日本医師会の石川常任理事は、4月13日の定例記者会見で、医療関係者検討委員会(委員長:月岡鬨夫群馬県医師会長)が、会長諮問「地域包括ケアシステムにおける多職種連携の推進について―多職種の役割をいかに引き出すか―」に対する報告書を取りまとめたとして、その概要を説明しました。
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/004356.html
内容は、(1)はじめに、(2)地域包括ケアシステムにおける多職種連携の推進について、(3)2025年に向けた看護職員の確保について、(4)おわりに―で構成されています。
(2)の地域包括ケアシステムにおける多職種連携の推進についての項では、医療と介護の連携が進んでいる地域の事例として、山形県鶴岡地区医師会、東京都板橋区医師会、山口県 防府医師会が取り上げられ、とくに鶴岡地区医師会の事例は、かなりのスペースを割いて紹介されています。
委員会の報告者(答申)は、以下をご覧下さい。
医療関係者検討委員会報告書
以下、鶴岡地区医師会の事例報告の部分を抜粋します。
(1)顔の見える関係構築と医師会の役割
地域における多職種連携の第一歩は、「顔の見える関係」を築くことであると言われる。関係者間でコミュニケーションが十分に取れないと、様々な問題が生じるおそれがあることから、まずは顔の見える関係を構築していくことが必要である。特に、医療関係者と介護関係者との間には職種間の壁も指摘されることから、それぞれの専門性と地域包括ケアシステムの中で果たしている役割について、相互理解を進めていくことが必要である。
そのため、各地域では医師会を中心とした在宅医療・介護連携推進事業や、地域包括支援センターによる地域ケア会議等の取り組みが進められている。
<事例1> 山形県 鶴岡地区医師会
山形県鶴岡地区医師会における多職種連携の取り組みについて述べてみる。
まず第一に、地域的背景が問題となる。診療圏は人口約 14 万人で、面積 は東北一広い面積(全国では 7 番目)であり、病院 5、診療所 30、その他介 護施設・薬局等を含め計 104 の関係機関がカバーしている。基幹病院である 鶴岡市立荘内病院(520 床)は、救急搬送の約 85%を受け入れている。すな わち、1)高齢化率が高く(30.8%)、2)医療資源が限られていて、在宅医療 が必要とされ、3)中核病院の負担が大きいことから、医療連携・多職種連携 を推進していかなければ今後の医療提供が困難になる、という現状があるこ とが前提となっている。
第二として、以前から顔の見える関係を築いている、という土台がある。先進的と言われる鶴岡地区の医療連携であるが、一朝一夕にでき上がったわ けではない。元々、鶴岡地区医師会では 1997 年から会員相互のイントラネッ ト運用をはじめとして、積極的に IT 化を進めてきた。2001 年には経済産業 省モデル事業を受託し、地域電子カルテ「Net4U」を開発・運用開始し、地 域連携パスを IT で運用するなど、様々な事業を IT 化してきた。その実施に 際して、当初からうまく運用できたわけではなく、IT 化を主導してきたリー ダー的な現医師会長とそれを成功させようとした仲間たちの存在、さらに、 運用資金を含め IT化を支援し続けた医師会執行部の協力なくしては実現でき なかったと思われる。しかしながら、IT 化を推し進めるに当たっては、常々、 「IT は一つの手段であり、一番重要なことは、直接顔と顔を合わせての関係 作り」を大事にしてきた。そのような考え方が、その後の医療連携・多職種 連携の基礎になっているものと思われる。
医療関係者間での連携はある程度できてはいたが、その後、2007 年厚生労 働省の研究事業である緩和ケア普及のための地域プロジェクト「OPTIM」に より、全国 4 か所のモデル地域の中、緩和ケアの提供体制が未整備な地域と して採択され、 「庄内プロジェクト」と命名されスタートする。多職種連携は、この「庄内プロジェクト」と地域連携パス(大腿骨近位部骨折連携パス、脳 卒中地域連携パス、糖尿病地域連携パス、急性心筋梗塞地域連携パス)を IT 化して運用することで、驚異的に発展することになる。
庄内プロジェクトの 活動の一環として、地域連携 WG が設置され、職種ごとに多くの会が設立さ れ、活発な活動が展開されることとなった。それまで、医師同士の病診・診 診連携ツールとして活用されていた Net4U は、看護師や PT・OT 等のリハス タッフ、ケアマネなどの介護系職種までもが利用するようになり、多職種連 携に大いに役立つことになる。
このように、多職種連携は主に医師以外の職種を中心に広がっていくが、各職種での小規模な連携がたくさんでき、それぞれの連携ごとの係わり合いや情報共有などはなかなかできづらい状況にあった。そのような中、鶴岡地 区医師会では 2011 年に在宅医療連携拠点事業を受託、鶴岡地区医師会内に地 域医療連携室「ほたる」を設置し、「ほたる」が数多くの雑多な連携を整理・支援していった。各種研修会の情報を整理し、ホームページ上に集約したり、ショートステイの空き情報を提供することなど、情報を一本化し、多職種が一つにまとまりやすい環境を整備していった。
また「ほたる」では、総合相談窓口業務として、医療・介護の専門職向けの相談から始まり、現在では地域住民の相談にも応じている。そこでは、どのような相談でも受け付け、「ほたる」で対応できないものは適切な機関等へつないでいる。そのような状況から、新たに歯科医師会・薬剤師会との連携も生まれ、在宅医療の充実に一 役買っている。
また長年、行政と良好な関係を築いていることも大変重要な要因となっている。鶴岡地区医師会では、健診センター、リハビリテーション病院、介護老人保健施設、准看護学院などの事業を手掛けており、経済的な基盤がしっかりしていて、補助金収入が見込めなくなっても事業を継続していくことが可能であり、行政に経済的な負担をかけずに、お互いの役割を明確化しながら、車の両輪のごとく一緒に種々の事業に関与している。さらに、ここでも定期的なミーティングを行うなど、顔の見える関係が上手く構築されている。
以上まとめると、鶴岡地区での医療連携・多職種連携が成功している要因 として、1)リーダーになり得る人材がいたことと、その人材を支え協力する 周囲の人間がいたこと、2)何があっても人材を活用していこうとする医師会 執行部の姿勢、3)事業を継続していくための安定した財政基盤、4)行政と の良好な関係が築けていたこと、が挙げられる。
また、今後の課題としては、1)多職種連携が必要であるという、医師側の 意識改革、2)在宅医療に関与する医療機関が少なく、限られた医師に頼って いる状態の改善、3)特に介護系職種における医療知識の充実の必要性などが 考えられる。
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/004356.html
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/004356.html
内容は、(1)はじめに、(2)地域包括ケアシステムにおける多職種連携の推進について、(3)2025年に向けた看護職員の確保について、(4)おわりに―で構成されています。
(2)の地域包括ケアシステムにおける多職種連携の推進についての項では、医療と介護の連携が進んでいる地域の事例として、山形県鶴岡地区医師会、東京都板橋区医師会、山口県 防府医師会が取り上げられ、とくに鶴岡地区医師会の事例は、かなりのスペースを割いて紹介されています。
委員会の報告者(答申)は、以下をご覧下さい。
医療関係者検討委員会報告書
以下、鶴岡地区医師会の事例報告の部分を抜粋します。
(1)顔の見える関係構築と医師会の役割
地域における多職種連携の第一歩は、「顔の見える関係」を築くことであると言われる。関係者間でコミュニケーションが十分に取れないと、様々な問題が生じるおそれがあることから、まずは顔の見える関係を構築していくことが必要である。特に、医療関係者と介護関係者との間には職種間の壁も指摘されることから、それぞれの専門性と地域包括ケアシステムの中で果たしている役割について、相互理解を進めていくことが必要である。
そのため、各地域では医師会を中心とした在宅医療・介護連携推進事業や、地域包括支援センターによる地域ケア会議等の取り組みが進められている。
<事例1> 山形県 鶴岡地区医師会
山形県鶴岡地区医師会における多職種連携の取り組みについて述べてみる。
まず第一に、地域的背景が問題となる。診療圏は人口約 14 万人で、面積 は東北一広い面積(全国では 7 番目)であり、病院 5、診療所 30、その他介 護施設・薬局等を含め計 104 の関係機関がカバーしている。基幹病院である 鶴岡市立荘内病院(520 床)は、救急搬送の約 85%を受け入れている。すな わち、1)高齢化率が高く(30.8%)、2)医療資源が限られていて、在宅医療 が必要とされ、3)中核病院の負担が大きいことから、医療連携・多職種連携 を推進していかなければ今後の医療提供が困難になる、という現状があるこ とが前提となっている。
第二として、以前から顔の見える関係を築いている、という土台がある。先進的と言われる鶴岡地区の医療連携であるが、一朝一夕にでき上がったわ けではない。元々、鶴岡地区医師会では 1997 年から会員相互のイントラネッ ト運用をはじめとして、積極的に IT 化を進めてきた。2001 年には経済産業 省モデル事業を受託し、地域電子カルテ「Net4U」を開発・運用開始し、地 域連携パスを IT で運用するなど、様々な事業を IT 化してきた。その実施に 際して、当初からうまく運用できたわけではなく、IT 化を主導してきたリー ダー的な現医師会長とそれを成功させようとした仲間たちの存在、さらに、 運用資金を含め IT化を支援し続けた医師会執行部の協力なくしては実現でき なかったと思われる。しかしながら、IT 化を推し進めるに当たっては、常々、 「IT は一つの手段であり、一番重要なことは、直接顔と顔を合わせての関係 作り」を大事にしてきた。そのような考え方が、その後の医療連携・多職種 連携の基礎になっているものと思われる。
医療関係者間での連携はある程度できてはいたが、その後、2007 年厚生労 働省の研究事業である緩和ケア普及のための地域プロジェクト「OPTIM」に より、全国 4 か所のモデル地域の中、緩和ケアの提供体制が未整備な地域と して採択され、 「庄内プロジェクト」と命名されスタートする。多職種連携は、この「庄内プロジェクト」と地域連携パス(大腿骨近位部骨折連携パス、脳 卒中地域連携パス、糖尿病地域連携パス、急性心筋梗塞地域連携パス)を IT 化して運用することで、驚異的に発展することになる。
庄内プロジェクトの 活動の一環として、地域連携 WG が設置され、職種ごとに多くの会が設立さ れ、活発な活動が展開されることとなった。それまで、医師同士の病診・診 診連携ツールとして活用されていた Net4U は、看護師や PT・OT 等のリハス タッフ、ケアマネなどの介護系職種までもが利用するようになり、多職種連 携に大いに役立つことになる。
このように、多職種連携は主に医師以外の職種を中心に広がっていくが、各職種での小規模な連携がたくさんでき、それぞれの連携ごとの係わり合いや情報共有などはなかなかできづらい状況にあった。そのような中、鶴岡地 区医師会では 2011 年に在宅医療連携拠点事業を受託、鶴岡地区医師会内に地 域医療連携室「ほたる」を設置し、「ほたる」が数多くの雑多な連携を整理・支援していった。各種研修会の情報を整理し、ホームページ上に集約したり、ショートステイの空き情報を提供することなど、情報を一本化し、多職種が一つにまとまりやすい環境を整備していった。
また「ほたる」では、総合相談窓口業務として、医療・介護の専門職向けの相談から始まり、現在では地域住民の相談にも応じている。そこでは、どのような相談でも受け付け、「ほたる」で対応できないものは適切な機関等へつないでいる。そのような状況から、新たに歯科医師会・薬剤師会との連携も生まれ、在宅医療の充実に一 役買っている。
また長年、行政と良好な関係を築いていることも大変重要な要因となっている。鶴岡地区医師会では、健診センター、リハビリテーション病院、介護老人保健施設、准看護学院などの事業を手掛けており、経済的な基盤がしっかりしていて、補助金収入が見込めなくなっても事業を継続していくことが可能であり、行政に経済的な負担をかけずに、お互いの役割を明確化しながら、車の両輪のごとく一緒に種々の事業に関与している。さらに、ここでも定期的なミーティングを行うなど、顔の見える関係が上手く構築されている。
以上まとめると、鶴岡地区での医療連携・多職種連携が成功している要因 として、1)リーダーになり得る人材がいたことと、その人材を支え協力する 周囲の人間がいたこと、2)何があっても人材を活用していこうとする医師会 執行部の姿勢、3)事業を継続していくための安定した財政基盤、4)行政と の良好な関係が築けていたこと、が挙げられる。
また、今後の課題としては、1)多職種連携が必要であるという、医師側の 意識改革、2)在宅医療に関与する医療機関が少なく、限られた医師に頼って いる状態の改善、3)特に介護系職種における医療知識の充実の必要性などが 考えられる。
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/004356.html