5月も半ばになると、新入社員もそろそろ会社の空気に馴染んできます。営業部に配属された新人たちも、営業の仕事について徐々に理解し始めている頃でしょう。
先月営業部に配属された新人のA君は、教育指導担当の先輩営業マンBさんの下に付いて忙しい日々を送っています。Bさんは入社10年目の大先輩ですが、A君とはとてもウマが合います。Bさんの仕事ぶりは丁寧で手際も良く、A君にとっては大変勉強になる、頼れる存在です。
A君は配属直後、Bさんに次のような「営業の”あいうえお”」を教えてもらいました。
【あ】「あいさつは」は大きな声で先手必勝
【い】「忙しい」を理由にしてはいけない
【う】「運がいい」と口にすれば運が良くなる
【え】笑顔を絶やすな、辛いときこそ絶やすな
【お】お礼はすぐに、はっきり、心をこめて
Bさんは、まさにこの「あいうえお」の通りの人物です。A君はBさんのような営業マンになろうと心に誓っていました。
ある日、Bさんに同行して行った取引先で、お客様との打ち合わせが伸びて午後7時近くになってしまいました。商談も終わって外に出ると「今日は会社には戻らず、直帰しよう」とBさんが言いました。そして「A君、ちょっと一杯だけ飲んでいかないか?」と誘ってくれたのです。A君は喜んでお付き合いすることにしました。
2人は小さな居酒屋に入り、ビールで乾杯をしました。A君はBさんに色々と聞きたいことがあったので、質問をしようとしました。ところがBさんが先にA君に質問をしました。
Bさん「営業の”あいうえお”をどう思う?」
A君 「はい、素晴らしいと思います。毎日復唱しています。」
Bさん「実はね、新人の頃の僕はまるで逆だったんだ。」
A君 「どういうことですか?」
Bさん「あいさつはろくにしない、”忙しい”が口癖、運が悪いといつも思っている、笑顔がなくて仏頂面、お礼はろくにしない、そんな新人だった。」
A君 「え~っ、信じられませんよ、そんなこと。」
Bさん「本当だよ。希望していた企画部じゃなくて、一番行きたくなかった営業に配属されたので不貞腐れていたんだ。あまりひどいので、課長によく叱られもんだ。」
A君 「どうやって変わったんですか?」
Bさん「変わったんじゃなくて、変えたんだ。課長から”お前の査定は営業成績じゃなくて、あいうえおの実践回数で決める”って言われてね。」
A君 「そうなんですか・・・」
Bさん「最初は冗談かと持ったんだけど、面談のときに人事部の人が同席している前で言うもんだから、仕方ないと思って実行することにした。」
A君 「それでどうなりました?」
Bさん「最初の3か月くらいはとにかく”演じて”いた。するとだんだんお客さんの反応も良くなってきた。いつの間にか演じなくてもよくなったんだ。」
A君は幸いにも営業の仕事が合っていたようですが、そうではない新人もたくさんいると思います。もし皆さんの身近に、図らずも営業に配属されて日々嫌そうな顔をしている若かりし頃のBさんのような新人がいたら、次のようにアドバイスしてあげてください。
「”あいうえお”をしっかり守ろう。まずは形から!」