のボス(石原裕次郎)は、マカロニに対してはもう落とし飽きたカミナリを今回も落としながら、協力者の無事を確認してから東京へ送り届けるよう指示します。

「まったく、アイツのやる事と来たら……」

そう言いながらも半笑いのボスは、マカロニのやんちゃぶりが可愛くて仕方ないと顔に書いてありますw 逃走した桑田はオンナがいる新宿に舞い戻って来るに違いないとボスは踏んでおり、焦る必要は無いっていう気持ちの余裕もあるんでしょう。

さて、黒木医院で清坂は軽い脳震盪と診断され、若い看護婦の克子(上岡紘子、当時のクレジットは神鳥ひろ子)から必要以上に手厚い介護を受け、マカロニをいじけさせますw そりゃあもう、当時のジュリーの色気にはどんな男だって敵いやしません。

こんなオンボロ病院は早く辞めて東京へ行くんだ、という克子もまた面白いキャラで、このエピソードをより魅力的なものにしてくれます。

ところで清坂は、人殺しをした直後に刑事と一緒にいるという最悪の状況に置かれながら、焦ってる様子がありません。マカロニが鈍感なお陰もあるでしょうけど、そもそも彼には罪の意識が全く無さそうです。

「早見さん、1つ尋ねたい事があるんだけど……」

マカロニと二人きりになって、清坂は世間話でもするような調子で彼に話し掛けます。

「例えば、犯人が捕まった場合にですね、犯罪を犯したその人間にはそれなりに理由があると思うんですが」

「そりゃあ、動機のない犯罪なんて無いでしょう」

「その動機の事なんですが、やっぱりそれも自白しないといけないんでしょうか? 絶対に」

「いや別に、犯行事実がハッキリしてるなら、動機は問いませんよ警察では。ただ、裁判では違うと思うんです。犯罪に興味があるんですか?」

「いえ……さっきのあなたが追っていた犯人のことを考えてたんです。あの男、どんな事件起こしたんですか?」

「女房殺しです。てめえの女房殺して逃げてんです」

「……夫婦は他人だから。他人どうし一緒に生活すれば、憎み合うのは当たり前でしょうね」

「そうかなあ……そうじゃない夫婦もいるよ」

「その人は自分を誤魔化してるんだ」

穏やかな顔でどぎついことを言いだす清坂に、マカロニはかえって興味を抱き始めた様子です。

「分かったよ、あんた愛情ってヤツを信じないんだな。そう言いたいんだろ?」

「信じてますよ。他人どうしじゃない、親子とか兄弟とか親戚とか、つまり血で繋がった愛情なら」

「…………」

うっかり本音を語り過ぎたと思ったのか、清坂は話題を変えます。

「さっき拳銃で襲われた時に、あなた応戦しませんでしたね」

「ええ……逃げるのが精一杯で」

「人を撃った事ありますか?」

「……まだ一度もありません」

「怖いんですか?」

「撃たなくちゃいけない事情があれば、そりゃ撃ちますよ」

「…………」

この会話は全て、結末への重要な伏線になってます。もしかするとこの時点で、清坂はある覚悟を決めていたのかも知れません。

そこに克子がウイスキー片手に入って来て、話題はあさっての方向へ飛んで行きます。

「いいんですか、酒なんか飲んで」

「アハハ、睡眠薬の替わりだからいいのよ」

いやぁほんと克子さん、いいキャラしてますw ほろ酔い加減で横になった克子の、白タイツに包まれた細い脚を見て、照れるマカロニもまた可愛いですw

その夜、清坂はすぐ横のベッドで寝てる克子の吐息を聞いて、悪夢にうなされる羽目になります。たぶん清坂は、克子の吐息を聞いてある女性との情事(そしてそこから繋がる殺人の感触)を連想したと思うんだけど、そこは『太陽にほえろ!』ですから表現があまりにソフト過ぎて、視聴者には伝わりにくいですw

そして翌朝。桑田を取り逃がした現場の検証に立ち合ったマカロニは、清坂の車の後部座席を見て仰天します。そう、そこには寝袋にくるまれたきよの遺体があるのでした。

慌てて黒木医院に駆け戻るマカロニですが、時すでに遅し。清坂は克子と二人で東京へ去って行ったと言う初老の黒木医師(木田三千雄)が、また良いキャラしてるんですよねw

「男はああいう女に取りつかれるとロクなことは無いな。こっちは出て行ったんでせいせいしてんだ」

清坂の車に残された遺体は斉藤きよと判明。現場に残された眼鏡の破片、指紋などから、すぐに犯人も美術大学の学生・清坂貞文であることが判ります。

2人の殺人犯を立て続けに逃がしたマカロニはさすがに凹みますが、彼が清坂に絡んだお陰できよ殺しがいち早く発覚したのは怪我の功名でした。

「ただ分からんのは殺しの動機だな。美大の学生が、なんで縁もゆかりもない老婆を……」

きよの預金通帳にはいささか分不相応な1千万円超の預金があったにも関わらず、清坂はそれに手をつけてませんでした。

「動機……」

そう言えば、清坂は犯罪捜査における「動機」の扱われ方をえらく気にしてました。そこに事件の謎を解く鍵がありそうです。

やがて、殺されたきよが10年前まで清坂の叔母=絹子の家で家政婦をしていたことが判明し、マカロニはゴリさん(竜 雷太)と一緒に絹子の屋敷を訪ねます。

しかし甥とは10年以上も会っていないと言う絹子は、涼しい顔で知らぬ存ぜぬを繰り返し、まるで手懸かりは得られません。

屋敷を後にして、マカロニとゴリさんが愚痴をこぼします。

「ステキな奥さんだったねえ」

「ああ。どうも苦手だなあ、ああいう気品で押して来られると。なんかこう気押されちゃって、絡みの役者が違うんじゃないかって言いたくなるよな」

「うちのボスか殿下あたりだったら、もっとしっくりいった感じだね」

「俺とかお前じゃ相手役にならないんだよ」

「へへへへ」

先輩のゴリさんにタメ口を聞いたり、殿下をあだ名で呼んだりしちゃう新人刑事は歴代でもマカロニ1人だけ。ゴリさんも殿下もまだ若かったとは言え、それほど気安く対話出来ちゃうマカロニの無邪気さ、親しみ易さがまた、本エピソードの結末をより切なく感じさせます。

さてその頃、清坂は克子が借りたであろう安アパートの部屋で、きよ殺しの事件を報じる新聞記事を読みながら「動機は不明!」と書かれた見出しに眼をやり、ほくそ笑みます。

新聞には清坂の手配写真も掲載され、当然ながら克子も、いま一緒にいる男が殺人犯であることを知ってしまいます。

「ワケがあったのよね? よほどのワケがあったのよね? そうでなきゃ、あんたみたいに優しい人が……」

「カネ……それだけだよ」

「うそ! あんたお金に困ってる人じゃないわ」

「困ってるよ。今だってキミに迷惑ばかり掛けてるじゃないか」

「そんなこと言ってるんじゃないわ。お金を欲しがってる人はもっとガツガツしてる。もっとズルく生きてるわよ。あんた全然ズルいとこ無いもん。ねえ、本当のこと言って。私を信じて!」

「…………」

それなりに可愛い克子に抱きつかれても、清坂は決して HOT!! HOT!! になりません。なぜ清坂は若い女に欲情しないのか? なぜもっと必死に逃げようとしないのか? 彼が自分の人生を懸けて守ろうとしてる、叔母との秘密とはいったい何なのか?

そこには、清廉潔白な青春アクションドラマ『太陽にほえろ!』にあるまじき真実が隠されてるのでした。

(つづく)
 
コメント (2)
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