『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 ６４６

　『そうかそうか、ご苦労。ところでオロンテス、集散所方から連絡事項があったらよろしく頼む』
　『心得た』
　用件を終えたオロンテスは踵を返した。
　工房に戻った彼は、最終の打ち合わせをして、パン工房で作業に従事している者たち全員を招集して、夕めしの場をともにした 。
　彼は、一同に新商品の事を説明して、明日からの４日間のスケジュールを言い渡した。オロンテスの今日が終わった。
　この頃、パリヌルスは、テカリオンの船にいる。テカリオンと酒を共にしていた。
　『お前とこうして飲む酒はうまい！ここへ来る楽しみの一つだ。パリヌルス』
　『そうか俺もだ。お前と酌み交わす酒。これがうまい！』
　二人の話は、あちらに飛び、こちらに飛びと飛び回る。二人は話が上手い、飛び回る話がだんだんと輪を縮めてくる。テカリオンが今日、オロンテスと話をまとめた新商品の話に及んだ。
　新商品を大きく見て、商品の今後、未来について語った。
　『こう言って何だが、この商品の未来は、明るくてでっかいぞ。さきすぼみは考えられない。彼に力を貸して、発展的に商品の展開を図っていけ！俺が次にここへ来るのは、三か月後だ。新艇が完成するころだ』
　『そうか、テカリオン。お前として、新艇に関するここぞという、注文事項があるのか、あれば聞いておきたい。おまえにも１艇買ってもらいたいからな』
　『お～お、それか。それについては、今日、決済の折にイリオネス軍団長と話した。俺として１艇買うことを検討すると約束した』
　『ほう、そうか、ありがとう。注文事項があるのか。聞いておく』
　『注文事項か。希望というより、必須事項だな。帆張りの事だ。帆張りを２方式にしてほしい。あの帆張りは先進的でありすぎる、従来の帆張りもできるようにしてくれればありがたい。先進的な技術を売ることも必要だろうが、通常も大切だ』
　『解った。そのようにする。標準仕様として２方式とする』
　『よし！いいだろう。出来あがりが楽しみだ。ところで、昨日の話の事だ。話していいか』
　『聞く、話してくれ』
　『それは、新艇を売るについて、重要にして大切な一件だ。それは売るということの条件だ。おろそかにしてはならない条件だ。これを忘れては取引が成り立たない。そう思っていい』
　『その条件とは何なのだ？』
　『それは信用というものだ。信用というものは、その商品の大いなる価値なのだ。信頼につながるゆるぎない価値だ。ひと言でいうから肝に銘じろ！』
　『解った。姿勢を正して拝聴する』