『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  65

2011-04-22 07:25:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ユールスを背負った従者が森へ逃げ込んだ大鹿を眼で追っていた。逃げる鹿たちから大きく遅れている一頭の鹿がいるではないか、彼には、その鹿の苦しい息づかいが聞こえてくるように感じられた。
 鹿は大きな樹の幹に身を寄せるようにして立ち止まった。彼は、その鹿に近づいていく、そろりそろりと早足で接近していった。双方の姿形が確かめられる距離までに近づいた。
 鹿が身構えた。彼は腰の剣の柄を握り鹿に対峙した。鹿の息づかいが荒い、力をふりしぼって燃えている鹿の目が、赤く光った。目と目が合いスパークした。鹿は頭を低くした。
 対峙した彼は一瞬迷った。突くべきか、斬るか。鹿の獣としての勘が彼の迷いを読み取った。
 鹿は、持てる力を出し切って、彼をめがけて突っ込んできた。わき腹に矢をつきたてたまま突進してきた。
 彼の迷いは吹っ切れていた。
 抜剣!構えた。剣は腰の高さに、そして、剣先は鹿の胸部を狙って構えた。
 この緊迫のとき、背中のユールスも緊張していた。先ほど涙がにじんだ両目はすでに乾ききっていた