時計坂の家
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:1992-10
子供時代、期待していたのに期待通りいかなくって、ガッカリしたある種の喪失感。
友達に喜んでもらおうと思ってとっておきの宝物を見せたのに、たいして盛り上がらなかった時の自分の中の残念感。
自分の感情が高ぶっているのに、友達はそうでもなくて、その時感じた温度差と自分の幼さに気付いた時の恥ずかしさ。
もう、高楼方子さんって、児童小説なのにヒーローとかヒロインが登場して、助けてくれる大人がいて、不思議なことにも何となく理由がある普通の物語じゃなくって、子供時代に誰もが体験した、それでもって恥ずかしくて忘れてしまいたいような感情を、見事に思い出させてくれて、正直「まいった!」と思うような物語を書くんですよね~
高楼方子 著
『時計坂の家』(リブリオ出版)
作者の高楼方子さんと、絵を描いている千葉史子さんは、共に函館出身。
そのため、作品の舞台である時計台のある街、汀館(みぎわだて)の風景は、函館と重なります。
主人公のフー子は十二歳。
いとこのマリカに誘われて、夏休みを汀館の祖父の家で過ごすことになるのですが、その家にはある秘密が隠されていました。
坂の途中にある古びた時計台。
海を見渡すことのできる喫茶店。
古くから外国船が出入りしていた港町。
不思議な雰囲気を持ったマリカへの憧れ。
どこか近寄りがたい祖父との対話。
そして、フー子の母親がまだ幼かった時に姿を消してしまったという祖母に起こった事件。
「不思議の国のアリス」が英国風の不思議の国なら、この『時計坂の家』に登場する不思議の国は、マトリョーシカの少女たちが見え隠れする、ロシア風の不思議な国。
そうなんです、十二歳のフー子は、時計坂の家でとても不思議な体験をするのです!!
自分が主人公じゃなくって、脇役なんだと思い込む、自信のないフー子にすっごく感情移入できる~
じれったいというか、恥ずかしいというか、落ち込んだり浮かれたり、いらぬ心配に小さな胸を痛めたり、電話をかけるだけでドキドキしたり、あぁ、もう! 全部身に覚えがあるよ~(苦笑)
そんな子供の頃を懐かしく思い出すと共に、それとはある意味対極にある、フー子の祖父の価値観には大人としてハッとさせられます。
人を愛する喜び。
そして、それを失うことの哀しみ。
ひとは、いつまでも子供のままではいられない・・・
私はこのおじいさん、好きだなぁ~
夏休みに読むにはピッタリ!!
どこか「不思議の国のアリス」や「ナルニア国物語第一章」を思い出します。
あと梨木香歩さんの「裏庭」とか。
いい読書ができました♪