執事が定年となり
新しい執事を迎える事になった。
その新しい執事の名前はオオノ サトシ。
その執事は前執事の知り合いとの事で
執事として優秀な人物だと太鼓判を押されていた。
そして初めてその執事を見た時、あまりの若さに驚いたが
実際の歳は自分より一つ上との事で二重に驚く。
新しい執事は寡黙ではあったが仕事はどれもそつなくこなし
前執事の太鼓判通り申し分無かった。
また智は余計なことを一切話さず、また口も硬かったので
翔は仕事であった未解決事件について何気なく話す。
智は話を聞いて少し考えていた様子だったが、
独自の見解を述べ始める。
それはとても的確で、翔はその意見を参考にし解明していくと
事件は一気に解決してしまった。
それからというもの何度か未解決事件が起こる度に
翔は相談する。
するとどんな事件でも智は的確に捉え
あっという間に解決に導く。
そんな事が続き翔にとって智はなくてはならない存在になっていた。
それと共にだんだんと新しい執事である智に興味が湧いてくる。
智の顔は黒縁眼鏡と少し長い前髪で隠れていてよく見えないが
とても綺麗な顔をしているようだった。
「ねえ、眼鏡とった顔見せてよ?」
智の素顔に興味があった翔は
何気なくそう聞いてみる。
智は少し困った顔をして
困りますとだけ言って顔を反らし自分の仕事に戻ってしまう。
その後も懲りず、また好奇心が抑えきれず頼み続けるが
智はただ困りますとだけ言って決して素顔を見せたがらない。
そればかりではなく、
もう少し仲良くなりたいと思っていた翔に対し、
智は主人と使用人という関係を決して崩そうとはしなかった。
翔はそれを少し寂しく感じていた。
また智は自分のことについても何も語ろうとはしない。
「智は今までどんな恋愛をしてきたの?」
「家族は?」
などと聞いても、無言で困ったように微笑むだけで
決して自分のことは語ろうとはしなかった。
ただ事件についてだけは、饒舌になるので、
ならばと事件絡みで話を引き出そうとするが
ミステリー小説が好きでよく読んでいたので
そのせいだと思いますとだけ言うと、
さっさと自分の仕事に戻ってしまう。
そんな感じで智の事は何一つ分からなかった。
しかも謎が深まれば深まるほど興味が湧いてくる。
前執事にもそれとなく探りを入れてみるが
ご自分で聞いてくださいとの一点張りで
全く要領を得ない。
翔は根っからの良家の坊ちゃんらしく
大らかで人の嫌がることを強引にやったり
また、問いつめたりするタイプではなかったため
余計に謎は深まるばかりだった。
大きな屋敷に二人きりで過ごす毎日。
歳も近く、もう少し和やかに話をしたり
時にはハメを外してもいいのに、と翔は思っていたが
智にはいつまでたっても全くそういう気配はなかった。
「じゃあ行ってくるね」
そう言っていつものように仕事に向かう翔に対し
「お気を付けて」
そう言って智は深々と頭を下げ見送る。
そんな風にいつもどおり日々は過ぎていく。
しかしそんな業務的な話しかしてないはずだったが、
翔はなぜかだんだん家に帰るのが楽しみになってきていた。
今までは年の離れた執事だったせいか、
また自分が一人っ子で育ったせいで
同年代の者と一緒に暮らすという経験が
なかったせいなのかわからないが
家に帰ると同年代の智が迎え入れてくれることが
なぜだか無性に嬉しかった。
ただ家に帰っても智は相変わらずで
「お帰りなさいませ」
と言ったかと思うと淡々と自分の仕事をこなす。
それが何だか翔は寂しかった。