トスカーナの贋作 ( Copie Conforme 、2010年、仏・伊、106分)
監督:アッバス・キアロスタミ
ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル
監督はイラン出身でたいへん有名な人のようであるが、これまで知らなかった。
イタリア・トスカーナのあるところで、本物と贋作に関する本を書いたイギリス人(ウィリアム・シメル)が講演会にやってくる。聴きにきた女性(ジュリエット・ビノシュ)と知り合い周辺を案内してもらううち、入ったカフェで夫婦と間違えられ、そのあと夫婦のふり/つもりで結婚式をやっている名所・レストランなどをめぐっていく。その間の会話を見ていると、それが演技なのか、この二人が夫婦としてこれまでの過去を背負った(冷静に見れば創作しているわけだが)ものとして言い合いをしているのか、双方向に往復しながら進行していく。
おそらく、人間というものは、その遺伝子、出自、これまでの生活からその「今」ができているものの、それはそんなに確としたものではなく、それをはかないととるか、これからまた始められるととるか、さあどうでしょうね?ということだろう。
監督は結論を出していないし、二人の結末は悲劇的でもハッピーでもない。だからハッピーエンド、といえないこともないのだが。
ここで、女性はもともととフランス人で仏、伊、英をしゃべるが、男は英語と旅行用のイタリア語しかしゃべれない。イギリスの男として皮肉られている場面はあるようだ。
主役のジュリエット・ビノシュはぴったりで、三か国語だけでなく、多くは正面からカメラを向いたつまりこの映画を見るものにしゃべっているような多くの場面で、このひと自身の魅力もあわせ、最後まで楽しめる。本当の意味でセクシーで、ほかの人は考えられない。
タイトルは、原題からすると、認められた・適合したコピーで、もちろんこの二人の話をさしている。贋作という言葉はあわないのではないか。