交渉プロセスを理論的に解き明かす学問に「交渉術」というものがあります。「ハーバード流交渉術」として知られている交渉の知識とスキルは、MBA(経営学修士)の必須科目となっています。一般的な商談も、顧客との合意に至るまでの「交渉プロセス」であり交渉術が役に立ちます。
交渉術における重要な概念としてBATNA(バトナ)があります。Best Alternative to a Negotiated Agreementの頭文字をとった言葉で、「交渉が決裂したときの対応策の中で最も良い案」という意味です。「ハーバード流交渉術」では、事前にBATNAを用意しておいて(それを明かさずに)交渉に臨めば、そのプロセスを有利に進めることができると述べています。
例として「今乗っているクルマの車検が近づいてきたので新車に買い換える」という状況を考えてみましょう。そのとき、欲しい車種は結構値段が張るので、自分が出せる金額で買えるかどうかかなり厳しい状況だとします。ディーラーと値引き交渉をするときに、何も用意せずに臨むのではなく「もし交渉が決裂したらそのときは今のクルマの車検をもう一度取って乗ろう」というBATNAを決めておきます。そうすれば交渉のときに余裕が生まれ、優位に立てるというわけです。
さて、中小企業の営業担当者が顧客との交渉を行う際、BATNA作戦は使えるでしょうか。
相手が大企業の場合はまず無理でしょう。BATNAになるような策を用意することは、ほとんど不可能だからです。さらに下請けのような立場だったら、そもそも交渉以前の問題です。指定された品質、価格、納期を一方的に受け入れざるを得ません。
それでもBATNAとなる策を考えてみることは非常に大切です。BATNAを考えることで、対等あるいは対等に近い交渉を行う際に優位に立てます。仮にそのような交渉がほとんど無いとしても、BATNAをハナから諦めてしまったら、負け犬根性が染み付いてしまうことでしょう。
小さな会社の営業担当者の皆様、一度BATNAを考えてみませんか。