これは多くの名言を残したドラッカーの言葉の中でも、最も有名なものではないでしょうか。
ドラッカーの著書「マネジメント」の原著にはこうあります。「They may forgive a person for a great deal: incompetence, ignorance, insecurity, or bad managers. But they will not forgive a lack of integrity in that person.」
「人は不完全であっても許される。たとえ無能で、無知で、不安で、出来の悪いマネジャーであったとしても。しかし、真摯さの欠如はだけは許されない。」(人材育成社訳)
integrityとは「高潔さ」とか「誠実さ」と訳されていますが、ドラッカーは「道徳心を持った正直さ」という意味で使っているように思います。そう考えると、「マネジメント」を翻訳された上田惇生氏の「真摯さ」という表現がぴったりときます。
ところで、日本では圧倒的な支持を得ているドラッカーですが、経営学の本場アメリカではまったくの傍流のようです。アメリカの経営学においてはデータ分析による手法が主流であり、ドラッカーは「読み物」にすらなっていないらしいです。
もちろん私は、統計学やゲーム理論などの経済学的な手法を否定しているわけではありません。むしろ積極的に取り入れるべきだと思っています。しかし、経営学と経済学の決定的な違いは「生身の人間」がその学問の中にいるか、いないかだと思います。
最近の東芝の不正会計のニュースを見ていると、会計という極めて地味でシンプルな数字に対する東芝の経営陣の「見下したような感じ」が伝わってきます。まさに「経営者という人間」の真摯さの欠如が、不正の原因であるといえるのではないでしょうか。
結局、不正に関わった経営者たちは、超名門企業・東芝の長い歴史の中にその汚名を刻むことになりました。ドラッカーが「許されない」と喝破したとおりの末路です。
マネジャー、特に経営者は真摯であることが絶対条件です。もしも勤めている会社の中に真摯さが欠けている管理職がいるとしたら、その会社は将来東芝のような事態に陥る可能性があります。
管理職の方は、いまこそ真摯であることを自分自身に問い直すときではないでしょうか。
(人材育成社)