ユネスコの世界遺産委員会は7月5日、日本が推薦した「軍艦島」の通称で知られる端島炭坑(長崎市)など、「明治日本の産業革命遺産」を世界文化遺産に登録することを決定しました。若干の曲折はありましたが、決定してひと安心というところです。
さて、この産業革命遺産は「軍艦島」の他に、官営八幡製鉄所の修繕工場(北九州市)、三菱長崎造船所のクレーン(長崎市)※といった施設も含まれています。なかでも驚くべきは、長崎造船所のクレーンです。1909年12月に竣工してから100年以上経った今でも、蒸気タービンや大型船舶用プロペラの船積みに使用しています。
クレーンのような大型の設備投資には、巨額の資金が必要になります。会計上は、投じられた巨額の資金は資産(つまり会社の財産です)となります。そして、使用する年月に従って徐々に資産価値を減らしていきます。最後は経済的な価値がゼロになります(正しくは1円)。これが減価償却の考え方です。
このクレーンは減価償却が済み、資産価値が無くなっていますから(資本的支出は除きます)、まさに「遺産」です。ところが現在も使っているわけですから、遺産ではなく動産ともいえます。
実は、日本中の多くの工場にはこうした「遺産的動産」がけっこう活躍しています。
それに対して、家の中はどうでしょうか。私たちは、家庭の資産といえる電気製品や自動車などをよく買い替えます。家電製品など、まだ十分使えるのに捨ててしまうことさえあります。それが消費財の宿命なのかもしれません。
とはいえ、家の中に「文化遺産」のようなものが何かひとつでもあると少し心が豊かになるような気がします。
昨今の「片づけ」、「断捨離」の流れに逆らうようですが、これからは「家庭内文化遺産」と呼んで気に入っているなにかを捨てずに保存してみるのも良いかもしれません。
今回の「明治日本の産業革命遺産」をきっかけに、家人から「邪魔だから早く捨てなさい!」と言われているものを「家庭内文化遺産」として登録してみてはいかがでしょうか。
ところで、残念ながら我が家にあった「文化遺産」、初代Macintoshは邪魔だという理由で数年前に廃棄処分にされてしまいました。
ということで、あなたに家庭内でユネスコ並みの権威があることが前提となりますが。
(人材育成社)
※ 明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域 長崎県長崎市 三菱長崎造船所関連施設