ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『大空港』#16

2020-01-08 00:00:21 | 刑事ドラマ'70年代









 
殉職した梶警部(緒形 拳)に代わり、華麗なる中年刑事=薮下警部(田中邦衛)が空港特捜部に新加入してから2本目のエピソードであり、第3話に登場された松坂慶子さん2度目のゲスト出演作でもあります。


☆第16話『特捜部 対 ヤクザ/女医 三森亜矢子が敵の手に!』

(1978.11.20.OA/脚本=池上金男/監督=日高武治)

暴力団の隠れみの企業である羽根木総業が麻薬及び銃器を密輸入してるという情報をキャッチした空港特捜部は、その取引現場を見事に押さえるんだけど、あろうことか源田組の鉄砲玉がそこに乱入し、刑事たちの目の前で羽根木社長を射殺しちゃいます。源田組は羽根木総業と密輸の利権を争っていたのでした。

実行犯の中谷(磯部 勉)は加賀チーフ(鶴田浩二)に肩を撃たれたものの、緊急配備の網をかいくぐって逃走。さらに空港ロビーで源田組の幹部を狙った羽根木側の鉄砲玉が文字通り拳銃を乱射、巻き添えで幼い子供が犠牲になり、チーフが責任を問われる事態となります。

そんな折り、沢井空港長(池部 良)の姪っ子で国際保険機構に所属する医者=三森亜矢子(松坂慶子)が海外から帰国します。

亜矢子は加賀チーフ初恋の女性のひとり娘であり、亡くなったお母さんと瓜二つの美女。第3話でチーフと色々あったみたいだけど、私は観てないので知りませんw

ただ、両者互いに異性を意識してるのは確かなようで、そんな二人を運命的に(悪く言えば強引に)再会させちゃうのがドラマってもんです。

親友の信子(倉野章子)に呼び出された亜矢子が彼女のアパートを訪ねると、そこには肩に傷を負って寝込んでる、いかにも怪しい男がいるのでした。そう、冒頭で羽根木社長を射殺し、加賀チーフに肩を撃たれた鉄砲玉の中谷は、信子の別れた元亭主なのでした。

「亜矢子、助けて私たちを!」

信子は犯罪にいっさい関わってないんだけど、自分を頼って駆け込んで来た元亭主を放っておけず、優秀な医者である亜矢子に泣きついたワケです。

で、親友の頼みを断りきれず、亜矢子はその場で中谷の容態を診るんだけど、撃たれた傷より厄介なものを見つけてしまいます。彼は南アフリカから持ち帰った難病を患っており、早く処置しないと命を落としかねないのでした。

亜矢子は信子を説得し、大学附属病院に中谷を運びます。当然ながら警察に連絡が行き、加賀チーフと鯉沼(中村雅俊)がすぐ駆けつけるんだけど、患者の生命を最優先する立場にある亜矢子は、中谷への尋問を拒否。すると普段は犯罪者に容赦しない加賀チーフがあっさり引き下がったもんだから、鯉沼は面食らいます。チーフもやっぱり美女には弱いのか?

ここで鯉沼が、非常に共感できる台詞を吐いてくれました。

「こう言っちゃ何ですけどね、あんな虫ケラこのまま死んだ方がいいんじゃないですかね? どうせ捕まえたってゲロする筈ないし、生かしたって誰かに殺されるに決まってますよ」

おっしゃるとおり! 極道に走るような人間にまともな倫理が通じるワケがなく、情けをかけようもんなら足元を掬われること必至。事態をより悪くするのは眼に見えてます。

なのに加賀チーフは「人の命ってそんなもんじゃないだろう」なんて、面白くも何ともない綺麗事を言って鯉沼と我々視聴者をシラケさせるのでした。

そしたら案の定、中谷の病室に羽根木総業の刺客が侵入し、彼をかばった信子が身代わりに刺されちゃうという最悪の展開に。しかも中谷が敵から奪ったドスで亜矢子を人質にとり、瀕死の信子を置きざりにして逃走するという虫ケラぶりを遺憾なく発揮。だから言わんこっちゃない!

「俺がもっと強引にやれば良かったんだ……病人を何とかして生かそうとする彼女の必死な気持ちが解ったもんだから、つい……」

珍しく弱音を吐く加賀チーフに、亜矢子の叔父(つまりチーフ初恋の女性の兄)である沢井空港長が鋭いツッコミを入れます。

「彼女だから……亜矢子だからそうしたのか?」

「そんなつもりは無かった」

「いや、そうだよ。お前らしくもないじゃないか」

「…………」

初恋の人の娘だからなのか、あるいは空港長の姪っ子だからなのか、否、1人の女性として亜矢子を愛してしまったからなのか……? それは多分、チーフ自身にも分からないんでしょう。(はたから見れば美人だからに決まってるんだけどw)

決して本音を口にしないストイックな役柄が似合う鶴田浩二さんには、こういう禁断の年の差恋愛を演じる機会が多かった印象があります。NHK土曜ドラマの名作『男たちの旅路』シリーズでも桃井かおりさんとのぶざまな(だけど鶴田さんが演じるとカッコいい)ロマンスが描かれ、私は号泣させられた記憶があります。ちなみに桃井さんも松坂さんも当時は若かったw

さて、亜矢子を人質にとった虫ケラは、大学病院に鎮痛剤と逃走用のヘリコプターを要求して来ます。

そこで元特攻隊のパイロットだった加賀チーフ(鶴田さんご自身がそういう経歴の持ち主で、『男たちの旅路』でも設定に活かされました)がヘリを飛ばし、東京郊外の取引現場へと特攻! 他の刑事たちも駆けつけ、さらに中谷の口を封じようとする源田組の連中も乱入し、なかなか派手な銃撃戦が展開されます。ザッツ・刑事ドラマ! ゲッツ!

で、往生際悪く亜矢子に銃口を突きつけてチーフを脅した中谷だけど、肝心なところで発作を起こしてぶっ倒れるという、虫ケラに相応しいぶざまな幕切れ。

しかし虫ケラとはいえ病人は病人、助けてやらなきゃいけません。現場近辺には南アフリカの難病を治療できるような医者はおらず、救出されたばかりの亜矢子を頼るしかありません。

だけど亜矢子は、あんなに尽くしてた信子を見殺しにして逃げた中谷が、女としてどうしても許せない。今回ばかりは治療を拒否します。

仕方なく近辺の病院を片っ端から当たるよう指示するチーフに、鯉沼が言います。

「チーフ、まだヤツを救おうってんですか?」

「あの男がやったことは許せない。だがな、人の命に換わりはないんだ。出来るだけのことはやってみよう」

たとえ綺麗事でも、貫き通せばひとりの人間の生きざまとして説得力を持ちます。そんなチーフの姿を見て考え直した亜矢子は、治療を引き受け、見事に虫ケラの命を救ってみせるのでした。

事件解決後、あらためて礼を言いに来た加賀チーフに、亜矢子は言います。

「怖い方ですよね、加賀さんって」

「え?」

「いつも、命というものと真正面からぶつかり合ってらっしゃるから……お陰で私、自分が医者で良かったって、勇気が持てました。お礼を言うのは私の方ですわ」

「お礼だなんて……とんでもない事ですよ」

その後、三森亜矢子の再登場は無かったようなので、残念ながらノー・チョメチョメ。当時、刑事ドラマのボスはみんな独身で美女にモテモテなのに、我慢してばっかでよく気が狂わなかったもんだと思います。

松坂慶子さんは当時26歳。子役からスタートされ、16歳の頃に『ウルトラセブン』第31話にゲスト出演。ブレイクのきっかけは'73年のNHK大河ドラマ『国盗り物語』における濃姫役だけど、全国的に認知されたのは'79年のTBSドラマ『水中花』とその主題歌『愛の水中花』の大ヒットが大きかったんじゃないでしょうか。私もそれでお顔とお名前を認識した記憶があります。

この『大空港』はまさに大ジャンプに向けたステップの時期に出演されたもの。あまりに美人すぎてイマイチ人間味が感じられず、それが本格ブレイクまでに時間がかかった原因なのかも知れません。

他に刑事ドラマへのゲスト出演は『刑事くん』第3部 ('73) の第6話ぐらいしか見当たらず、そう言えば刑事役を演じられた記憶も無いし、ご本人があまりお好きじゃないのかも知れません。そう思えばこれは貴重なフィルムと言えましょう。
 
コメント (3)
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