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カニ

 塾舎の横の橋の上からぼんやり川面を眺めていたら、何かが動いた。
「ザリガニ?」
スッポンや小魚ならよく見かけるが、ザリガニなんて初めて見た。
「これは捕まえなくっちゃ!」
と急いでタモを取りに行って、土手から飛び降りた。しかし、河原の土が柔らかかったため、滑って尻餅をついた。
「わあ!」
と叫びながらもすぐに立ち上がって、川の中に入った。しかし、ザリガニなんて姿形も見えない。
「逃げられたなあ・・」
と残念な気持ちになったが、次の瞬間、
「えっ?あれは何だ?」
とザリガニよりも大きな物が動くのが見えた。じっと目をこらしてみると、カニだ!大きい!びっくりしたが、この獲物を取り逃がしては後悔する。そっとそっと近づいて行って、タモで掬ってみた。
 どういうわけかカニは逃げようともせず、案外簡単に捕まえることができた。
「やった!!」
先ずは妻に見せてやろうと、慌てて川から上がり、家まで走って行った。
「おーい、面白い物見つけたぞ!」
と玄関口で叫ぶと、
「何??」
と訝しげに妻が出てきた。
「カニだ、カニ。大きいぞ」
と、雨水が溜まっていたバケツにカニを入れてみた。


「本当だ、大きい・・」
と言いながら、妻は傍らにあった棒きれでカニをツンツンし始めた。妻はこういうことが大好きだ・・。外に出した方がもっと喜びそうなので、棒きれ2本を箸のように使って、カニを出してみた。


 甲羅は直径10cmくらいありそうだ。右手のはさみはかなり大きくて立派だ。外に出たカニを妻が相変わらず棒きれでツンツンしていると、さすがに怒ったのか、カニが立ち上がった。それを見て、余計に面白がった妻は、さらにカニを刺激する・・。

 


「どうしてはさみがこんなに泥まみれなんだろう?」
と不思議そうに言うものだから、じっと見たら、確かに右のはさみだけ泥だらけ、まるで泥を握りしめているようだ・・。
「綺麗にしてあげるね」
と妻が棒きれではさみを掃除してやったら、はさみの表面は毛で覆われているのが分かった。この毛に泥が絡みついていたようだ。


 とは言え、あまり長く外に出しておいたら、カニが干上がってしまうかもしれない。それはちょっとかわいそうだから、
「もう十分遊んだだろ?」
と妻に確認してから、川に戻しに行った。さすがにもう一度河原に下りる気はしなかったので、橋の上からそっとカニを投げ入れた。ポトっと音がしたと思うと、元気に歩いて行く姿が見えたので、
「じゃあ、またな」
と声をかけてやった。
 
 しかし、あんな大きなカニが川にいるなんて全く知らなかった。何ていう種類のカニなんだろう?モクズガニかなあ・・。


 
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