★ 人は自分だけは特別な存在だと思っている。例えば、人は誰でも死を迎えることを知ってはいる。しかしそれが自分に訪れることには案外無頓着なのだ。
★ 病にしてもそうだ。癌や難病など他人事のように思っているが、それがある日自分に降りかかってきたらどうであろう。
★ さだまさし作「解夏」は、そうした作品である。東京で教師をしていた主人公が発作に襲われる。そして少しずつ視力を失っていく。まるで真綿で首を絞められるような日々。主人公は故郷の長崎に帰り、故郷に一人残る母、東京からやってきた恋人とともに不安と迷いの日々を過ごす。
★ そんなある日、寺で僧侶から「解夏」の話を聞く。僧侶は、失明をするという恐怖を行になぞらえて説く。それは生きると言うことにも通じるものだった。
★ 視力や体の機能を失う恐怖は想像に余りある。私自身眼病で視力の一部が欠けたときは大きなショックを受けた。このまま治らなければ、いや益々悪化すればどうすればよいのだろうか。幸運にして私の目はほとんど以前の状態に回復したが、視力を失う不安は尋常ではなかった。金銭などで補うことのできないものである。
★ 「解夏」は短い作品だが、長崎の美しい風景を背景に、さださんの筆が冴えている。