『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  74

2012-06-15 06:29:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~っ、オキテス、天候予想が当たったな。皆も落ち着いているではないか。何事も順調が一番だ。まあ~、身の丈以上の欲を持たずに、現状満足で、一歩前へだ。ケガをせずに進もうではないか』
 『今の言葉、何か悟られた感じの言葉ですね。私の立場では考えられない欲望抑制ですね。私たちの実行姿勢は、120の成果を求めて、歩どまり80ですね。ということは、80の結果を目指すときは120の結果を目標として仕事を遂行していく、そのように仕事を計画して実行していかなければ望む結果を得られないのです』
 『それはそうだ。我々もそのように望んで指示を出している。そのように仕事を遂行されて望む結果を得ている。それを統率していく各階層に求めている。それをよしとして励んでくれた結果として、我々には明日が見えてくる。それをやらないで80を遂行目標として60の結果では、明日がないといっても過言ではないのだ』
 話が結論に至った。
 父との話を終えたアエネアスが、二人のいるところへ身を運んできた。
 『お~、オキテス来ているのか。父との話が終わった。これでデユロスでの用件を済ます目途がついた。ちょうどいい、イリオネス。デユロスでのことを打ち合わせておこう。ところでオキテス、今、時間があるのか』
 『え~え、統領が、いま、言われたことが、ここへ来た用向きです』
 三人は、タイミングのよさに顔を見合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  73

2012-06-14 07:39:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 順風満帆、いや、満帆には少々不足があるものの船団は洋上を順調に航走していた。オキテスはこの航走状態で満足とした。彼はアミクスを呼んだ。
 『アミクス、船の状態はどんな具合だ』
 『はい、波の状態が穏やかといっても、風の状態に準じての波の大きさです。今のところ、船速に不足を言わない限り順調と言えますが』
 『そうか、よしっ。このあと俺は統領と軍団長といろいろと打ち合わせごとがある、船倉にいる。何かあったら連絡してくれ』
 『判りました』
 オキテスは船倉に降りた。イリオネスはくつろいだ姿勢で周りの者たちと雑談を交わしていた。彼はオキテスに気づき声をかけた。
 『オキテス、どうした?』
 『軍団長こそ、くつろいでいらっしゃいますね。ところで統領は?』
 『あ~あ、統領か、父上と話中だ』
 『そうですか。統領と軍団長とデユロスに着いてからのことを打ち合わせておきたいと思いまして、、、』
 『おっ、そうか。統領はじきに戻られると思う。ま~、そこに座れ』
 オキテスは腰を下ろした。
 ユールスはアカテスとともに船上にいた。二人は海を眺めながら、笑い、語らいながら時を過ごしていた。*

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  72

2012-06-13 06:48:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判ったな。続いて二番船、一番船が殿りだ。よしっ!船を海へ入れる。出航だ』
 全員が各船に取り付き、砂浜に線条を引いて海へとズリ動かした。
 『お~い、アレテス、これはだなミコノス近辺の島の位置を書き記した木板だ。よく見るのだ。ミコノスの○印は、この船団の今日の停泊予定地だ。パロスの×印は、明後日の集結地点だ。△印は第一船団のデユロスの停泊地だ。□印は第二船団の停泊予定地だ。いいな。持っていくのだ』
 パリヌルスは、海を見つめた。
 『三船とも海に入った。出航だ。アレテス、行けっ!お前の船が先頭だ。しっかり漕いで行けっ!』
 三番船が波を割った。二番船が続く、殿りの一番船が海面を泡立てた。全船が浜を離れた。東の空には太陽が昇り終えていた。
 全船団が適当な距離をおいて南下していった。緯度をこの辺りまで下ってくると外気もエノスに比べて暖かく感じ過ごしやすかった。
 洋上を渡る風は、小島を出航したときに比べ強さを増していた。かぜは北からの風となり、空には雲もなく、秋の陽射しが海上を行く彼ら一行に照りつけた。
 洋上を行く各船は、櫂をあげ風力による航走としていた。彼らは心に平静さを取り戻していた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  71

2012-06-12 06:37:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとオロンテスは、申し合わせたように東の空に目線を運んだ。陽の出前の東の空は明るくなりつつあった。星がひとつ、またひとつと消えていく。
 『よしっ!いいぞ。オロンテス、出航だ。いい風が吹いている、しかし、風の力だけでは船は走らんぞ。漕がなければならん、判っているな』
 『パリヌルス隊長、大丈夫です。判っています』
 『オロンテス、これを持っていってくれ。ミコノス近辺の島を書いておいた。明後日の船団の集結地点は×印のところだ、また、ナクソスとパロスの狭い島の間は真ん中を行くのだ。判ったな』
 彼は木板をオロンテスに手渡した。
 『刻限だ。出航のときだ』
 『では、行きます』
 オロンテスは、乗船するや、帆を上げさせ、一斉に漕ぎかたを始めさせた。海面に泡の航跡を残し浜を後にした。
 先発した六番船の船影は、はるか前方の薄明の中にあった。
 パリヌルスは、残っている三船の船長と副長を呼び集めた。
 『一同、よく聞くのだ、いいな。この三船は陽の出とともにこの地から出航する。この時期の太陽の昇り方は早い、ほの明るくなったと思ったら、すぐ、陽が昇ってくる。いい風が吹いてはいるが、この風の力だけでは少々無理だ。漕ぎかたの踏ん張りが船を予定している速さで進める、一同、頼むぞ。全員が乗船したら、直ちに出航だ。三番船が先頭だ、いいな』
 判ったとうなずく五人、彼は五人と目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  70

2012-06-11 07:58:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 乗船したオキテスは、出航の号令を発した。
 『一同、いいな。出航する。帆を揚げっ!漕ぎかた始めっ!』
 彼は号令を発しながら舟艇を見ている、オキテスの大声は舟艇にも届いていた。舟艇は六番船の右前方にいた。彼らは、センターの帆、それに船尾の三角帆も揚げていた。風を受けて海面をすべるように航走し始めていた。櫂の使用は必要ないらしい。。
 六番船の船上では、統領、軍団長、アカテス、ユールス、そしてオキテスが手を振っていた。アミクスはというと船上を飛び回っていた。漕ぎかたをリードする木板の打音は調子を伝えていた。
 海面を泡立てる櫂、白く航跡を残して遠ざかっていった。
 浜にいるパリヌルスは、一番、二番、三番船を見ながら、オロンテスの五番船、四番船に出向いた。
 『お~お、オロンテス、ご苦労。どうだ、出航はできるか』
 『四番船は、もう海に入りました。五番船はこれからです。助っ人を頼みます』
 『判った』
 パリヌルスは、大声をあげて一番から三番船の者たちを呼び寄せた。彼らは、浜に座している五番船に一斉に取りついた。
 船をズリ動かす掛け声があがる。掛け声は黎明のときを迎えつつある浜の静けさを裂いた。
 五番船は難なく海に浮かんだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  69

2012-06-08 08:42:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 統領、軍団長たちが姿を見せた。オキテスが彼らを向かえる。ユールスはアカテスに手を引かれていた。彼らはオキテスに声をかけた。
 『おっ、オキテス、おはよう。準備が整いつつあるな』
 『おはようございます。乗船はもう少々お待ちください。船が海に浮かぶまでですが。あの嵐のときが満潮のときだったらしいのです』
 『判ってる。いい風が吹いているな。少々力不足かな』
 『いえ、この風の力なら漕ぎかた次第で予定の船速が出ます』
 そこへパリヌルスが数枚の木板を持って姿を見せた。
 アミクスが六番船が海に浮かんだことをオキテスに報告しに来た。
 『よしっ、判った。舟艇のギアス艇長にここへ来るように伝えてくれ。そして、全員を乗船させるのだ、判ったな。統領たちは俺が船にお連れする。急げ!』
 パリヌルスがオキテスとギアスに持ってきた木板を手渡して、概略を話した。星明りの浜辺では木板の図面が読み取りにくかった。
 『この木板にはミコノス近辺の島の所在と明後日以降の船団の集結地点が記してある。明るくなったら確かめてくれ。そこに記したX印の地点までは、この時節の陽の出から昼頃までの航走時間で到達する。判るな。例で言えば、エノスからイムロス島までくらいの距離だ。また、通過するナクソス島とパロス島の間の狭いところは、真ん中を注意深く通り抜けるのだ。集結地点はパロス島の南端の浜だ。判ってくれたな』
 『パリヌルス、ここまでしてくれて有難う。もう頃合だ出航する』
 オキテスは言って、統領たちを舟艇に乗せて、六番船に乗り込んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  68

2012-06-07 08:15:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夜明けはまだ遠い、満天の星が降ってきそうである。浜には気温の落差が北東からのいい風を送ってきていた。
 オキテスは、パリヌルスを起こした。二人は申し合わせたように星空を見上げた。パリヌルスが声を上げてカイクスを呼んだ。
 『おい、カイクス、起きているか』
 『はいっ、起きていますが』
 『各船長が起きているか、見てきてくれ』
 『判りました』
 彼は走って各船を見回った。
 『隊長、皆、起きています。もう彼らは出港準備に取り掛かっています。五番船のオロンテス船長は、食糧の配布を始めています』
 『そうか、判った。カイクス、次は伝達だ、急げ!六番船を海に浮かべるのに、二番、三番船から助っ人を向かわせるようにと伝えろ。次は、オキテス隊長に統領、軍団長に出港準備が整ったことの伝達をどのようにすればいいかの指示を受けて行動してくれ』
 『はい、判りました』
 彼は、六番船に向けて走り、通りすがりの二番、三番船の者たちに声をかけていった。
 パリヌルスは、昨夜書きあげた木板を手にして部下たち十数人を引き連れて六番船に向かった。
 六番船が動いている。砂浜を海に向かって動いている。じりっ、じりっと、ズリ動く、線条を砂浜に引きながら、海に向かって動いていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  67

2012-06-06 06:51:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ギアス、お前に言っておきたいことがある。艇長としてやってもらいたいこと、そして、操船についてだ。オキテス船長からも話はあると思うが、お前の役務は、ミコノス島の住人を装って統領の座乗している六番船を案内することだ。武器は目立たぬように身につけていること、部下もそれにもとづいて従わせることだ。判ったな。あくまでも、統領の身辺警護だ。それから、舟艇は小型でありながら外洋も航行できるように出来ている。その上、身軽な船に出来ている、船速は極めて出易い。乗員は20人余りだ。外洋では、波が荒いと波にあおられて航走の安定度は高いとは言えない。それをふまえて操船してくれ。以上だ』
 『判りました』
 パリヌルスは、打ち合わせに抜けがないか、かえりみていた。
 『おう、パリヌルス、ご苦労』
 『おう、オキテス、打ち合わせに抜けがなかったか、ふりかえっている。どうだった』
 『抜けはなかった。では、明朝な』
 二人のいるところへイリオネスが寄って来た。
 『パリヌルス、明朝の段取り、しかと心得た。ご苦労であった。頼んだぞ』
 オロンテスの姿を目にしたパリヌルスは大声をあげた。
 『お~い、オロンテスっ!』
 『はっ、はいはい、何ですか』
 『焼きあがったパンと副菜のことだ。明朝、各船に配るのか?』
 『その段取りですが』
 『俺の考えでは、出来上がっている分を、二、三日分と言うことで、人数に割り当てて全て配ってしまえ。全員が浜で一緒にに過ごせるようになるのは早くて明後日の夜、何かがあれば、もっと遅れるかもしれない』
 『言われる通りかも知れないですね。理由を伝えて、全て配分してしまいます』
 『いいだろう、そのようにしてくれ』
 彼は緊迫した思考で決断を伝えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  66

2012-06-05 08:55:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パルヌルスからの指示命令は、ここでひと区切りして、話を続けた。
 『第二船団は、オロンテスが船長している五番船と四番船の二船である。この二船は、ミコノス島の交易地に向かう。交易地の至近の浜に停泊する。四番船の船長には、リュウクスを任命する。リュウクス判ったな、ギアスの抜けた代わりだ。第二船団のその用向きは交易を装ってミコノスに停泊することである。第三船団は最後にこの浜を離れる。二番船の船長はアンテウス、副長にはマリトロスを任命する。三番船は変わりなしだ。この船団は戦闘船団として、ミコノス島のデユロスへの至近の浜に停泊する。以上ここまで話しことについての質問はないな』
 ここでひと呼吸入れた。
 『明朝、この浜を離れる刻は、頭の上に星が瞬いている。第三船団の殿りである一番船が浜を離れる頃には陽が昇る頃であると思う。各船団の離間距離は、2スタジオン(約400メートル)くらいとする。尚、浜を離れる頃には、大陸からの風が船を押してくれるであろうと期待している。風向きは東寄りの北風と思ってよろしい。願いをこめた『思う力』は、万事良い方向に働くと思っている。以上だ』
 パリヌルスはいい終えた。
 『では、一同、判ったな。質問はないな。では、これで場を解く』
 一同は納得を表す返事を力強く返した。
 『あ~あ、ギアス、言っておくことがある』
 彼はギアスを呼び寄せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  65

2012-06-04 08:16:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夕食を終えた船長、副長たちが集まった。
 『おっ、アンテウス、六番船の乗組員の中にマリトロスがいるだろう。彼を呼んできてくれ』
 『判りました』
 程なく全員が顔をそろえた。アエネアスもイリオネスも同席している。パリヌルスは全員を見渡した。
 『諸君っ、出航に関しての打ち合わせを行う。明日の航海に備えて船団の態勢を変える。しっかり聞いてくれ。その態勢に準じて、人事の編成も変わる、いいな。これらの編成は、我々が知っていない海域を航海することと、もうひとつ、我々が知っていない土地を訪ね停泊する。それ故にだ、いつ、どこで、どのような、未知なる危機に遭遇するかも知れない。それらにこの態勢でもって対処する。判ったな』
 彼は、ここで言葉を切って、一同と目を合わせた。彼らの眼差しは、薄暮のなかで異様に耀いていた。
 『では伝える。編成について出航順に説明していく。説明にはいる前に伝えておくことがひとつある。二番船に乗り組んでいる者たち全員は六番船に乗り組む。六番船の者たちは二番船に乗り組む。乗り組みの交替である。いいな。六番船の船長はオキテス隊長、副長はアミクス、六番船に従う、また、先導する舟艇の艇長はギアスが努める。六番船には統領、軍団長、アンキセス、ユールス、アカテスも乗る。この二船は明朝一番にこの浜を離れ、デユロス島に向かう。それはデユロスにおいて、統領が果たすべき用向きがあるからである。判ったな』