『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  350

2014-09-01 07:31:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニケは、マリアの船だまりをあとにして小一時間、進行方向の転換をする岬地点に到達した。アレテスはホーカスに方向転換の指示を出した。方向を変えるニケ、北東から吹いてくる風は湿っけを含んでいた。風にはニケを押す力がないが、帆を上げて進もうと意を決したアレテスは、展帆を指示した。漕ぎかたは、櫂操作の力みが軽くなった。ニケは右舷をやや高めて波を割った。
 エドモンは再び話し始めた。
 『では、先ほどからの話を続けよう』と言って、二人と目線を合わせた。
 『そう言ったわけで再建した三つの宮殿、集散所は、全く同じ様式、形式で二まわり、いや、三回りくらい大きくして建てた。建物の構成も同じなら敷地の区割りも全く同じといっていい。この宮殿、集散所を中心にして、街ができていった。もっともザクロスは、海に近く港湾街区として街並みができていったのだ。島ひとつがぶっ飛ぶ大爆発、大地震、ついてまわる降灰、この天変地異には当時の人々が腰を抜かしただろうと考えられる。この天変地異でクレタは変わった、農作物の不作が何十年も続き、島を去って、他に定住する地を求めて、島を去る人間が増えてクレタの人口が半分以下になったといわれている。自然が及ぼした大災害だわな』
 『へえ~、そうなんですか。それは、私らの知らない事情ですな』
 イリオネスは感じ入った。
 『その島の大半がなくなったテラ島はだな、このクレタ島の北、600スタジオン(120キロメートル)言ってみれば、ニューキドニアからイクラリオンまでの距離くらいにあたる。この大爆発の地震と降灰の大被害は、東も西もなくクレタ全島に及んだのだ。クレタにある三つの高い山の手前が被害が大きいといわれているが、俺が見たわけではないから判らん』
 三人は顔を見合わせた。
 『イリオネス頭が気づかれたかどうかはわからんが、その火山灰がクレタに降り積もったことで、クレタには背丈の高い草が生えんのじゃよ、あれから何百年たった今でもだが、草丈の短い草しか生えんのじゃよ。牧畜を生業としている者たちにとっては大打撃だわな。牛がいなくなって羊が増えたわけだ。それはだな、いま、原っぱに生えている草は、牛には食べにくく、羊に食べやすいというわけだ』
 二人は、エドモン浜頭の語るクレタの歴史、自然がもたらした壮大な天変地異の物語に耳を傾けた。