『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  842

2016-08-09 04:45:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アヱネアスよ。その建国の地だが、広い数ある世界に一点しか存在しないことであると俺は考えている。その一点を探し求め、広い数ある世界から見つけ出し、その地に立つ!その一点の地が国を興す条件を具備しているところであるか、はたまた、国を建てる条件を造成構築できるところであるかを見極めなければならない。俺の想いでは、その地に立ってみただけでは建国にふさわしい地であるか否かを察知しえないことである。そのような故によって、神の存在を是とするか、否とするかを考える。それを是とする者が全知全能の神の知恵に頼ろうとする。その頼る者が神託を乞う。神の全知全能を疑うか、疑わないかは、その者による。また、神によって神が示す神託に差があることも確かなことであると思っている。この場合それに携わる神官にもよる。アポロン神とゼウス神とは違う、俺の想いではアポロン神の神託には、あいまいさの割合が大きい、ゼウス神の神託には、物事の核心の指摘に対する的確性が高い。俺とお前ではその出生による能力に差がある。お前は、俺をはるかに超えた力を持っている。お前は、決意した建国の礎を築き、基礎をつくり、ユールスが建国の第一歩を踏み出すと信じてやまない。国は、一朝一夕で建てることはできない。最短でも20年という長い年月を必要とする。成就することを信じて迷わず建国の礎を築いてくれ。この広い世界、いや、数ある世界といった方がいいか、展開している盆状世界が数ある、その中にある、たった一つ建国の地点に立ってくれ。そのように願っている。俺は想う、そのことにさまよい、時がかかるやもしれぬ、それは摂理の計画と考え、耐える、そして、見つける、たった一つ地点こそ、建国の最良の地点である。そこに立って建国の礎を築くのだ。このあとその地点を見出すための話をしようではないか!息子アヱネアスよ!』
 アンキセスは、渾身の力を振り絞って、息も継がずに、一気にこれだけのことをアヱネアスに話した。
 アンキセスは、盆の上に展開する世界がこの世に数多く展開しているといった世界観を持っていた。それは、アヱネアスがイデー山山頂で目にして、頭中に描いた世界観と同じであった。
 父アンキセスは、敬意をたたえた眼差しでアヱネアスと目を合わせた。
 ここまで話したアンキセスは、肩の力を抜いた様子で酒杯を口に運び、酒を含み胃に流し込んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  841

2016-08-08 04:37:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アヱネアスよ、少し休もうではないか、過去については語り終えた。お前にとっても俺にとっても大切なのは、これからのお前なのだ、アヱネアスであり、ユールスなのだ。少し休んで、これからを話し合おうではないか。お前は、私にはまだ話していない、イデー山のゼウスの神殿で受けた神託について聞かせてくれればありがたいし、俺にとって、大変うれしい』と言って堅パンをつまみ酒杯の酒を口に運んだ。
 『アヱネアスよ、考えてくれ。俺たちがクレタに赴く折にデロス島に立ち寄り、アポロンの神託を受けている。そして、船の進路を南へととり、このクレタに上陸し居を構えた。俺らは、神託を正しく理解したか、それとも神託の言わんとするところを理解しなかったか否やである。または、俺らが神託を正しく理解したか否かも検証しなければいけない。それとだが、俺とお前では神託を信ずる割合がどうかという問いかけもあると思う』
 アンキセスは、言葉を切る。息を継いで話し続ける。
 『このことについて俺の考えを述べる。お前に聞いてもらいたい重要なことである。年老いたる者は、知恵を持っている。だが、時代に即した知識を有しているかと言えば、そうであるとは言いきれない。また、物事に関する技術、技倆についてもそれが言える。これはおおまかな人間論だ。そのあたりについても俺とお前は解り合わねばならない。次はこのことについて話しよう』
 アンキセスの問いかけである。アヱネアスははっとした。父アンキセスの鋭い指摘である。振り返って考えてみれば、冷や汗の出る自分の決断あのときのことを振り返って思い起こした。
 クレタに向かうことが、今、自分の決断として正しいとして、それが間違っていても、それを正しく修正して進むことができるという決断の軽さがあったのではと考えた。しかし、彼は考えた。それは自分自身に課した摂理の至妙な計画として受ける大いなる時空の中にいると結論した。しかし、それは己の為す良き知恵としての良知をいたしのか判別していなかった。
 話すことを休んでいたアンキセスが口を開いた。
 『アヱネアスよ、100年200年で途絶える国を建てても、そんなもの建国したとは言えない。判るか、1000年2000年と繁栄する国を建ててこそ建国と言えるのだ。そうではないか。アヱネアス!』
 彼は強く言葉を結んで言いきった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  840

2016-08-06 10:45:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 父アンキセスはおもむろに口を開いた。
 『我が息子アヱネアスよ、よくぞ、俺の話を聞く気に立ってくれた。父としてお前に心から礼を言う、ありがとう。お前の出生について、これまでに話したことはない。これからも話すということはない。しかしだ、俺がお前の父であることは、まぎれもなく俺である。しかし、母のことは、誰にも話さないし、息子のお前にも言えない。俺の妻の子ではない、今、言ったことについては、今後もこの父をせめて聞こうとしてくれるな。俺の青春の過ちと心得ていてもらいたい。それは口では言えない、さる崇高な人であるとお前に伝えておく。これについては、今後いかなることとがあっても聞かない、訊ねないと俺と約束してくれ。また、ユールスにもその人の血がお前を通じて流れている。話の始めにこのような話をした。それにはそのような大切なわけであるからだ。さきに述べた約束はしてくれるな』
 『それは、このアヱネアス、しかと約束する』
 『ありがとう。礼を言う。今日まで、これを胸に抱いて持ってきた、重かった』
 これだけ言って、しばし、沈黙の時が流れる。父アンキセスは肩の荷を下ろしたらしい。酒杯を持った手を伸ばした。
 『この話はこれで終わった。酒を注いでくれ』
 アンキセスは酒で唇をしめらせた。
 『我が家系に脈々と流れる西方の地、へスペリアの地の血について話したい』
 アンキセスはアヱネアスの目をじい~っと覗き見た。アンキセスは口を開き語り始める。
 『トロイ城市の発祥は、今をさかのぼること、2000年前の昔のことである。-----』と語り始めて、城市トロイの歴史を話し、その歴史の中で俺がいかなる役務を担ってきたかについて話した。
 彼は、時代が連なり、継いでつながれていく家系の心と血、時代が連なり、引き継がれていく、絆としての出生の地の心血について語った。
 アンキセスの語り口はとつとつとしてはいるが、時にはパッションあふれる口調となり、話の韻律には、序があり、破の口調があり、急の説得感情によって、アヱネアスの志向感情を同調させようとしている意図が感じられた。
 彼の話はうまく組み立てられている、話の起承転結がしっかりしていた。
 トロイ城市発祥の集落ダルダノイがトロイ城市となるまでの経緯、統治してきた歴代の領主、王、そして歴史を築き上げた輝かしい業績、幾多の戦役、その都度、壊滅する城市、復興構築する城市について、彼は語った。
 話の第一段は終わった。
 父アンキセスは、老骨にムチをうっての語りである。彼の話は、息子アヱネアスに語って聞かせるべき過去を言いつくしていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  839

2016-08-05 09:33:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝行事を終えたアヱネアスは、新艇建造の場へ歩を運んだ。今日は息子のユールスを連れている。
 建造の作業をする者たちはまだ、場に姿を見せていない、無人の建造の場である。
 彼は独りの人影を目にとめた。ドックスである。
 『あっ!統領、おはようございます』
 『おう、おはよう。ドックス、早いな』
 『はい、始業前の点検チエックです。これを入念にやっておく、各艇の現場に微妙な差があります。皆にいい仕事をさせる、してもらう。そのためには欠かすことのできない気配りです』
 『ほう、そうか、それはご苦労。今日の俺は日中の巡回ができない、それもあるが、ユールスに新艇の建造の現場を見せておきたくてな』
 『そうですか』
 『ドックス、それからだが、ユールスに作業の光景を見せたいと考えている。そのときにはよろしく頼む』
 『解りました』
 アヱネアスは、建造の場をあとにした。
 彼は、父アンキセス、ユールス、アカテスとともに和みのある朝食を過ごした。
 今日の予定として、アカテスに父アンキセスから、いろいろと話を聞く旨を伝えた。
 『それは、よろしいですな。背に負うている物事の決断には、物事の経緯をよく知っている、これが大切です。アヱネアス統領殿、よくぞ心に決められました。父アンキセス殿は、どれほど、この時を待っておられましたことか』
 『おう!』
 『アヱネアス統領殿、トロイが壊滅の焼き討ちに遭遇するまで、考えられないような長い長い長久の年月を経ています。言い伝えによると炎上壊滅したトロイ城市は、七度目に造られた城市だったのです。私の耳にした言い伝えですが』
 『そうか、解った』
 朝食が終わった。父アンキセスがアヱネアスに声をかけてくる。
 『アヱネアス、部屋へ行こうか』
 『解りました』
 二人が立ちあがる、部屋へと足を運ぶ、アヱネアスと父アンキセスは、雑なつくりのテーブルをはさんで座した。なんとなく身構えるアヱネアス、アンキセスはというと身構えるわけでなく、何をどのようにか語ろうかと思案顔である。彼のこれまではというと息子アヱネアスをどう説得しようかと少々高みの位置にスタンスして、考え、話そうとしていた。その態度が変わってきている。
 むしろ、アヱネアスとへだたりのない、いや、少しばかり見あげたスタンスで話をしようとしている。
 そのような感じがうかがわれた。このトロイの一族を統べている息子アヱネアスに敬意をもって接しようとしている気配さえ感じられた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  838

2016-08-03 04:59:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 進水披露の催事を終えたニューキドニアの浜は、彼らが想像もしていなかった活性を呈してきていた。
 浜の新艇の建造の場を訪れる人があるようになってきたことである。歩きで訪れる人、船で訪れる人、多い日には30人を超える人が浜に姿を見せた。彼らは、建造の場で仕上げられていく新艇のその優美なスガタカタチにあこがれの眼差しを送った。
 集散所を介してうわさが拡散していく、キドニアの船だまりに、ヘルメス艇を見に来る人があるようになってきた。
 こちらは連日の訪問者が30人を下らない。特に評判になったのは、新艇の仕様書きと姿形図である。これをもらいに来る人がいることである。新艇を買いそうでない人が来て、仕様書きと姿形図を描いた木板をほしいといわれるのにはギアスも困り果てた。ギアスもパリヌルス隊長に相談して対処法を考えざるを得なかった。
 仕様を書き、姿形を一枚の木板に描いた木板を作成して希望者に渡した。ニューキドニアの浜の建造の場を訪れる人にも仕様を書き、姿形を描いた木板を希望する人に手渡した。
 一方、パン売り場の日々の客数が増えてきた。これまでの客数の2割くらいの増加であるといったところである。オロンテスは喜んだ、一日のパンの売上個数が220~230個と1割くらい増加したことであった。
 アヱネアスもイリオネスも、この状況に驚いた。パリヌルスもオキテスもこのことに驚いた。
 しかし、彼らはこの状況が一時的なものであろうと思った。日にちが20日も過ぎればこのような状態がなくなるであろうと予測した。彼らにとって思いがけない状況である、とにかく多忙で過ごす毎日が続いた。
 オロンテスもギアスも、試乗会の催行が連日といった状況になった。うれしい悲鳴をあげた。

 アヱネアスが父アンキセスと約束をした新月の日が明日となった。7月の月始めの新月の日ということになる。
 『親父殿、明日が新月の日です。明日は、朝めしを終えたら、さっそく始めるように部屋を整えて待っています。よろしいですね』
 『おう、いいだろう。くちびるを湿らせる酒くらい用意しておいてくれ』
 『解りました。待っています』
 アヱネアスは、父アンキセスと明日のことを確認した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  837

2016-08-02 10:16:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は魚事業の現場を見て廻った。行くところところで歓迎された。
 『なあ~、イリオネス、これを見てみろ!アレテスもなかなか工夫をして仕事をやっている』
 『言われる通りです。彼も彼なりに知恵を絞ってやっています』
 『魚の塩漬け、干し魚、そういった品物は鮮度が命だ。仕事を進めていくうえで鮮度管理が重要ポイントとなる』
 『スダヌス浜頭の指導もあって、うまくいっているようです』
 『そうか。それは安心というところか』
 『はい、そうです』
 二人は心行くまで小島を見て廻った。
 アヱネアスは小島の北の浜に立ってクレタ海を眺める。小島の西北端に到り、西岸に沿って南下した。小島を充分に見つくして帰ってきた。
 続いて建造の場へと足を向ける、仕上がっていく新艇見る、日々に形ができていく。それを見るのがアヱネアスの楽しみになってきている。彼は日々の巡回に無上の楽しみを覚えた。
 『軍団長、今日は、これまで、引きあげる』
 二人は今日の巡回を終え、宿舎へと帰った。
 宿舎の前では、アカテスがユールスに撃剣の組剣を教えている、ユールスがアカテスに打ち込んでいく、アカテスがこれを受け止める。ユールスの年齢では考えられない、いい剣筋で動き回っている。
 アカテスから教えられるカタチ組みどおりにアカテスに打ち込んでいく、ユールスが額の汗を拭おうとするがアカテスがそれを許さない。見つめるアヱネアス、修業とは、そういうものであるといったところであった。
 宿舎に戻ったアヱネアスは、父アンキセスに声をかけた。
 『親父殿いいかな、話しておきたいことがある』
 『おう、なんだ?』
 『あと五日くらいで新月の日となる。親父殿が話したいといっていることを聞かせてほしい。造船の方も、ひとつの山を越えた。親父殿の話を聞こうと心に決めた。じっくりと聞きたい!親父殿の方はどんな具合だ?』
 『おう、新月の日か、それはいい。俺もお前に聞いてもらいたい話、話したい話がある。お前にとって大切な話だ。その日は朝から話をすることにしてくれ。夜はだめだ。そのように段取りしてくれ』
 『解った、その方が落ち着いて話が効ける』
 『アヱネアス、やっとその気になってくれたか、俺は、それを待っていた』
 父アンキセスは、アヱネアスの言葉を受け止めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  836

2016-08-01 15:23:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスは、イリオネスと浜への道をたどりながら真剣に考えていた。
 彼は、ここに到る思考回路を振り返った。
 『俺としたことがうろうろ迷うとはーーー』
 ここに到る曲折を考えた。決断をしたかというとそうでもない、正答を得るために父と話し合うことを避けない、そのことを心に決めた。 
 アヱネアスは思う、時を選ぶは我にある。
 『いいだろう。新月の日を選んで父の話を聞く』
 人は時が解決するというが、民族を統べていく俺には、それがない。俺自身は物事を解決する時を持っている。しかし、待っている時が存在しない。アヱネアスは、改めてそれを強く認識した。物事に対処する姿勢に一本の筋を通した。
 彼は、ようやくにして決心に到る。彼の心は澄みわたる、気分が清々しかった。
 アヱネアスは、父アンキセスに伝えるべき答えを出した。
 イリオネスが声をかけてくる。
 『統領、歩運びがゆっくりですな』
 『おう、少々考え事に気を取られていてな』
 『そうですか、急ぎませんからーーー』
 『なあ~、イリオネス考えてみろ。このクレタに上陸したときのことをだ。通常考えることはだな、上陸するときは干戈を交えて上陸することが多い、無血上陸なんて無人島以外にないのが当たり前だ。俺たちが上陸したときには、それがなかった。人の伝(つて)をうまく使って上陸を果たし、定住している。まるで約束の土地がここにあったようにだ。お前、これをどのように考える?俺は、どうしても不思議に思えてならんのだ』
 『そうですね。統領は、それは何故?不思議と思っておられる。私も同感です』
 『まあ~、いずれ二人で話し合わなければならないようになるだろう。おう、浜に来たではないか』
 『小島へ渡るハシケを探してきます。少々待っててください』
 彼はアヱネアスのたっている浜にハシケをつけた。
 『統領、どうぞ!』
 『ハシケを小島にやってくれ』
 アヱネアスら二人は、小島の波打ち際に降り立った。
 張り番担当が駆け寄ってくる。
 『あっ!統領に軍団長、ようおいでくださいました。あいにくアレテス隊長はキドニアからまだ帰ってきていませんが』
 『それはいい。俺たち二人は、勝手に浜を見て廻る、これといった用事で来たのではない』