yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

Song for me 8

2016-10-22 21:20:02 | Song for me







遅くなりました。
気温差にすっかりやられていました💦すみません。








大野さんが泣きそうな顔をしている。


そして


あっと思った瞬間、大野さんの腕が伸びてきて


その美しい顔が胸にうずまる。






「ごめん、ありがと…」


そして震える声で大野さんがそう言った。


目の前には大野さんの柔らかそうな髪の毛があって


心臓が大きな音をたててバクバク言う。






いつもの余裕な大野さんとはまるで違うその姿。


その華奢な身体は、腕を回したらすっぽりと入ってしまいそうだ。


その姿に胸がきゅっとなった。






大野さんの身体はまだ微熱があるのか温かかった。


そして自身の腕を回していいのかと躊躇ながらも腕を伸ばす。


そしてその華奢な身体を抱きしめようとしたら


大野さんが、すっとその身体を離した。


「……!」


その離れてしまったぬくもりに一瞬の寂しさを覚える。






大野さんの顔を見ると大野さんの瞳が揺れていた。


大野さんは罪悪感のような、戸惑いのような、後悔のような
そんな色々なものが混ざったような表情で見つめてくる。


「ごめん」

「……」


そして大野さんがごめんと謝った。
別に罪悪感も戸惑いも後悔も感じる必要なんてないのに、と
そう思いながらその美しい顔を見つめる。


「もう大丈夫だから」

「……」


そして多分これ以上迷惑はかけられないと思ったのだろう。
帰るよう言われたような気がした。


「でも…」

「もう、大丈夫。ありがと」


大丈夫と言いながらもまだ顔色は悪く体調も悪そうだった。











「……」

「……」


どうするのだろう。
大野さんはまだ動けるような感じじゃない。
カズナリくんもいる。


「……カズナリくんはどうするんですか?」

「……何とか、する」


そう思いながら大野さんに問いかけると、大野さんの瞳がまた揺れた。


何とかすると言っても、そうできるならとっくのとうにそうしていたはずだ。
それなのに、そうしなかったのはできなかったからだ。
それが分かっていてこんな状態の大野さんをおいて
帰れるはずなんてなかった。








「……」

「……」


でもどうすればいいのだろう。
大野さんの意思は固そうだ。


「……ここに来た時」

「……」


そう思いながら体調の悪そうな大野さんの顔を見る。
大野さんが俯いていた顔を上げた。


「カズナリくん凄く不安そうな顔をしてて…」

「……」

「でも…」

「……」

「俺の顔を見て少し安心した顔を見せたんです」

「……」


その言葉に大野さんの目が大きく開く。


「俺、ちょっとその時のカズナリくんの気持ちわかるんです」

「……」


大野さんが大きく目を開いたままじっと見つめてくる。


「きっと凄く心細かったんじゃないかと思うんです」

「……」


そう言うと、また大野さんの瞳が揺れた。


「だから…」

「……」

「だからカズナリくんのためにも今日もここにいます」

「……」


大野さんが黙ったままその綺麗な顔で見つめる。
何か言おうとしているのかそうでないのか
その表情からは読み取れない。








「それに俺、カズナリくんと公園に行くって約束しているんです」

「……」


大野さんが黙ったまま見つめている。


「だから今日は大野さんはゆっくり休んでいてください」

「そんな訳には…」

「カズナリくんのために」

「……」


大野さんがそんな訳ににはいかないと一瞬目を伏せたけど
カズナリくんの為だというと大野さんはぎゅっと口を閉じ
その綺麗な顔で見つめた。









強引だったかもしれない。


大きなおせっかいだったかもしれない。


でも大野さんの顔を見てとても帰れるような状況ではなかった。


大野さんもカズナリくんのことをずっとどうしようって思ってたと言ってた。


だからそうするのが一番いいとそう思っていた。







あの時は。














今までご飯なんて作った事なかった。
作ろうとも思わなかった。
外に出れば食べるところなんていくらでもあったし
テイクアウトやお弁当もある。
作る必然性を感じなかった。


でも大野さんやカズナリくんのためだと思うと作りたいと思う。
栄養のあるものを食べてもらいたいと思う。
ご飯を炊くととハムを焼いて目玉焼きを作った。
そしてレタスを食べやすい大きさに切ってサラダを作った。


大野さんは手伝おうとしていたけど
体調もまだ悪そうでどうにも身体が動かないみたいで呆然と見つめていた。
ご飯ができるとカズナリくんを起こし3人で食べた。


大野さんはまだ食欲がわかないらしくほとんど食べなかった。
まだ体調はかなり悪そうだった。


片づけを済ませるとカズナリくんに公園に行こうといった。
カズナリくんは嬉しそうにうんと頷いた。
大野さんはやっぱり何か言いたげそうな顔をしていたけど
休んでいてくださいと言ってベッドに連れて行くと
カズナリくんと公園に向かった。









その時は大野さんの負担をただ減らしたい。
ただそれだけの思いしかなかった。


家を出るとカズナリくんがぎゅっと手を握ってくる。
そして目が合うとカズナリくんはニコッと笑う。


「今日は違う公園に行ってみよっか?」


そう言うと、カズナリくんはうんと嬉しそうに笑った。








不思議だなと思う。


自分の子でもないのに一生懸命子供が喜びそうなところをリサーチして
自分の子供でもないのに一緒に手をつないで公園に行って。
大野さんの負担を減らしたいだけだったのに
こうして二人でいるのが全然嫌ではなかった。


カズナリくんは大野さんに目元が少し似ていた。
あまりおしゃべりはしないけど笑いかけるとニコッと笑ってくれる。
手を差し伸べるとその小さな手でぎゅっと握ってくる。
可愛かった。


そしてカズナリくんにとっても自分は赤の他人のはずなのに
こうして自分の事を信頼し頼ってくれるのが嬉しかった。









大きい滑り台があるというその公園には
ローラー滑り台があって、小さな丘を登ると
そこから100メートル位の滑り台になっていた。


カズナリくんがおそるおそるその滑り台を眺める。


「どうする?」


まだ早かったかな?と思いながらそう聞くと少し悩んだ顔をする。


「一緒に滑る?」


そう言うと、嬉しそうにうんと頷いた。


カズナリくんを前にして後ろに座る。
カズナリくんが不安そうに後ろを振り返った。
だから大丈夫だよって言ってゆっくりと一緒に滑り始める。


滑り台はコロコロと音を立てる。
だんだんと傾斜がきつくなりスピードがアップする。
カーブを超えると一気に下まで滑った。


滑り終わった後、怖くなかったかなと心配になったけど
そんな心配は無用だった。
カズナリくんはその後何度も飽きるまでその小さな丘にのぼりそして何度も滑った。
楽しそうにしているその姿を見て来てよかったと思った。









家に帰ると大野さんの具合はだいぶよくなったみたいで
煮込みうどんを作って待っていてくれた
それを3人で一緒に食べた。


「今日ね、ろーらーすべりだい」


食べながら珍しくカズナリくんから話し出す。


「ん?」


それを大野さんが優しい眼差しで聞く。


「すべったの」

「ローラー滑り台滑ったの?」

「うん、しょおくんと。たのしかったぁ」


そう言ってカズナリくんが頬を紅潮させる。


「そっかぁ、よかったな」


食卓ではカズナリくんが一生懸命話しているのを
大野さんが優しく聞いていた。


そこはやっぱり優しい空気に包まれている。
やっぱりこの優しい空気が好きだと
ここで3人で食べる食事が大好きだと
そう思った。







そして今までと変わらずここに来れば


ここに来る事ができれば


その優しい空間に入っていけると


入れてもらえるとそう思っていた。









でも。



違った。










自分のした事は





ただの自己満足に過ぎなかったという事を






思い知らされる。