メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

サガン -悲しみよ こんにちは-

2009-06-08 21:15:43 | 映画
「サガン -悲しみよ こんにちは-」 (Sagan、2008年、仏、122分)
監督:ディアーヌ・キュリス
シルヴィー・テステュー、ピエール・バルマード、リオネル・アベランスキ、ドゥニ・ポダリデス、ジャンヌ・バリバール、アリエル・ドンバール、マルゴ・アバスカル
 
フランソワーズ・サガン(1935-2004)の、「悲しみよこんにちは」でデビューしてからその死までの物語。
 
10代で売れっ子作家になってしまい、莫大な収入は思い切りよくギャンブルに友達との遊びにと使うのにためらいはない。
ただスピードが好きで事故をおこし、その治療で使ったモルヒネから、生涯にわたって麻薬と切れなくなる。
 
2度(?)の結婚以外に、多くの男女と一緒に住んでいる生活形態が、こちらから見ると驚きであり、特に生涯、誰か特定の女性が傍にいないといけなかった、と映画は語っている。このあたり、男女のちがいは多少あるけれど、トリュフォーの「突然炎のごとく」(原作「ジュールとジム」アンリ・ピエール・ロシェ)を思わせる。
 
サガンという人は、いつも孤独を抱え、誰か傍にいないとだめだった人なのだろう。それでも一人のサガンはいて、創作は出来た、それが不思議なところだ。そして、いつも誰か友達はいた。それは彼女の孤独に嘘がなかったからだろうか。
 
映画としては、サガンを読んだことがない人、日本でも流行したころサガン現象に興味を持ったことがない人には、それほどでもないエピソードも多くて、退屈しものたりないだろう。
いくつか読んでいる私としては、当時のフランスの社会事情ともども、最後まで見ることは出来た。
 
サガンを演じるシルヴィー・テステューは、写真で記憶しているサガンに本当によく似ているし、その孤独を演じてはうまい。ただ、デビューの頃は、メイク、衣装などを工夫して、もう少し若々しく出来なかったか。そして生涯、もう少し、それこそいわゆるキュートなところがあったのではと思うのだが。
 
高校時代、新潮文庫で「悲しみよこんにちは」、「ある微笑」、「一年の後」、「ブラームスはお好き」が出ていて、確か最初の二つとあと一つは読んだと思う。ただ、同級生の生意気で背伸びしている文学青年連中に、サガンを読んだとは言えない雰囲気はあった。それでも読ませたところに、彼女の力と小説の不思議はある。
 
ところで週刊文春4月23日号に、サガン2回目の結婚で生まれ、この映画製作に協力した息子ドニ・ウェストホフと阿川佐和子の対談が載っている。これによれば、サガンは映画よりはもう少し常識人で、生き生きしている人だったようだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

劇場 (モーム)

2009-06-05 18:19:17 | 本と雑誌
サマセット・モーム「劇場」(Theatre)(龍口直太郎 訳)
サマセット・モーム(1874-1965)が1937年に発表した長編小説。
この何年か、モームの小説を時々読んでいる。英国の女性作家が書いたものを読んだ延長と言えるかもしれない。
若いころだと、小説としては深刻にも見えなかっただろうし、インパクトも大きそうではないと見たかもしれない。
 
それとモームの小説では、自伝的な「人間の絆」にしても、登場人物に魅力をあまり感じないことが多く、またどうしてこういう人と縁を切らないのか、煮え切らないところも多い。
 
この小説では、中年になった人気舞台女優が、夢中になって結婚した美男俳優の夫との間があまり熱くはなくなってきて、若い男と出来てしまうが、これもお互いの醜さが出てきて、最後は自分で一つの境地をつかむ、夫との間もおそらく平静なものとなる。
 
場面展開は、あっと言わせる変転がいくつもあり、それは唐突のように見えても、気がついてみると巧妙な伏線と表現が積み重ねられている。こういうところはうまい。
 
モームらしさというか、大人の、作家の見解として典型的なのは、息子が大人になりかけたとき、彼は「母親が住んでいる世界がみせかけであるから、自分は「真実」を求めたい」というが、母親(女優)は「みせかけこそ唯一の真実」であり、「俳優だけが真実の人間」であるという。
 
この場面そのものでは、読んでいると息子が勝っているように読めるのだが、少し後になって、いや本当は俳優でなくても、もう少し歳をとると、彼女のような境地に近くなるのではないだろうか、と思えてくる。
このあたりが、この小説の見どころだろう。
 
そういう風に納得はするのだが、読み終わっての快感というものに不足するのは、何から来るのだろうか。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする