ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『こもりびと』

2020-12-11 00:55:09 | TVドラマ全般





 
2020年11月22日にNHK総合「NHKスペシャル」枠で放映された73分の単発ドラマ。このところNHKさんが力を入れておられる「#こもりびとプロジェクト」の一環で、深刻な社会問題の1つとなった「8050問題」の実態が描かれてます。

皆さんご存じでしょうが「8050問題」とは80代ぐらいの親が50代ぐらいの子供を養う、つまり中高年の「ひきこもり」がどんどん増えてる実態と、その親が亡くなった後も社会に出られずに餓死したり自殺しちゃう人もたくさんいる現実を指してます。

このドラマでは、松山ケンイチくん扮する40歳の「こもりびと」をずっと理解できず、理解しようともして来なかった父親の武田鉄矢さんが、ガンを患って余命宣告を受けてしまい、自分が死ぬ前になんとか息子を自立させようと奮闘する姿が描かれました。

この問題にはとても興味があります。私自身、もう10年以上前になりますが、ひきこもりをテーマにした映画の脚本を書いたことがあり、その為にいろいろ取材してみたら、ひきこもってる人たちと自分との違いがほとんど無いことに気づかされました。

むしろ、私なんかよりずっと真面目で、仕事を一生懸命やるタイプの人がひきこもりになり易かったりする。今回の松山ケンイチくんもそういう人物として描かれてます。

私はたぶん、彼らより少し不真面目で、彼らほど一生懸命に仕事しないから、ひきこもらずに済んでるのかも知れません。

武田鉄矢さん扮する父親は元教師で、教育熱心であるがゆえにケンイチくんを追い詰めてしまった。人は努力さえすれば何でも出来る、出来ないヤツは努力しない怠け者なんだ、ダメ人間なんだっていう価値観を悪気なく植え付けてしまった。

私の父親も教師だったけど、良く言えば放任主義、悪く言えば無関心で、そういうプレッシャーはほとんどかけて来ませんでした。私がひきこもらずに済んだのはそのお陰かも知れません。

いや、私がこれまでの人生で最も落ち込んでた20代後半の頃、もし実家にいたら「こもりびと」になってた可能性は充分にあります。その時は独り暮らしで、実家に戻る気はさらさら無かったもんだから選択肢が死ぬか働くかの2つしか無く、実は死ぬ気満々だったけど結局そんな勇気もなく、嫌々ながらまた社会に戻ったといういきさつがありました。ひきこもるか否かは、その時の状況にもよるワケです。

あの頃、何故そんなに落ち込んでたかと言えば、理想の自分と現実の自分とのギャップですよね。自分はもっと仕事が出来る人間だと思ってたのに、もっと人とうまく付き合えると思ってたのに、恋人もそのうち出来るだろうと思ってたのに、ことごとくそうじゃなかった。ドラマでケンイチくんがSNS上で「カチナシオ」と名乗ってたけど、私も自分のことを「生きる価値なし」とその頃は思ってました。

なのに今も生きてて、いちおう社会人でいられてるのは、どこかで「ああ、俺はこんなもんなんだ」「だからこの程度しか出来なくて当たり前だし、仕方がない」って、開き直ることが出来たからだろうと思います。

明石家さんまさんが「俺は何があっても落ち込まない。そんな立派な人間じゃないと諦めてるから」みたいなことを仰ったらしいけど、多分それと同じ心理です。

あんな「自分大好き人間」が自分を諦めてるの?って、矛盾を感じる方もおられるでしょうが、ダメな自分も全面的に受け入れた結果「自分大好き」になってるワケだから、実はちっとも矛盾してない。

私はさんまさんほど自分好きにはなれないけどw、今は別に嫌いでもない。あの頃は本当に自分を嫌ってました。たぶん「こもりびと」たちは皆、そういう状態から脱け出せないんだろうと思います。

ドラマでは、そうしてケンイチくんがずっと苦しんでることを知った鉄矢さんが、自分の死を目前にして、もう無理しないでいいから、そのままでいいから「とにかく生きてくれ!」と言い遺し、それを受けてケンイチくんが小さな第一歩を踏み出し……そうだけど時間はまだまだかかるだろうっていうw、そんな結末でした。

簡単に変われるようなもんじゃないにせよ、ケンイチくんに多大な影響を与えて来た鉄矢さんが「そのままでいい」って言ってくれたのは物凄く大きいと思います。ケンイチくんはきっと、少なくとも今までよりは生き易くなるでしょう。

だけど「こもりびと」が50代とか60代になると、たとえ一歩を踏み出す気になっても自力で社会復帰するのは難しい。そういう場合は支援団体を頼る道があるんだけど、こもりびとは「自分にそんな資格はない」って思いがちだから、親が亡くなったあと誰にも頼らず孤独死しちゃうケースが多いんだそうです。なかなか開き直れないんですよね。

世の中、人に迷惑をかけるヤツ、自分がトクするために人を陥れるヤツ、暴力や圧力で人を屈服させようとするヤツ等、クズ人間は無数にいますよ。そんなヤツらにだって生きる権利が与えられてるんだから、こもりびとがそんな遠慮する必要ないんです。頼れるもんはどんどん頼ればいい。

どうせこんな世の中です。人間なんてこんなもんです。それでも生きなさいって言うんだから、堂々と生きてればいいんじゃないでしょうか?

劇中、就職活動でさんざんパワハラやセクハラを受けたケンイチくんの姪っ子(北 香那)が言いました。「こんな社会でフツーに働いていられる人たちの方が、よっぽど異常かも?」って。ホントそうかも知れません。

というワケでポートレートは北香那さん。2009年から活動されてる若きベテラン女優です。
 


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2 コメント

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Unknown (gonbe5515)
2020-12-12 12:59:24
私は自分で自分の命を終わらせるということが絶対にできないだろうと思っています。だけれどもこの日本では、毎年3万人前後の方々がそれを実行していらっしゃいます。その境界を踏み越える人と自分との違いはなんなのか。

重ねて言えば、かつて私はひきこもる人に対してあまりいい印象をもっていませんでした。「弱い」「甘え」「親の責任」等々、いろんな理由をつけていたわけです。今は引きこもってしまう人の心の闇というか苦悩というか、私なんかには絶対わからないだろうことを抱えて今を生きておられる方のことを、たかが私なんぞに理解できるわけがない。エラそうに能書きたれる資格などない。そう思っています。

叔母に言わせると、私と兄、姉は「グレても不思議ではない」環境で育ったそうです。じゃあなぜグレなかったのか。兄と姉については知りませんが、私だけのことを言えば、担任してくださった小学校の先生に恵まれたから。

なんでもいい。今を生きづらく思っている人たち一人一人に、生きていくことを後押しするなにかが現れることを願っています。
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Unknown (harrison2018)
2020-12-12 17:59:03
人との出会いはやっぱり大きいですよね。それと、何か夢中になれることとの出会い。私は自主映画をやってなかったら自分が一体どうなってたか、想像するだに恐ろしいです。

こもりびとの気持ちは、自分がひきこもってないから正確には解らないんだけど、2~3ヶ月プータローした時と、映像業界でフリーで働いてた時期に仕事が無かった時は精神的にかなりキツかったので、部屋でじっとしてるのはやっぱりラクではないだろうと思います。

中には満喫してる図太い人もいるかも知れないけど、少数だろうと思います。それだけの強さがあれば社会に出てもやっていけるでしょうからね。
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