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5000円(1)

 ちょうど1週間前のこと。
 借入金の返済に充てるため毎月一定金額をプールしているのだが、今月も入金するため地元の信用金庫に出向いた。一万円札ばかりで五千円札がなかったため両替しなくてはならないかな、と思っていたが、ATMに入金しても五千円おつりが出てくると分かったので、安心して機械にお金を入れ、おつり五千円受け取って帰ってきたつもりだった。だが・・。
 そのお金で昼ご飯を外に食べに行こうと、妻の運転で出掛けた。その道すがら、おつりの五千円札を妻に渡しておこうと、ズボンのポケットを探してみたが、ない・・。えっ?と思いながら、財布を出してみたが入っていない。シャツの胸ポケットにもない。
「おかしいなあ・・」
「何が?」
「さっき銀行でもらってきたはずの五千円札がないんだよな」
「銀行から出てくるときは、通帳を見ていたよ」
「そうそう。通帳にお金がいやに残ってるんだよな。それが不思議で・・」
「何言ってるの?私が立て替えた分をまだ返してくれてないからでしょ」
「あああ、そうだった・・。そうだよな、まだ返してなかったよな。なるほど、だから残金が多いんだな・・」
「なにボケたこと言ってるの。忘れてないで返してよ」
「ああ、分かった・・。だけど、五千円はどこ行ったんだろう」
「さっき家に戻ったときにどこかに置いたんじゃないの」
「そうかもなあ・・。帰ったらさがしてみよう・・」

 昼食を終え、家に戻って早速探してみたが、どこにもなかった・・。通帳に挟んであるかと思ったがない。家と塾舎と車の中を丹念に探してみたがどこにもない・・。う~~~ん、落としたのかなあ・・。車庫の周りから家まで何度か往復してみたが、やっぱりない。いやだな・・、五千円どうしたんだろう・・。もう一度家と塾舎の中を虱潰しに探してみたが、どうしても見つからない・・。おかしい・・・。
 これだけ探しても見つからないのだから、家の周りにはないと思った方がいいいのかもしれない。それなら家より銀行の方が可能性があるかもいれない。通帳を見ながら車まで歩いてきたのだから、そちらに気をとられて駐車場に落としたのかもしれない。十分ありうる・・。いや、待てよ。よく思い出してみたら、おつりの五千円を取り出した記憶がない。入金しておつりを待っている間に、別の通帳を見て残高が思ってもみなかった金額になっていたため、どうしてなのか頭を巡らし始めて、五千円のことなど意識の外に出てしまった気がする・・。ひょっとしたら取り忘れたのかもしれない。だが、それならそれでATMから取り忘れたことを知らせる警戒音が大音量で鳴るはずだ。それに気付かないことなどあるのだろうか・・・。
 まあ、そんなことを思い悩んでいるよりも、実際に信金に尋ねた方がいいだろう。直接行ければよかったが。もう3時を過ぎていて、銀行は閉まっている。ならば、電話だな、と思ったが、どうにも恥ずかしくて自分ではかけられそうもなかったので、
「お願い!!」
と、妻に頼み込んだ。
「どうして私があなたの尻ぬぐいをしなくちゃいけないの?理解できないなあ・・」
「まあ、そこを堪えて電話してよ、お願い!お願いします!!」
こういう場合はひたすら低姿勢で懇願することが肝要だ。五分ほど粘ったら、妻が折れてくれた。
「仕方ないなあ・・」

 生徒を迎えに行って戻ってきたら、ちょうど内線電話が鳴った。
「あなた、お金を取り忘れたらしいわ、やっぱり・・」
「どうして分かったの?」
「ATMに設置された監視カメラに写っていたんだって」
「えっ、そうなの?」
「あなたがATMから立ち去った後、お金を出し入れするところの蓋が開いていたんだって。で、その後にそのATMを使おうとした人が前に立ったときには蓋は閉まっていたんだそう」
「じゃあ、そいつが持って行ったってこと?」
「カメラはずっと撮っているわけではなくて、コマ送りのようになっているから、はっきり見えなくて、絶対そうだとは言えないけど、その可能性は高いって信金の人は言ってたよ」
「じゃあ、その人に訊けばいいのかな」
「キャッシュカードが使ってあるから、どこの誰かってことは分かるから、信金の人が電話してくれたんだけど、留守電になっていて、連絡がとれなかったんだって・・」
「そうか・・。だけど、『私が持って行きました』なんて言わないよな」
「まあ、無理だろうねえ・・。連絡が付くまで電話してくれるそうだから、待つしかないね」
「そうだなあ・・。元はといえば、オレがボーッとしてたのがいけないんだから・・」

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