☆第259話『怪物』(1977.7.8.OA/脚本=小川 英&四十物光男&胡桃 哲/監督=斎藤光正)
ある日、思い詰めて憔悴しきった様子の女性=彩子(葉山葉子)が七曲署捜査一係室を訪ねて来て、手持ちの全財産を持ち出したまま4日間も帰って来ない夫を探して欲しいと願い出ます。
そこに拳銃による殺人事件の報せが入り、その被害者こそが彩子の夫=秋川(小松方正)であることがすぐに判明。
彩子は2億円近い負債を抱えており、ちょうどその額面の生命保険に夫が加入したばかり。当然ながら疑惑の眼は葉子に向けられます。
が、死んだ秋川は「悪意の塊のような男」という悪評の持ち主で、どうやら自分が抱えてた負債を妻の彩子に押し付け、彩子はそれを引き受ける条件として、秋川に生命保険への加入を了承してもらったらしい。
そして彩子には、主治医である大学病院の助教授=南原(河原崎長一郎)と一緒に喫茶店にいたというアリバイがある。
捜査を担当したゴリさん(竜 雷太)の執念により、秋川の遺体に熱病治療で使われる薬品が注入され、体温を異常に上昇させた=死亡推定時刻をズラす細工が施されたことが判明、容疑の矛先は医者である南原に移ります。
それを察した彩子が七曲署に出頭、夫を殺したのは自分だと自首しますが、どうやら彼女は南原を庇ってるらしい。
「奥さん、もしもあなたが犯人だとしたら、捜索願いを出しに来た時のあなたは全て芝居をしていた事になる」
「そうです、あれもお芝居です」
ゴリさんはあの時、倒れかけた彩子を抱き止めたんだけど、ハッキリと爪痕が残るほど強く、彼女に腕を掴まれました。
「ただの芝居で、見も知らぬ男の腕をあんな風に掴める筈がない! あなたは悪いことの出来る人じゃないんだ! 殺したのは南原だ。あなたを独占したい為に、保険金で、あなた名義の借金を回収したい為にやったんだ!」
「違う、私です! 私が主人を殺したんです!」
彩子が必死になって庇えば庇うほど、ゴリさんは南原の犯行を確信し、証拠不充分なまま重要参考人としての出頭を彼に促すのですが……
「参考人扱いでいいんですか? どうせなら、殺人罪で逮捕するとハッキリ言ったらどうなんです!」
「もちろん、抵抗すれば緊急逮捕する」
「抵抗なんかしやしませんよ、面倒なのは嫌いなタチでね。あなたが考えてる通りです。殺したのは私です!」
「 !? 」
あっさり犯行を認めた南原の、やけに清々しい顔を見て、ゴリさんは強い違和感を覚えます。違う……南原も犯人じゃない……でも、彩子は彼を庇うために自首をした。なぜ……? ゴリさんは、ようやく気づきます。
「犯人はあなたじゃない。秋川夫人でも誰でもない。秋川卓三は、自殺したんだ!」
秋川は「悪意の塊」と云われた男。彩子と南原が惹かれ合ってることに気づいた秋川は、あえて生命保険への加入を承諾し、2億円の負債を彩子に押し付けた。1年未満の自殺なら保険金は下りないし、うまくすれば彼女と南原に警察の疑惑を向けさせる材料になる。
そう、秋川は、ただ彩子と南原を不幸にするだけの為に、護身用に持ってた拳銃の引金を自ら引いたワケです。
いくら何でも、んなヤツはおらんやろ~って、皆さん思われるかも知れないけど、一番下の画像をご覧下さい。彼は、身も心も「怪物」なんですw
その事実が発覚すれば、秋川の思惑通り彩子は、一生かかっても返せない借金を背負うことになっちゃう。行き着く先は破滅しかありません。
南原は、愛する彩子のためにゴリさんを殴ります。
「これでも俺を逮捕しないのか? 俺を、凶悪な殺人犯と認めないのか!?」
「ああ、認めない! あんたの気持ちが、俺にはよく解ってるからな」
彩子はあの日、南原が秋川に呼び出されたことしか知らなかった。南原が夫を殺したと思い込んでたんでしょう。
「奥さん。我々はあなたと、南原進の罪を追及しなきゃならない。しかし……生きている人間が、死んだ人間の悪意で一生苦しむなんて馬鹿げてる。そう思うのは、我々だって同じです!」
ゴリさんの説得に、一緒に彩子を取り調べてた山さん(露口 茂)が補足します。
「そう。同じというより、そういう気持ちにかけては誰にも負けない男が、刑事の中にもいるんですよ」
ゴリさんは、有言実行の男。債権者1人1人に会って事情を話し、誠心誠意をこめて頭を下げ、なんとか彩子と南原が再出発し、最低限の生活を送れるようフォローするのでした。
例によってゴリさんの描かれ方が格好良すぎな気はするけど、こうして単なる謎解きだけじゃ絶対に終わらないのが『太陽にほえろ!』なんですよね。こんな番組を観て育っちゃったから、ただ突っ立って謎解きするだけの昨今の刑事ドラマが、私はつまんなくて仕方ないワケです。
しかし本エピソードの白眉は何と言っても、秋川を演じた名優=小松方正さんの怪演に尽きます。もう一度画像をご覧下さい。怪物そのものですw 特殊メイクなど要りませんw この顔ならやりかねないっていう、ハンパない説得力と、破壊力w
葉山葉子さんも河原崎長一郎さんも素晴らしい名バイプレーヤーなんだけど、小松さんの顔には太刀打ち出来ませんw
葉山葉子さんは当時30歳。今回みたいに耐えしのぶ薄幸な女性役がよくハマり、メロドラマの女王とも呼ばれた女優さんで、舞台を中心に現在もご活躍中。
TVドラマのゲスト出演は圧倒的に時代劇が多く、刑事ドラマは他に『非情のライセンス』『新幹線公安官』『特捜最前線』があるくらい。『太陽~』への出演もこれ1回きりで、けっこう貴重なフィルムかも知れません。