おかげさま

　雨で道路が冠水し川の中を自動車が走っているような光景を見ながら出勤した。やけに生暖かい風が吹く。風で電車が動かない、ダイヤが乱れて混雑している、という状況があちこちで発生しているらしい。「今日一日の体力を出勤で全部使った」と会社にやってきた新人が言った。
　常ならざることが起きると、この社会はすぐにどこかにひずみが出て、関連して影響は多岐にわたる。なかなか強く認識できるものではないが、結局すべては「おかげさま」で動いている、ということだ。誰にも影響を与えない何の意味も無い人などは、生きている以上存在しない。生きているだけで、社会に対し小さいかもしれないが、さざ波のような影響を与える。

　数日前の新聞の一面に「肥料戦争」の話が出ていた。世界の農業は、日本も含めてだが、化学肥料があって、はじめてやっていけている、という。ところが、この化学肥料の原料はリンとかカリという鉱石で、日本では産出されない。ではどこで産出しているか、というと、またまた中国なのである。リン鉱石の輸入がストップしたら、直接農業生産全般にかかわることだけに、影響はレアアースの比ではないと新聞は叫んでいた。が、例によって中国はリン鉱石の輸出制限を始めているらしい。中国に代わる大口産出国を探さないと、ＴＰＰで日本農業が壊滅する、というより以前に、日本農業は壊滅してしまうという。これは日本だけの話しではなく、全世界が現在リン鉱石はじめ化学肥料の原料獲得のために熾烈な争いを繰り広げており、それを指して「肥料戦争」と呼ぶのだそうだ。日本はいろいろな面で「おかげさま」でなんとかやりくりしている国なのである。

　なるほど「リン」というのは生活に大切な鉱物なのだなぁ、と認識を新たにしたところで、ＮＡＳＡから「リン」を必要としない生物を初めて発見した、という発表があった。ＮＡＳＡがすごい発表をするらしい、といううわさが前もって流れていたのでちょっと拍子抜けの感じではあったが、リンをめぐる時流のようなものを感じた発表だった。この新しい生物を研究することによって、肥料戦争に続く食糧危機という未来を回避する策が見つかるとすばらしい。

　雲が早く流れ、日が照ったり曇ったりを繰り返している。おかげさまで今日あることを感謝したい。


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