英国諜報員アシェンデン (Ashenden,Or The British Agent)
サマセット・モーム著 金原瑞人訳 新潮文庫
サマセット・モーム(1874-1965)が第一次世界大戦、ロシア革命当時、英国の諜報員だったことは知識としては知っていて、アシェンデンという主人公のシリーズも一部出版されてはいたのだが、読まずに来ていた。
新訳が出た機会に読んでみたが、これはもう後年のいわゆるスパイ小説のはじまりといえる。その後のもの(例えばグレアム・グリーン
、ジョン・ル・カレ)のようには込み入った仕掛け、神経戦はないものの、スパイ術の面白さは味わうことができるし、必ずしも母国側にに与した描きかたばかりではない。
この本は、短編、中編が話をつないでいたり、挿話になっていたりしているが、ストーリー・テラーとしてのうまさから、楽しんで読める。意地悪い見方をすれば、ちょっと自画自賛のところはあるのだが。
書きかたのうまさとしては、たとえば「英国大使」、本筋とはほとんど関係ない話ではあるけれど、一人の友人について大使が話していて、読んでいる方がひょっとして自分のことを話しているのではないかと少し疑い始めたところで、それを聴いている主人公もそう思い出す。この話は、その後最後まで読まずにはいられない力を持っていて、それは例えば同じモームの「雨」、そうあの降り続く雨が、登場人物の官能を、そして読者の官能を撫で上げて終末まで持っていく、あのうまさに通じている。
翻訳は新しいもので、もうこんな現代語が?というところもほんの少しあるが、海外ものはそこそこ現代の日本語訳で読んだ方がいいと考えているので、これでいい。モームはこのところ新訳が時々出ているから、注目したい。
サマセット・モーム著 金原瑞人訳 新潮文庫
サマセット・モーム(1874-1965)が第一次世界大戦、ロシア革命当時、英国の諜報員だったことは知識としては知っていて、アシェンデンという主人公のシリーズも一部出版されてはいたのだが、読まずに来ていた。
新訳が出た機会に読んでみたが、これはもう後年のいわゆるスパイ小説のはじまりといえる。その後のもの(例えばグレアム・グリーン
、ジョン・ル・カレ)のようには込み入った仕掛け、神経戦はないものの、スパイ術の面白さは味わうことができるし、必ずしも母国側にに与した描きかたばかりではない。
この本は、短編、中編が話をつないでいたり、挿話になっていたりしているが、ストーリー・テラーとしてのうまさから、楽しんで読める。意地悪い見方をすれば、ちょっと自画自賛のところはあるのだが。
書きかたのうまさとしては、たとえば「英国大使」、本筋とはほとんど関係ない話ではあるけれど、一人の友人について大使が話していて、読んでいる方がひょっとして自分のことを話しているのではないかと少し疑い始めたところで、それを聴いている主人公もそう思い出す。この話は、その後最後まで読まずにはいられない力を持っていて、それは例えば同じモームの「雨」、そうあの降り続く雨が、登場人物の官能を、そして読者の官能を撫で上げて終末まで持っていく、あのうまさに通じている。
翻訳は新しいもので、もうこんな現代語が?というところもほんの少しあるが、海外ものはそこそこ現代の日本語訳で読んだ方がいいと考えているので、これでいい。モームはこのところ新訳が時々出ているから、注目したい。