『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  730 

2016-03-05 09:19:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、そうだな、中に入ろう、オキテス』
 二人は、粗雑なつくりではあるが頑丈そうな机をはさんで、向かい合って座に就いた。
 『おう、オキテス、数字を決めたいというのは何の数字だ?』
 イリオネスの目つきが変わってきている。
 『この新艇建造の仕事に携わっている者の働き価値を通貨価値として算入させることです』
 『おう、それか。よし!それについての相談か』
 『お願いします』
 『考えてみれば、うなづける思考だな。それをどのように考えて、原価に組み込むかだが、お前の考えを言ってみてくれ』
 『はい、私、私たちは、物の原価といえば、原材料の価格しか考えてきませんでした。集散所の者たちが考えている物の値段は、原材料の価格に、その物の製造に携わった者たちの働きを計算して、加えて、物の値段を決めている、そのように思われます。また、山菜、魚など、物は『ただ』ですが、それにかかわった手数を通貨価値として、それを加えて物の原価としているようです』
 『なるほどな。お前の言うことに理がある。アテネ辺りでは、そのことを次のように処理しているらしい。自分のする仕事を他人に依頼して、仕事をしてもらった場合には、その者の一日の働きを通貨価値として、2オボロスを渡しているそうだ』
 『ほう、そうですか』
 『我々にしても、それについて言えることがある、考えてみろ、オキテス。アレテスのやっている魚事業だ。スダヌスからは魚の納入に対して集散所の木札を受け取っている。パン事業の場合は、小麦の原材料費に、粉にして、練って、焼いてパンにするまでの手間を通貨価値に計算の上、それを加えて、パン1個木札1枚という価格になっていると、俺は理解している』
 『納得しました。軍団長これを見てください』と言って、オキテスは、持参した木板の一枚をイリオネスに差し出した。
 『おう、オキテス、これはなんだ!説明してくれ』
 『はい、新艇の原価計算に関する費目です。大まかに書いています。2段目に書いてあるのが、建造にかかわっている者たちのことです。その次、3段目が新艇の建造以外の仕事に携わっている者たちの働きを評価して、原価に加えるか加えないかです』
 『解った、むつかしい判断を必要とするな、ちょっと考える』
 沈黙する二人、無言の時が流れる。
 二人にとって、この件は、考えたこともなければ、やったこともないことである。即断することのできない事項であった。
 イリオネスは目を閉じて考えている、オキテスは窓外を見つめて考えた。
 イリオネスは、判断を下す立ち位置に立って考えている、アヱネアスの意向についても考えねばならない。この判断による不利益は許されない、不利益を絶対に許さないスタンスに立って、このことを考えた。

 
 昨日の投稿で変換ミスが一か所あります。訂正いたします。
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 深くお詫びいたします。
                  山田秀雄