中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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そのメールは不愉快です

2016年02月07日 | コンサルティング

以前、ある会社でこんな社内メールのやり取りがありました。ざっと読んで雰囲気を感じていただければと思います。

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総務部上杉係長 → 設計2課武田主任

今月の安全衛生チェックリスト(2月分)が提出されていません。
締め切りはとうに過ぎています。
非常に困っています。
なぜ毎回提出が遅れるのでしょうか? 
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設計2課武田主任 → 総務部上杉係長
 
申し訳ありませんが、その質問に答えることはできません。
チェックリストの提出に関しては、当課の義務ではありません。
それは去年10月の安全衛生委員会の議事録にも書いてありますよね?
いつのまに「義務」になったのでしょう。
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総務部上杉係長 → 設計2課武田主任

義務とは書いてありませんが、設計部は提出することに合意しています。
議事録にはそう書いてあり、設計部長の承認印もありますよ。
武田さんは設計部の代表としてそうおっしゃっているのですか?
だとしたら、議事録と矛盾していませんか?とにかく早く提出してください。
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設計2課武田主任 → 総務部上杉係長

議事録の印は内容に対する「承認印」ではありません。
私は設計部の安全衛生委員として発言しています。
一方的な命令は不愉快です。
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総務部上杉係長 → 設計2課武田主任

わかりました。必要な措置を取らせていただきます。
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 さて、このやりとりの翌日、偶然この2人が社員食堂で向い合せになりました。食堂がとても混んでいたのです。

2人は顔を合わせるとお互い小さく頭を下げて座りました。2人は「ども」と言った後、小声で話しはじめました。

「なんか感情的なメールになったみたいで、すみません」と設計の武田さん。
「いや、こっちこそ一方的に命令する感じでした。申し訳ない」と総務の上杉さん。
「リスト、完全じゃないんですけど、今日中に送りますので。」と武田さん。
「あ、本当ですか。助かります。お手数かけますけどお願いします。」と上杉さん。

この後も2人はじ「本日の定食」を食べながらぼそぼそと話を続けていました。実は2人ともとても大人しくて誠実な人間なのです。そして、この話は名前(仮名)以外はほぼ事実に基づいています。

メールによるコミュニケーションは大変便利ですが、ときどきこの2人のような「メール人格」が現れてしまいます。バーチャルな空間では、人間同士のインタラクション(interaction)※が正しく機能しないことがあります。

食堂でのやりとりのように、同じ空間を共有することで伝えることができる情報を100とするならば、電話は80、メールやSNSは50以下ではないでしょうか。そう考えると、物理的な場としての「職場」の役割がいかに大きいかがわかります。

人事部や総務部は職場環境を考えるときに、「情報共有」という視点を第一に考える必要があります。オフィスをスペース効率や電力の消費量といった観点から設計することも必要ですが、組織は人と人とのインタラクションで成り立っていることをもっと重視するべきでしょう。

ネットワークを流れる情報量が増えるほど、「人が場を作り、場が人に影響を与える」ことを忘れてはならないと思います。

※インタラクションとは交流(する)、相互作用(する)などの意味を持つ英単語。

(人材育成社)