『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  465

2015-02-13 07:56:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 場にいる者たちから拍手が起きた。イリオネスは場の意志を理解した。身体をアヱネアスの方に向けた。
 『統領、そういうわけです。統領の意思次第で事が決まります。どうぞ』
 イリオネスの短いひと言をアヱネアスは理解した。
 『では、俺が意に決したことを一同に伝える。新艇を向こう3カ月くらいの時月をもって5艇を建造する!』
 この一言で場はど~っと沸いた。一同から拍手が起こる。イリオネスが場の意志が決まったことを告げて話し合いを締めくくった。ここに新艇の建造を決定した。
 イリオネスは、この新艇建造をビッグプロジェクトに位置づけて対応していこうと心に構えた。
 『おう、君ら!ちょっと待て、散会するのをちょっと待ってくれ。伝えたいことがある』
 イリオネスは、持ち場に戻ろうとする一同を押しとどめた。
 『明後日だが、朝からこの場所で新艇建造計画の段取り諸手配について打ち合わせをする。各自試案を作成して集合してくれ。以上だ。今日の話し合いをこれで終了する』
 一同はそれぞれの持ち場へと戻った。
 『おう、パリヌルス、この際、新艇を売ることだが、テカリオンだけに頼らずに我々の手で売る方策を考えてみてはどうだろうかと俺は考えている。お前も考えてみてくれ。三本帆柱の小型船、いや、中型船というところかな。船に乗る者どもの注意をひきつけるぞ!』
 『解った、考えてみる。お前、いいことを言うな。そこでだが、明日、建造計画の全体について、二人で話し合わないか?』
 『解った!了解の2文字だ』
 『ドックス、お前も話し合いに加われ』
 『解りました』
 『3カ月に5艇だぞ。新艇建造の資材調達が大事な要務だ。これに関して考えねばならん』
 『そうですね。良き資材の調達、これが肝心です。新艇の出来上がりに影響します。宜しくお願いします』
 『しかしだ、統領の一言で<いつ><どれだけ>が決まる。<どのように>が俺らが担当する。軍団長がそのあたりをしっかり取り仕切っている。的をはずさない的確さがある』
 『そうですね。全く抜けがありません』
 『そうだ、ドックスよろしく頼む』
 『解りました。いい船造りに邁進します』
 二人の会話が二人の意志を醸成して、新艇建造の大事に対峙した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  464

2015-02-12 10:08:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『では、話し合いは、二つ目の新艇を造り、交易をするか否かについて話し合う。パリヌルスの言うには、初めから売りに出そうということにスタンスして発想して新艇を試作している。では、これより<造る、売る>について諸君から意見を聞く』
 イリオネスは一同と目を合わせ、話を継いだ。
 『この件を簡単に考えて結論を出すか、むつかしく考えて結論を出すか考えている。いま、我々の持てる力ではむつかしく考える必要もないように思えるのだが、これはとても重要な案件であると考えている。これについては諸君らの意見を聞いたうえで決めたい。そのうえで統領の意志をもって決定する。いいな、以上だ。オロンテスから意見を述べてくれ』
 オロンテスが立ちあがった。
 『私の考えは<造って、売る>です』
 『つぎ!パリヌルス。君の考えは?』
 『はい、私の考えは、<造って、売る>にスタンスして試作した新艇です。これについては、オキテスとも事前にいろいろと意見を交わしています。二人が手掛けていた<方角時板><風風感知器>の製作もこのたびのテカリオンとの取引で終わりました。これらの仕事を終えて、次は何をするか?について意見を交わしました。そこで一致した考えは<小船でも試作しては>だったのです。そういったわけで新艇試作に着手したわけです。一昨日テカリオンがこの地を去るときに言い残したのは2か月後に来るとき3艇ほど買いたいと意思表示しています。私の考えは<造って、売る>です』
 『解った。次、オキテス、お前の意向は?』
 『私の意向は、パリヌルスが述べたとおり<造って、売る>に賛成です』
 『そうか。ドックス、お前の考えは?』
 『はい、私の立場では、このことについて申し上げる立場ではありません。私は皆様方の用命に従って作業に携わる立場にあります。以上です』
 『よし、判った』
 『では、俺の考えについて述べる』
 イリオネスは、前置きして考えを述べた。
 『新艇の<造る、売る>について、この話し合いの場にいる6人のうち3人が意見を明らかにしている。これの意思決定については、統領の意向に従う!これでどうだ!』
 イリオネスは言い放った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  463

2015-02-11 08:21:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほっほう~、俺が新艇を試乗するについて、急遽、特別の仕様にしたということか』
 『はいそうです。私たちが日ごろ何を考え、新しい明日の構築に心を砕いているか、それをカタチにしたまでです』
 『そうか、お前らの生きている日々の進歩のカタチと受け取っていいのだな』
 『その様に受け取っていただければ幸いです。ところで、新艇試乗の件について触れますが、新艇の試乗も展帆して航走する距離が、小島の北岸に沿っての短い距離では測りかねることでもあり、ギアスに命じて、今日のキドニア行きに新艇で行かせました。ギアスには、チエック項目を2点にしぼり、その2点を深く分析解明するように指示しました。先ほどギアスからその結果を聞き取りました。その分析解明で考えてもいなかった新艇の性能を知った次第です。それについて報告いたします』
 『ほう、パリヌルス、そこまでやったのか。そのギアスの報告とやらを聞く』
 アヱネアスはパリヌルスと目を合わせた。パリヌルスはギアスから受けた報告を丁寧に話した。一同は関心事でもある新艇の性能を息をつめて聞き入った。
 『ほっほう~、その様な分析解明結果か、いいことづくめではないか。まあ~言ってみればそうであり、聞いてみてそうかと思われる結果ではないか。諸君、話を聞いて質問があれば聞いてくれ。パリヌルス、解る範囲で答えてくれ』
 『パリヌルス隊長の説明が丁寧で質問はありません』
 『いや、俺は聞きたいことがある』とオキテスが口を開いた。
 『パリヌルス隊長、舳先と船尾にタテ方向に取り付ける三角帆の事だが、その効果はどのように働くかをきちっと解明する必要がある。いま、現在の我々にとって未知の分野であるが、それについて、どのように考えているかを聞かせてほしい』
 『その件については私も解ってはいない。それをやるとすれば、実際にそれを取り付けてやってみようと考えている。それには操船技術も関係することでもあり、はい、取り付けました、どうぞご自由にというわけにはいかん。これはギアスから聞いた提案意見でもあり、これの実験は間をおかず始めるであろう、いや、開始する心算である。これの理論と操船技術の兼ね合いで考えている。以上だ』
 『解った。了解した』
 『今のパリヌルスの話、一同理解したな。次の件に移る』
 イリオネスは、一番目の案件の終了を告げた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  462

2015-02-10 12:20:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、パリヌルス、来たか。これでいい、軍団長、話し合いを始めよう』
 アヱネアス、イリオネス、パリヌルスら三人、それにドックスが加わって6人が顔をそろえた。話し合いの進行はイリオネスの担当で始まった。
 『おう、一同、ご苦労。ここに顔をそろえた六人、一同は新艇の試乗を終えた。そして、新艇の造船に携わった諸君はご苦労であった。新艇は素晴らしい出来であり、いい船と言える。新艇は未来を先取りした構造でできている。考えるに、素晴らしい発想をカタチにしている船である。その効果のほどを解明していかねばならない。今日、話し合いたいことは次の2点である。一つ目は構造効果の解明であり、二つ目は新艇を造って交易するか、しないか、を考えたい。今日の話し合いは新艇のみが議題である』
 五人がイリオネスの言葉に頷いた。
 『新艇に試乗して感じたことを話すわけだが、ドックスから新艇の構造について話してもらう。ドックス話してくれ』
 『では、簡単にですが、新艇の主要構造である、帆柱3本構造について話します。帆柱3本構造については、パリヌルス隊長の発案です。その根本構造の主旨の説明を受け、新艇の形を造形、そして、パリヌルス隊長と相談して造りあげた次第です。結果の全ては、海に浮かべて、走ってみてのことだとして、造船に取り掛かりました』
 アヱネアスが質問してきた。
 『ほう、そうか。それではパリヌルスに聞く。パリヌルス、それでは、どのように考えてドックスに指示を出したか、それを聞こう』
 『私の発想の原点は、簡単に考えていました。<船を造って売る>ただそれだけです。それだけにスタンスして、ドックスに指示をしました。言ってみれば、カタチに重点をおき、性能を二の次にして、とにかく人が買いたいと思う<カッコイイ船>を造ろうが原点です』
 『ほう、そうか。大胆な発想だな。それで出来あがったのが、あの新艇か』
 『はい、そうです。出来あがった新艇を見て、第1回目の試乗をした折には、これは、これまでの船とあまり差異がない、もっととびぬけた感覚のモノにしなければいけないと思い、ドックスと事前に打ち合わせておいた船の仕様に急遽、時間をかけずに完成させて、第2回目の試乗を実行した次第です』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  461

2015-02-09 08:37:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『艇は船だ。それは一向に構わん。お前、やってくれたな。ありがとう。この件をお前に託したことは間違いではなかった。先を聞こう』
 『一枚帆に比べて、帆の全体構造の違いで風のはらみ具合が違います。三角帆の場合は、帆の下部に風をはらみます。四角帆は帆の上部にも風を受けます。それだけ、船を走らせる力になりますが、航走の不安定効果につながります。三角帆には航走を不安定にする力の働きがない、あっても極めて小さいといえます。そして、帆のたるみ構造が風をはらみ、風力を逃さず効果たらしめているように感じる走りでした。風力を帆の中ほどから下部に集中して船を押す、船の走行安定性を感じさせる走りでした。また、今日の帰りの風のような斜め後方から風が船を押す場合に船尾に取り付けている縦方向の三角帆を舳先の帆柱にも設けていいのではないかと考えます。風はらみ効果がよくなると考えられます』
 『判った。三本帆柱、三角帆の船舶の走行安定性を理屈で説明してくれた。ギアス、ありがとう。三本帆柱、三角帆を展帆した船の走行安定性が四角帆一枚の船に比べて、どうして走行安定性がいいかの理屈に自信がなかった。ギアス、それをお前が解明してくれた。礼を言うぞ!何となく未来を覗き視た感じだ。俺もまんざらではないな。よし!休んでくれ』
 『パリヌルス隊長、貴方は常識の破壊者ですね。今は、まだ、船の帆は四角形がいいと思っている者がすべてと言っていいくらいです。隊長、貴方は素晴らしい人です』
 二人は話を終えて立ちあがった。その時、遠くの方からパリヌルスを呼ぶ声が聞こえてきた。
 『パリヌルス隊長!』
 『おう、ここにいるぞ!何用だ?』
 『統領からの伝言です。話し合いを始めるとのことです』
 『判った。ギアス、ありがとう。統領からの呼び出しだ、俺は行く』
 ギアスは、歩き始めたパリヌルスの背中を尊敬のまなざしで見送った。
 このような男たちが未来を構築していくのであろうかとギアスは感慨を深めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  460

2015-02-06 11:16:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あ~,隊長、用は済みましたか?私の方はまとまりました』
 『そうか、では聞こう、話してくれ。今日の航走条件は、新艇を知るには、願ってもない好条件であったと考えている。出た答えが俺の想いを超える結果かどうかだが』
 『隊長からいただいた案件について答えます。一番目の帆の枚数の差異については、三枚帆のほうが船を合理的に押すように感じられます。一枚帆の面積に比べて三枚帆の総面積のほうが少々ですが大きいと考えられます。それと、帆の設置位置が舳先き、真ん中、船尾と好位置にあり、風の力が船に対して効果的に働いていると感じました。一枚帆は大きいですが、船をうまく押しているかというとそうではないと思われる点があります。三枚帆のほうが船をうまく押し進めているように感じられます。操舵の者に舵取り感覚を質したところ、操舵感覚が少々一枚帆の船と違うような気がすると言っていました。船の走りが安定していることが確かです。船全体を一点で押すより三点で押し進める、このほうが海上航走に合理的です。そして、操船を楽にしてくれるように思えます』
 『ほう、そうか。ギアス、お前、いいところを指摘してくれている。短い距離での航走では、測り知ることのできない効果だな。して、二番目の件はどうであった?』
 『帆の構造効果ですね』
 『そうだ』
 『あの帆の構造は効果抜群です。キドニアからの帰りの風も追い風に恵まれて効果判定をすることができました。風もキドニアに向かう時に比べて強く吹いていて、例の<風風感知器>で計測したところ中と強の中間くらいでした。船は、やや右後方からの風に押されての航走です。行きと比べて違う点は、船上人員の数が行きの時の3分の2くらいに減っているわけですから、総荷重がそれだけ軽くなっているわけです。船の船速が速かったですね。いつもの航走時間の3分の2くらいの時間で帰って来たと思います。あのように速く海上を駆け抜けたことは始めてです。あの風力では一枚帆の場合は、やや低く展帆して走りますが、満帆航走を決断して、船、いや、新艇を走らせました。答え報告で艇の事を船といったことお詫びいたします』
 ギアスは、答えの中で艇の事を船としたことを詫びた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  459

2015-02-05 06:55:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 新艇に試乗した者たちは、その好印象について語った。展帆して航走する印象を話題にした。この時代、この好印象を科学的に分析することはできない、船舶の展帆航走について海に生きた人間たちが試行錯誤を重ねたに違いない。未来を手さぐりで覗き視て、進む、戻る、思考を繰り返し、それをカタチにして、遅々とした遅い歩みで進化したであろう。彼らは歩みを停めなかった。何があろうとも『前へ!』であった。
 パリヌルスは、浜でキドニアから帰ってくるギアスを待っていた。彼が如何なる情報を持って帰ってくるか、予想する想いと差がないか、それとも、とんでもない情報を持って帰ってくるか気に掛けていた。
 彼は海を眺めている。朝の風はいつもと変わらない西風であったが、春の気まぐれ気候の為せるところか、キドニアから帰るころには、やや北寄りの東風が強めに海をなめ、波がしらを風に飛ばしていた。
 ギアスの操艇が気にかかった。彼は、風に髪をなびかせて、波濤の海を見つめている。視野の中に船影をとらえた。
 『おう、帰ってきた!ギアスの奴、この風に、三本の帆柱に展帆している』
 新艇の船速は速い、急速で浜に向かってきている。適当な距離に来て帆が降りる、艇は余速で浜に着いた。ギアスがパリヌルスの前に立つ、着港を伝えた。
 『隊長!只今、無事帰りました』
 『おう、ご苦労!』
 波しぶきで濡れたギアスの顔を見た、目と目が合う、彼の目はギアスの労をねぎらっていた。
 『おう、ギアス、お前ら昼めしは?』
 『キドニアを出る前に済ませています』
 『そうか、俺に聞かせる状況報告がまとまっている、まとまっていない、どっちだ?』
 『まだ、まとめてはいません。。少々時間を下さい』
 『判った。まとまるのを待つ。俺はちょっと用足しに行ってくる』
 パリヌルスは座をはずした。ギアスは新艇のところに戻った。乗り組みの一同と力を合わせて艇を浜に揚げた。彼は、その姿を見つめて独り言ちた。
 『この強さの風の中でも、艇の走りが安定していた。想像の域を超える船速の速さ、効率のいい風はらみ、いいことづくめだ。非の打ち所がない。まあ~、そいうところだな』
 彼は息を継いだ。
 『これを考えて造りあげたパリヌルス隊長は、常識の破壊者と言ったところか』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  458

2015-02-04 07:05:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜にはアレテスの姿があった。
 『あ~、隊長。お二人で何です?』
 『おう、アレテス、来ていたのか。まあ~、ちょっと待て、汗流しのひと浴びをしてくる』
 『判りました』
 アレテスは、浜にいる者たちと話し合った。一、二拍をおいて、パリヌルスとオキテスが海からあがってきた。
 『おう、アレテス、待たせたな。今日は何か用があったのか?』
 『いえ、今日は軍団長への近況報告です』
 『それはご苦労。漁の成果はどうだ?』
 『このところ、連日、大漁続きです』
 『それは何よりだ。うれしい悲鳴をあげているのか』
 『まあ~、そういったところです。先日は釣り針をありがとうございました。ちょうど、釣り針がなくなりかけていたところだったのです。助かりました。漁は、いい仕掛け、いい釣果です』
 『そうかそうか、それは何よりであった』
 『この目でも見る、耳にもしました、新艇の事。海上を行く姿を見たのですが、カッコイイ!新艇ですね。一度乗せてください』
 『おう、判った。遠慮せずにいつでもいいぞ。待て!今日、新艇で小島へ帰れ。いま、ドックスを呼ぶ』
 『お~い、ドックス!』
 パリヌルスは大声をあげた。
 『おう、ドックス、いま、なにをやっている?』
 『はい、新艇の点検を終えたところです』
 『そうか、アレテスを新艇で小島へ送ってくれないか。島を西回りで行け』
 『判りました。アレテス隊長、行きましょう』
 『おう、ありがとう』
 アレテスは、パリヌルスとオキテスに一言告げて浜をあとにした。

 『アレテス隊長、櫂を握ってみますか?』
 『おう、いいな。握ってみる』
 アレテスは、ドックスの言うままに漕ぎ座に就いた。ドックスが声をかける、漕ぎかたが櫂操作を始める、艇が軽く波を割り、進み始めた。
 艇が島の北端に到り、方向を転じる、ドックスが西風を読む、展帆の指示を出す、艇が瞬時に帆走にうつる、アレテスは安定した展帆走行を体感した。新艇は島の東端を廻って、アレテスが降りる渚に艇をつけた。
 『ドックス、ありがとう。素晴らしい乗り心地だった。感激感激だ』
 彼は礼を言って下船した。アレテスは新艇の新しい帆のカタチ、操作の簡単さに目を見張り、新しい艇の走りに感動して興奮を抑えがたかった。アレテスを浜で迎えた小島の一同は彼から新艇の試乗感を聞いた。
 『新艇に乗った感じか。漕いで走る分には変わるところがない、櫂操作が軽かったな。それが第一印象だ。次は展帆航走の印象だが、走りの安定性が素晴らしいの一語に尽きる。一枚帆と違うとすればそのことだ。それを思うと未来は、こんな船かなと思う』
 アレテスは、新艇の印象をこのように語った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  457

2015-02-03 07:45:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、リナウス、ご苦労。新しい訓練用防具、木剣を使っての皆の上達具合はどうだ?』
 オキテスが問いかけ、話を継いだ。
 『いやな、昨日、あの防具を身に着けて、パリヌルスと撃剣を交わした、打ちつ打たれつしたのだが、怪我が軽く済む。これまで真剣を使ってやっていたときみたいな、血を流す、その心配をせずに打ち込めるところがいい。それで練度の上達具合がどうかなと思ってな』
 『隊長、あの防具を使っての訓練は効果があります。真剣での訓練のような怪我もなく、打撲程度のけがで済みます。みんな喜んでいます。訓練をする者たちの練度、上達具合に進歩が見えています。防具を身に着け、木剣を使っての訓練は、彼らの撃剣打ち合いの技、能力を向上させています』
 『敵と対峙して、これに負けない技を身につけさせ、兵としての強さを進化させる。リナウス、気を配ってコーチしてやってくれ。強くなることは自分を護ることだと理解させてくれ』
 『判りました』
 『昨日は木剣で汗を流した。今日は槍で汗を流す。お前も一緒にやるか?』
 『いいですね、やります。お願いします』
 三人は、防具を身に着け、槍先を工夫した木槍を使って、2対1の撃槍試合を行った。突きつ突かれつ、撥ねつ撥ねられつ、突き合う試合を交互に立場を変えて展開した。
 三人の試合ぶりを見る者が周りを囲んだ。囲んだ者たちがやんやの喊声をあげて、三人をあおった。三人は数十合突きかわし、試合を終えた。周りの者たちは三人に拍手を送った。
 オキテスが口を開く。
 『リナウス、お前の腕は大したもんだ。俺の突きをあのようにかわすとは、、、』
 『オキテス隊長の、あの鋭い突きを交わすのは、間一髪、紙一重、大変でした』
 『パリヌルスの槍使いはどうだった?』
 『パリヌルス隊長の槍の構えが凄い、凄いの一語です。全くスキがありません。あれでは蛇に睨まれた蛙同然です。身をすくませて動かすことができませんでした。とても勉強になりました。ありがとうございました』
 リナウスは試合を振り返って、二人を褒めあげた。
 陽ざし穏やかな春の午後の武闘撃槍訓練試合の場であった。パリヌルスら二人は気持ちよく汗を流した。
 『おい、オキテス、いい汗をかいたな。ひと浴びに行こう』
 『おう!』
 二人は、浜へと足を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  456

2015-02-02 07:19:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 新艇の事が話題になっている。彼らは寄ると新艇を話題にした。彼らは新艇を造ったことを誇りに思っていた。
 ドックスからの勧めで新艇を試し乗りしたギアスの試乗談義が話題を提供していた。
 それを耳にしたパリヌルスはギアスを呼び寄せた。
 『おう、ギアス、お前、毎日ご苦労。ところでだ、明日のキドニア行きには新艇を使ってキドニアに行くのだ。昼過ぎの魚の運搬には舟艇を使う。キドニアで後事を引き継いでできるだけ早く帰ってきてくれ。やってほしいのは新艇の試乗感の分析だ』
 『判りました。その分析事項は何でしょうか?』
 『おう、それは次の2点だ。1枚帆と3枚帆の艇を推す力がどう違っているのか。が一つ。もう一つは、少々わかりにくいと思うが、1枚帆と3枚帆の風のはらみ具合、帆の構造が少々違っているのだ。メインマストの帆は三角形に近いカタチだが帆がはらむ風量が、その面積に比してやや多くなるようにたるみを持たせた構造になっている。それの効果に注意を払って効果を見てほしい。ドックスに言って<風風感知器>を借りて行け。使用方法を聞いてもって行くのだ』
 『判りました。出来る限りやってみます』
 『判ったな。ギアス』
 パリヌルスは、用件を伝えた。

 パリヌルスとオキテスの二人は、今日も武闘撃剣訓練の場に来た。
 『おい、パリヌルス。考えて造った、あの防具、なかなかいい!使う木剣も訓練に最適といったところだ。アレを身に着けての訓練は効果的と言える。お前に思いっきり打ち込まれたところだが、あざができるかなと思ったがそうではなかった。今朝の朝行事で見てみたがあざができていない。また、気にかかる痛みもない。あれはいいものだ。推奨ものだな。訓練に励む者はアレを身に着けてやれと言ってやろう。組剣の形を教えたあと、木剣による実戦の打ち合いをやれば上達間違いなしだ。ちょっとだが改良したい点を見つけた。今日は、それの研究をやる』
 『そうか、判った。昨日、お前から受けた一撃、あれは鋭かったな。これを見ろ、そのあとがこれだ。ただ、少しだけだが痛みがある』
 『それなのだ、改良したいと思ったのはそれなのだ。それを研究しながらの今日の撃剣訓練なのだ。見せろや、そのあざを』
 オキテスは、言いながらパリヌルスの右脇胴に目をやった。
 『ややっ!これはこれは、悪かった。深く謝る、この通りだ』
 『避けきれなかった俺のミスだ。誤ることはない』
 二人は身支度を整えながら会話を交わした。
 オキテスは、撃剣のコーチ役をつとめているリナウスを呼んだ。