二人は昼食を忘れて話し合っていた。意義のある話は充実した内容であるといっていい、互いに満足を胸に抱いた。アヱネアスが言葉をかける。
『遅くなったが、父上、昼めしを食べましょうや』
『おう、いいな!』
昼食の場を囲む、向かい合って食べる、簡単したての食事、場には話し合いの残心がこもっていた、
『久しぶりの二人でとる食事だな』
アンキセスがつぶやきながら酒杯を持った手を伸ばしてくる、酒を注ぐアヱネアス、二人は遠い昔に過ぎ去った日を想い出しながら、パンをうまそうに食した。食事を終えて、アヱネアスは浜へと歩を運ぶ。
新艇が日に日にカタチを整えて仕上がっていく。今日も来訪者が来ている、見慣れぬ風体の者が新艇に見入っている。
アヱネアスはいぶかしんだ。彼らはクレタの者ではない、話し合う言葉が聞きなれた言葉ではなかった。いぶかしみを深めるアヱネアス。
『おい、オキテス、あれを見ろ!アイツらの話す言葉が聞き取れない。誰か聞き取ることのできる者がいないか』
『風体を見たところクレタ人ではないようですな。クリテスを呼びましょうか?』
『おう、そうしてくれ』
オキテスは、傍らで作業をしている者に声をかける。
『おう、5番艇の建造の場にいるクリテスを呼んできてくれ』
『判りました』
間をおくことなく姿を見せるクリテス。
『おう、クリテス、頼みだ』
『はい、何でしょう?』
アヱネアスが声をかける。
『アイツらの話していることが解らん。お前が聞いて、解るか、ちょっと、そばで聞いてみろ』
『はい、判りました。やってみます』
クリテスは統領から指示を受けて、新艇をはさんで向かい側に立つ、作業をするふりをして、耳をを傾ける。
耳にする彼らの話声、彼は、デロスのアポロンの神殿で聞いたことがある言葉だと思い出した。
クリテスは、彼らに話しかけようか、かけないでおこうかと迷った。言葉を解することができない、声がけをあきらめた。彼は、場を離れ統領のもとへと戻ってくる、復命する。
『統領、彼らは、エルトリア人が使う言葉を使っています。話している内容については私にはわかりません。私にできるのは挨拶ぐらいです』
『そうか、解った。『海の民』ではないのだな。人数はどれくらいだ?』
『『海の民』ではないようです。身なりもそれなりに整っています。人数は15人くらいのようです』
『そうか、自由にさせておこう。聞かれたら、クリテス、お前はここにいて、要望があれば、相手をしてくれ』
『はい、判りました。私は向こうの新艇のそばにいます』