穂村弘さんの『短歌ください』を読みました。
先日下北沢にライブを観に行った時、
時間があったのでヴィレッジヴァンガードを物色していて出会いました。
本の情報誌『ダ・ヴィンチ』の読者投稿コーナー「短歌下さい」の作品をまとめたもので、
穂村さんの解説、批評が添えられています。
一般読者の作った短歌ですがびっくりしました。どれもみな素晴らしい作品です。
私は短歌や詩、小説はもちろん、絵でも音楽でも、
なにかを「創造する」ということが出来ない人間なので、
この煌めくような言葉のセンス、感性には嫉妬すら感じます。
例えばこんなもの。
○こんにちは私の名前は噛ませ犬 愛読書の名は『空気』です。
(女性・18歳)
○石川がクラス名簿のトップですあから始まらない朝もある
(男性・27歳)
○今顔が新種の猫になっててもいいや歩道の白だけ歩く
(女性・26歳)
これも好きです。
○コンビニで聞こえた遅刻の言い訳が「尾崎にバイクを盗まれました」
(男・25歳)
尾崎豊の名曲『15の夜』の一節、「盗んだバイクで走り出す」の"本歌取り"です。
年齢的には"尾崎世代"の私ですが、正直、当時から全く引っかかりませんでした。
むしろ、「盗まれたバイク」の持ち主に感情移入する方でしたので。
だからこの作品、笑いとともにその頃の感情が胸に迫ってきます。
先日読んだ、穂村弘さんの『世界音痴』の中に、
面白い映画を見たときほど「早く終わらないかなと思う」、と書かれていました。
一刻もはやく「面白い映画を観終わった後の自分」になって、安心したいのだ。
私もこれと同じような気持ちになることがあります。
何かに激しく感動した時、早くそのことを誰かに話したい、早く自分の世界に行きたい
(だから早く終わってほしい)
と思ってしまうのです。
そんな感覚に近いのかもしれません。次の一首。
○こんなにもしあわせすぎる一日は早く終わって思い出になれ
(女性・19歳)
クラシック音楽の場合、逆に「いつまでもこの時間(演奏)が続いてほしい」
と感じることもごく稀にありますが・・・。
言葉を吟味して、あれこれ単語を足し引きして作られたものもあるとは思いますが、
多くの歌は、まるでその言葉がふっと湧いて出てきた、天から降ってきた、みたいな
閃きのようなものを感じさせます。
若い方の作品が多いですけど、本当に驚かされます。
○「髪切った?」じゃなく「髪切ったんだね」と自信をもって言えばいいのに
(男性・19歳)
○来年はコスプレだねって話したら白セーラーは遺影の沈黙
(女性・18歳)
穂村さんは、これらの歌について、
どこが優れているのか、その面白さ、恐ろしさ、違和感、意外性を、
あるいは同じ音(おん)の繰り返しや、リズム感、押韻等の技術的な点など
的確に論評されており、「さすがはプロだなあ」と感じます。
○「大丈夫、お前はやれる」拒否された10円玉をきつくねじ込む
(男性・36歳)
○一秒でもいいから早く帰ってきて ふえるわかめがすごいことなの
(男性・35歳)
○「罪」という鞄を持ったたくさんの男の人が揺れている朝
(女性・27歳)
最後の歌は「TUMI」というブランド名を「罪」に見立てた歌です。
私はこのロゴを見るたびに、映画「ターミネーター」を思い出してしまうのですが、
「"罪"を持った人たち」という連想はなかったです。
同じ世界の観方、感じ方、受け取り方の多様さ、齟齬、断絶、誤解、意思疎通の難しさ
そして、それが故の面白さを改めて意識します。
"不穏な空気"や"恐ろしさ"を感じさせる歌について、穂村さんは「怖い歌は全ていい歌だ」
と書かれています。
それは、画家・中村宏さんの言葉
「事件性がないとほとんど描く気がしない。いわゆる「癒し」の絵など私には描けません」
と呼応する、芸術における"真理"だと思います。
先日下北沢にライブを観に行った時、
時間があったのでヴィレッジヴァンガードを物色していて出会いました。
本の情報誌『ダ・ヴィンチ』の読者投稿コーナー「短歌下さい」の作品をまとめたもので、
穂村さんの解説、批評が添えられています。
一般読者の作った短歌ですがびっくりしました。どれもみな素晴らしい作品です。
私は短歌や詩、小説はもちろん、絵でも音楽でも、
なにかを「創造する」ということが出来ない人間なので、
この煌めくような言葉のセンス、感性には嫉妬すら感じます。
例えばこんなもの。
○こんにちは私の名前は噛ませ犬 愛読書の名は『空気』です。
(女性・18歳)
○石川がクラス名簿のトップですあから始まらない朝もある
(男性・27歳)
○今顔が新種の猫になっててもいいや歩道の白だけ歩く
(女性・26歳)
これも好きです。
○コンビニで聞こえた遅刻の言い訳が「尾崎にバイクを盗まれました」
(男・25歳)
尾崎豊の名曲『15の夜』の一節、「盗んだバイクで走り出す」の"本歌取り"です。
年齢的には"尾崎世代"の私ですが、正直、当時から全く引っかかりませんでした。
むしろ、「盗まれたバイク」の持ち主に感情移入する方でしたので。
だからこの作品、笑いとともにその頃の感情が胸に迫ってきます。
先日読んだ、穂村弘さんの『世界音痴』の中に、
面白い映画を見たときほど「早く終わらないかなと思う」、と書かれていました。
一刻もはやく「面白い映画を観終わった後の自分」になって、安心したいのだ。
私もこれと同じような気持ちになることがあります。
何かに激しく感動した時、早くそのことを誰かに話したい、早く自分の世界に行きたい
(だから早く終わってほしい)
と思ってしまうのです。
そんな感覚に近いのかもしれません。次の一首。
○こんなにもしあわせすぎる一日は早く終わって思い出になれ
(女性・19歳)
クラシック音楽の場合、逆に「いつまでもこの時間(演奏)が続いてほしい」
と感じることもごく稀にありますが・・・。
言葉を吟味して、あれこれ単語を足し引きして作られたものもあるとは思いますが、
多くの歌は、まるでその言葉がふっと湧いて出てきた、天から降ってきた、みたいな
閃きのようなものを感じさせます。
若い方の作品が多いですけど、本当に驚かされます。
○「髪切った?」じゃなく「髪切ったんだね」と自信をもって言えばいいのに
(男性・19歳)
○来年はコスプレだねって話したら白セーラーは遺影の沈黙
(女性・18歳)
穂村さんは、これらの歌について、
どこが優れているのか、その面白さ、恐ろしさ、違和感、意外性を、
あるいは同じ音(おん)の繰り返しや、リズム感、押韻等の技術的な点など
的確に論評されており、「さすがはプロだなあ」と感じます。
○「大丈夫、お前はやれる」拒否された10円玉をきつくねじ込む
(男性・36歳)
○一秒でもいいから早く帰ってきて ふえるわかめがすごいことなの
(男性・35歳)
○「罪」という鞄を持ったたくさんの男の人が揺れている朝
(女性・27歳)
最後の歌は「TUMI」というブランド名を「罪」に見立てた歌です。
私はこのロゴを見るたびに、映画「ターミネーター」を思い出してしまうのですが、
「"罪"を持った人たち」という連想はなかったです。
同じ世界の観方、感じ方、受け取り方の多様さ、齟齬、断絶、誤解、意思疎通の難しさ
そして、それが故の面白さを改めて意識します。
"不穏な空気"や"恐ろしさ"を感じさせる歌について、穂村さんは「怖い歌は全ていい歌だ」
と書かれています。
それは、画家・中村宏さんの言葉
「事件性がないとほとんど描く気がしない。いわゆる「癒し」の絵など私には描けません」
と呼応する、芸術における"真理"だと思います。