とにかく、多部未華子の舞台は素晴らしかった。感動した。わしは演劇をあまり面白いと感じたことが無かったが、これには感動した。
未華子が農家出身のロリータを演じた過去の舞台も、ヤマリン王に見せてもらったが、あれも素晴らしかった。やさぐれた中年男が、自分の娘と変わらない年齢の少女に恋をし、救われ、破滅する物語だった。
いい歳をした中年男が、未華子のような若い娘に萌えるなど、とても考えられんことだ。絶対にあり得ない。奴は変態だな。奴こそ変態に違いない。わしとは大違いだぞ。違うか?
さぁ、踏んでくれ。頼むから、わしのここを踏んでくれ。サロメよ、お前は、いつになったら踏んでくれるのだ? まったく、どうすればお前は、わしのここを踏んでくれるのだ?
わしは今宵、陰鬱なのだ。わしは聞いたのだ、確かに聞いた。宙に乳首の羽ばたく音を。途方もなく巨大な乳首の羽ばたく音だ。だから、踏んでくれ。
な、頼む、サロメ。踏んでくれ、わしのために。もし踏んでくれるなら、欲しいものを何でも言うがいい、くれてやろう。わしの乳首以外なら、何でも欲しいものをやる。ゴンベ王の家にある酒も全部やろう。
「欲しいものなら、何でもくださるって、王様?」
何でもだ、このわしの乳首以外なら。わしの乳首だけは絶対にやらないが、それ以外なら、欲しいものを何でも、銀の大皿に載せて持って来てやろう。申してみよ。わしの乳首以外なら何でも手に入るのだぞ。さ、欲しいものは何だ、サロメ?
「ハリソンの乳首」
ならぬ、ならぬ! ならぬぞ、サロメ。そんなものを欲しがるでない。ハリソンの乳首はやれん。確かにわしは、わしの乳首以外なら何でもやると言ったが、ハリソンの乳首もやれん。
「わたしは、ハリソンの乳首が欲しいの」
良いか、サロメ、冷静にならんとな、ん? 冷静になるべきだぞ、違うか? 後生だから、他のものにしておくれ。ゴンベ王の酒、一年分でどうだ、それならお前は手に入れられる。ゴンベ王にとっては命より大事なものだぞ?
「わたしが欲しいのは、ハリソンの乳首なの」
ならぬ、ならぬ。サロメよ、お前は2年前に、カワタベの乳首を貰ったではないか。あの乳首はどこへやった? お前は一体、カワタベの乳首を何に使ったのだ?
お前に乳首を斬り落とされた哀れなカワタベは、去年から行方不明なのだぞ? あの男は、神から使わされた者なのかもしれぬ。いや、そうに違いない、あれは神の使者だ。
「ハリソンの乳首をちょうだい」
ならぬ、ならぬ。わしにそんなものを求めてはならぬ。恐ろしいことだ、そんなものを欲しがるとは、なんと恐ろしい。人間の乳首など、紛らわしいではないか? そんなものを求めて、何の悦びがあるというのだ?
「ハリソンの乳首を」
ハリソンは、確かに素晴らしい男だ。具体的に素晴らしい点は、特にこれと言って無いのだが、あれより素晴らしい男はハリソンしかいない。
だが、ハリソンの乳首はよろしくない。だいたいハリソンは、気が多い。多部ちゃん多部ちゃんと言ってる割には、ももいろクローバーZのアルバムを毎日のように聴いておる。
宮崎あおい、堀北真希、新垣結衣などにも見境なく萌えておるし、黒木メイサや仲里依紗が脱ぐのを心の底から祈ってるような男だ。
『あまちゃん』は大嫌いなのに、有村架純には一刻も早く脱いで欲しいし、能年玲奈もエネオスのCMで見直したらしい。あっ、エネゴリさんだ! おぉ~ 酒を持ってこい!
そのくせ、小泉今日子の顔は二度と見たくないと言う。節操がない上にロリコンなのだ。どうだ、ムカつくであろう? ムカつくし、なんとも気持ちが悪い。お前は、そんな男の乳首を欲しがるのか? 気持ち悪い男は、乳首もかなり気持ち悪いぞ?
「ハリソンの乳首をちょうだい」
お前は人の話をまるで聞いておらんのか? まあ、落ち着くのだ。わしか、わしは至って冷静だぞ。冷静そのものだ。いいか、よく聞け。ワオキツネザルにも乳首はある。琥珀色の瞳をしたワオキツネザルの、乳首を頭に浮かべてみるがいい。銀色の光線で繋がれたかのような、虎の目のように黄色い乳首だ。お前は、斬り落とせるか?
それだけじゃない、鳩の目のようなピンク色の乳首に、猫の目のような緑色の乳首。乳毛もあるぞ。とても冷たい炎で絶えず燃え続けているような、人の心を悲しませ、自らも闇の恐怖を孕んでいるような、乳毛だ。
「ハリソンの乳首をちょうだい」
もういい、わかった! もう踏まなくていい! わしの負けだ。わしに勝ち目は無い。さぞかし、気分が良いのであろうな。お前は、勝ったのだ。さすが我が姫だ。
何か言ったらどうだ? ん? 惨めったらしい負け犬のわしを、罵倒すればいい。口汚く罵ればよいのだ。隠語を交えながら、この上なく高飛車に、激しく、エレガントに、踏まなくてもいいから、せめて罵ってくれ!
「わたしを、離さないで」
……な、なに? 今、なんと言った? もう一度、言ってみてくれないか?
「わたしを離さないで、王様」
ちょっと待ってくれ。お、王様だなんて、他人行儀ではないか。な、名前で呼んでくれないか? 名前で呼びながら、今の言葉をもう一度……
「わたしを離さないで、ハリソン」
お前は、わしがハリソンだと知ってて、わざと困らせようとしたのか? そう、わしはハリソン。あんな、ヘロデのような、酔っ払いの変態とは全然ちがう。
照れ隠しに、わざと変態のふりをしていたのだ。本当は、踏まれたくも罵られたくもない。わしは至ってノーマルなのだ。ゴンベと一緒にするな。
お前は、わしの気持ちを知っていたのだな? そして、今、その気持ちに応えてくれた。ああ、サロメ、サロメ。頼む、もう一度だけ、お前のその美しい声で、さっきの言葉を聞かせてくれないか?
「わたしを離さないで、ハリソン」
わしは今まで、ずっとお前を見つめておった。ももクロを聴いている時だって、わしの心にはずっと、お前が映っていたのだぞ? お前の美しさは、わしの心を掻き乱した。そして、わしはお前をあまりに見つめすぎたのだ。
ならば言おう。お前は、わしが悲しい時、心が弱った時に見上げる、月だ。お前の笑った顔を見るために、わしはこうして生きている。わしは、お前を愛している。わしは、お前を離さない。永遠にだ。
「うん、ハリソン。わたしを離さないで……を、観に来てね」
もちろんだ、わしは行くぞ。例え宇宙の果てでも、愛するお前の舞台なら、どこへだってわしは観に……なに? ん? なんだと? 舞台だと?
「観に来てね」
……まさかとは思うが、サロメ。これは、宣伝ではあるまいな? もしかして、これは宣伝なのか?
なに? 主演・多部未華子? 演出・蜷川幸雄? 彩の国さいたま芸術劇場? タイトルが『わたしを離さないで』? 宣伝ではないかっ!
なに、共演が三浦涼介だと? あの三浦浩一と純アリスの息子か? まさか、それは本当なのか?
奴はケインだぞ! 『超星艦隊セイザーX』のおっとりヒーロー、ビートルセイザーことケインだ! お前に乳首を斬り落とされたカワタベは、あれの脚本を書いておったのだぞ!? あやつが今になってお前と共演するとは、何という因果か!
だが、わしは観に行かんぞ。死んでも観に行くものか。わしが3回にも渡って熱く語って来たこの記事が、すべて新作舞台の宣伝だったとはな! わしは大いに傷ついた! 大いに傷ついたぞ!
タベリスト同盟にも顔向けが出来ん。わしは、彼らの知られざる恥部を、ここで洗いざらい暴露してしまった。後頭部を修正して誤魔化したことまでバラしてしまった。だが、あれは見易くするための修正であって、捏造とは違う。毛根は、確かに存在します! 私たちは200回以上の植毛に成功しています!
わしは彼らに義理を通して、多部未華子の舞台は金輪際、観ないことに決めた。わしは絶対に観ない。わしは、義理堅い男なのだ。気前が良いのだ。
いや、やっぱり観に行こう。わしは未華子の舞台を観に行くぞ。必ず観に行く。なぜなら、木村文乃も出ているからだ。あれはいい女だ。実に素晴らしい女優だ。
未華子と違って、文乃は淑やかで、なんと言っても、胸が…… 未華子と違って、ちゃんとオッパイがあるからな。いや、実際のところはよく判らんが、いくら何でも未華子よりはあるだろう?
こらこら、痛い痛い。蹴るな。蹴るでない。なぜお前が怒る? ミカパイが小さいのは、別にサロメのせいではなかろう? 小さいものは小さいのだから仕方がない、無いんだから仕方がない。あー、ちっパイ、ちっパイ。
痛い痛い。まったく、お前の蹴りは洒落にならんな! 破壊力があり過ぎる。だいたい、お前が悪いのだぞ? お前が先に、わしを傷つけたのだ。しかも、お前は嘘八百を並べてわしを騙したが、わしは事実をありのまま言ったに過ぎないのだ。
違うか? これはただの、事実だ。文乃にはあって、未華子にはない。何がと言えば、オッパイがだ。いや間違えた、ちっパイだ。ミカパイはちっパイなぁ~ ほれほれ、ちっパイちっパイ♪
こら、やめないか。蹴るな、蹴るでない! 痛い、そいつはちょっと痛すぎるぞ。痛い痛い! わっはっはっは! もうちょっと下だ。
……そう、そこだ。そこを優しく、時に強く… ふっ、踏んでくれっ!
(2012年初夏、東京渋谷・新国立劇場中劇場にて観劇。オスカー・ワイルド作、宮本亜門 演出。タベリスト同盟が初めて集結し、多部ちゃん出演ドラマ&映画のロケ地ツアーも敢行した、忘れられない想い出です)
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