『EUREKA/ユリイカ』の青山真治監督が7年ぶりに長編映画のメガホンを執られた、多部未華子さん主演による日本映画、2020年11月現在公開中!を観て来ました。
両親を事故で亡くしたばかりの、小さな出版社に勤める若き編集者=直実(多部ちゃん)が、リッチな叔父夫婦(鶴見辰吾&美村里江)の計らいによりタワーマンションの高層階で、愛猫のハルと一緒に暮らすことになります。
自分の稼ぎとは釣り合わないゴージャスな部屋で、まるで空に住んでるような違和感に戸惑いながら、同じマンションに住む人気俳優=時戸(岩田剛典)にロックオンされた直実は、互いに心の隙間を埋めたいだけの恋愛に溺れていくのですが……
これは面白い!っていう類いの映画じゃなくて、じっくりと味わいながら自分自身の生き方と照らし合わせ、深く深く考えさせられちゃう、そんな映画です。
ストーリーを描いた作品じゃなく、あくまで「人間」を描いた作品。共感する部分もあれば、サッパリ解らん部分もある。だからこそ人間なんだって、私は納得しました。
かくも人間とは不可解な生きものだし、人生とは不条理なもの。それでも我々は生きてゆく。そんなお話。
いや、もっと端的に、具体的にこの作品を表現できるフレーズは無いものか?っていろいろ考えてみて、それで思いついたのが、これ。
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"大人になった多部ちゃん版『ルート225』" w
タベリストか、よっぽどの映画マニアの方じゃないと「何それ?」状態でしょうけど、自分的にはとても腑に落ちました。
理由は以下に書きますが、ネタバレ注意です。映画の結末にも触れます。ストーリーを描いた映画じゃないから読んでも大丈夫とは思いますが、先入観ゼロで観たい方は鑑賞後にお読み下さい。
2006年の映画『ルート225』は、多部ちゃん演じる高校生のヒロインが、天然キャラの弟と一緒にある日突然、両親がいないパラレルワールドに迷い込んで、二度と帰って来られなくなっちゃう不条理SF。
『空に住む』にSF要素は皆無だけど、ヒロインが唐突に両親を亡くし、それまでと全く違った環境に放り込まれるシチュエーションが似てなくないですか?
で、元の世界に戻れなくなった『ルート225』の多部ちゃんは、叔父さんの家に引き取られることになり、唯一の相棒だった弟とも離ればなれになっちゃう。
かたや『空に住む』の多部ちゃんも叔父さんが住むマンションに引っ越して、唯一の相棒だった猫のハルを病気で亡くしてしまう!
展開がたまたま似てるだけじゃないの?って言われそうだけど、そんな事はありません。どっちの多部ちゃんも、ありのままの自分を見せられる相手がいなくなって、否応なしに自立するしか生きていくすべが無くなるワケです。
そりゃあ寂しいし悲しいし苦しいけど、人間には「順応する」という逞しい能力がある。猫のハルは順応できずに死んじゃったけど、直実はなんとか自力で立ち直る。『ルート225』のヒロインも最後は笑顔でした。
パラレルワールドの正体が何も判らないまま終わっちゃう『ルート225』も、ストーリーじゃなくて人間を描く映画でした。そして、いきなり全てを失って、それでも生きていくしかない人たちへの応援歌である点でも、この2本の映画はとてもよく似てると私は思います。
そう考えると『ルート225』っていう不思議な作品の持つ意味も、より鮮明になった気がします。この世の不条理は全て、人を成長させる為の試験みたいなもんで、パラレルワールドはそれを全部ひっくるめたシンボルに過ぎないから、SF的な解答なんか必要なかった。
『ルート225』の主人公たちはまだ子供だからパラレルワールドがシンボルになったけど、今回の主人公は大人の女性だから、リッチなマンションとかイケメン俳優がシンボルとして登場した。つまり全ては主人公が見た夢か幻覚で……とか考えだすとややこしくなるんで、これくらいにしときますw
『空に住む』では直実の叔母にあたる明日子(美村里江)、出版社の同僚である愛子(岸井ゆきの)にもそれぞれスポットが当てられ、それぞれの不条理と成長が描かれてます。
ほか、愛子の不倫相手である小説家役で大森南朋さん、マンションのコンシェルジュ役で柄本明さん、ペット専門の葬儀屋役で永瀬正敏さんも登場するという贅沢さ。多部ちゃんの代表作がまた1本増えましたね。
個人的に1つ残念だったのは、エンディングの主題歌がえらく軽薄に感じたこと。クレジットを見たら歌ってるのはEXILE系のグループで、こんな深い映画の主題歌をなんでそんなヤツらに?!って思いながらパンフレットを読んだら、なんとこの映画はその主題歌をモチーフにして創られたんだとか!w ついでに書くと、なかなかいい演技してるやんって思ってた時戸役の俳優も実はEXILEのヤツだった!w
だからこそ逆に、青山真治監督は本当に凄い!って、私は思いましたw
そうそうと頷きながら拝読させていただきました。
しかし、大人になった多部ちゃんの『ルート225』とは、お見事です!!
まったくその通りですね。
先日、あなたの好きな多部ちゃんの作品はというアンケートがあって、私は『ルート』と書きました。
当然のように『君届』や『経費』が上位でしたが、私はどこまでもエリ子にこだわりたいです。
そんな大人になったエリ子が見られるなんていいですよねw
作品が作られた経緯や主題歌はどうでもよくて、これだけの作品に仕上げた青山監督はやっぱりスゴイと思います!
多部ちゃんも懐の大きな監督のもとで、15年前と同じように自由に演技をしているのが最高です!!
なにか自分ならではの書き方が出来ないものかと悩んでて、ふと『ルート225』に構造が似てることに気づいて、しめた!とw それが正解か否かはともかく、こんな突飛な感想を書く人は他にいないだろうとw そこからやる気MAXになって書き上げた次第です。
こうなると『ルート225』をまた観たくなりますよね。実はエリ子が見た夢か妄想だった、っていう裏設定はあり得そうなので、それを確かめて、なにか発見があったら記事にしたいと思ってます。
毎日、新聞の映画欄を目を皿にしてチェックしています。しかし、富山はおろか石川県の映画館でもこの映画の上映案内は出てきません。
それでもめげずにこれからもチェックをし続けるつもりです。なにしろ『ルート225』ですもの、全然辛くはありません。
『ルート225』とはジャンルも作風も全然違うのに、本質的なところで似てるっていうのはホントに面白い発見でした。それを抜きにしても(エンディング主題歌以外は)とても見応えある作品なので、大いに期待して大丈夫と思います。