メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

鍵 (監督:市川崑)

2015-08-11 12:24:46 | 映画
鍵(1959年、大映、107分)原作:谷崎潤一郎、監督:市川崑、音楽:芥川也寸志
中村鴈治郎(夫)、京マチ子(妻)、仲代達矢(娘の婚約者)、叶順子(娘)、北林谷栄(家政婦)
 
この映画が上映された時は新聞などでずいぶん取り上げられたから、少年時代の私もどんなものか想像したし、学校でもおもしろおかしく話題にされた。ただし谷崎潤一郎の原作(1956)を読んだのは数年前、何度も映画化されたようだが、見たのは今回のこれが初めてである。
 
原作で大学教授だった夫が古美術の専門家、娘の婚約者は大学病院の主治医の後輩となっている。ただしそれはあまり気にすることではない。大きな違いは、夫と妻がそれぞれ夫婦の性について日記をつけ、見せてはいないものの、おそらく相手も読んでいるだろうと考え書き進めている、というフランス心理小説的な部分、見方が皆無であることである。
 
56歳の夫が45歳の妻に若い男を意識的に近づけ、妻の性欲を刺激し、それを見て自分の衝動の高まりを期待する、というところは同じで、映像的にはそれなりにうまくできていて市川崑の才を感じるが、一方でそういうことに監督が舌なめずりをしているだけ、というのが映画を見終わっての感想である。また家政婦がかかわるラストも、安っぽい推理ドラマではあるまいし、と思わせてしまう。
 
配役は原作のイメージにかなり沿っているといえる。中村鴈治郎は今の56歳としてはちょっと老けているが、当時はこんなものだっただろう。ただ、もう少しインテリのいやらしさがあってもよかった。京マチ子は逆に原作を読む前からこの人のイメージが目に焼きついていたほどで、役がこの人のためにあったという感じ。
 
仲代達矢は、こんなにちゃらっとした嫌味もある若い男を演じたこともあったのか、と感心した。もっと「剛」というイメージだったから。娘の叶順子は、同年(1959)の「細雪」(監督:島耕二)でも、四女役で印象深かった(二女役の京マチ子とともに)。ちょっと派手な顔立ちだが、心情は当時の言葉でいえば清純に通じるところもある、という女優としてなかなか得難い人だったのだろうが、照明で眼をやられたとかで30前に引退してしまったらしい。
 
この二人の女優にはフランス映画に通じるセンスがあり、おそらく谷崎ごのみだったのではないか。
 
ところで、この映画も含め1960年代あたりまでの日本映画では、作品と女優の評価が高いものでも、台詞が口さきだけのように聞こえるのはどうしてなのだろう、ということが頭にあった。彼女たちがその後テレビに出ていた時はそうでもなかった。ひょっとしたら、音声はおそらくアフレコだから、その環境、ノウハウ、機材など、さまざまな事情で結果的にああいうスタイルになったのではないか、と想像している。



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