『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第14章  焼討炎上  7

2008-06-21 07:45:20 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 そして、シノンは、この木馬をアテナ女神への貢物とすることで、故国への航海が無事であろうと安心して帰国の途についたとつけ加えた。
 プリアモス、トロイの将兵、そして、トロイの市民、彼等はシノンの弁舌に完全にしてやられた。わめき、すね、開き直ったかと思うとなだめすかし、そうかと思うと泣きすがり、足を出す、聞いている者を翻弄した。
 木馬の腹胴の中で聞いているオデッセウスの耳には、全ては聞こえては来ないが、話の端々が届いた。彼は、懸命に念じた。ひとつの山を越えたようだ。次に待っているのは、河か、谷か、心理的な遠隔操作、生まれて始めてのこの試練に、自分ではない自分を意識した。このように謙虚な気持ちになりえたことは、これまでにあっただろうか。去来する多くの思いを振り切って、作戦の成功だけを真剣に念じた。
 シノンの話で彼等は、木馬は、パラスアテナ神像の盗んだことへの詫びであり、アテナ女神への貢物であることと受けとり安堵すると同時に打ち壊すことはしてはならないと理解した。
 これが彼等の大きな間違いであり、陣を払っての帰国は、真っ赤な嘘であることに気がつかなかった。
 古代トロイの長い平和な時間が育んだ民情の優しさを、ギリシアの風土が育んだ戦士族の狡猾で奸智にたけた知恵が、今、トロイを征服しようとしている。
 シノンは、叩きの刑をうけたあと放逐された。
 木馬の城市内への引き入れが決まった。