じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

安東能明「第3室12号の囁き」

2022-11-05 19:29:18 | Weblog

★ 知人が「アキレスと亀」の話を持ち出した。ゼノンのパラドックスだ。「アキレスと亀」にせよ「的に当たらない矢」にせよ、現実を見れば間違いは明らかだが、どこがどう間違っているのか証明するのはなかなか難解なようだ。

★ そこで、野矢茂樹さんの「無限論の教室」(講談社現代新書)を読み始めた。無限論を物語風に解説されているが、やはり難しい。カントールの対角線論法あたりで挫折。時間をおいて読み直してみよう。

★ さて、今日は安東能明さんの「撃てない警官」(新潮文庫)から「第3室12号の囁き」を読んだ。最後にどんでん返しがあり、面白かった。

★ 所轄の警務課長代理、柴崎が主人公。その日は署で大変なことが起こった。生活安全課長が近々開かれるイベントの警備計画書をなくしたのだ。そのイベントには総理大臣をはじめ多くの要人が列席する。計画書がテロ組織の手に渡りでもすれば大ごとだ。署長以下の責任も問われるだろう。署をあげての捜索をするが見つからない。

★ そんな折、柴崎は別件の捜査を命じられる。拘置中の男と留置担当官(看守)との癒着が報告されたのだ。看守はなぜ被疑者に便宜を図るようになったのか。柴崎は極秘に捜査を始める。すると警備計画書の紛失とも接点が。

★ 警察組織というのは独特の経営風土があるなぁ。

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日下圭介「海猫碑」

2022-11-04 16:01:01 | Weblog

★ 野沢尚さんの「魔笛」(講談社文庫)を4分の1ほど読んだ。カルト教団「メシア神道」の教祖に死刑判決が下された日、渋谷の交差点で大規模な爆弾テロが起こる。物語はまだ序盤だが、いかがわしい新興宗教が後を絶たない背景を記述した部分(106頁)が興味深い。

★ 著者は宗教法人法の不備を指摘し、それが改正されない理由を述べる。「多くの政治家が宗教に色目を使い、宗教の手先となっているからだ。一部の新興宗教は、信者という名の票と、信者から集めた潤沢な資金を持っていて、それが法人税法の公益法人ということで手厚く保護される」、教団は「票も金も喉から手が出るほど欲しい政治家にとってはありがたい存在なのである」と。卓見だね。

★ さて、今日は日本推理作家協会編「ミステリー傑作選18 花には水、死者には愛」(講談社文庫)から、日下圭介さんの「海猫碑」を読んだ。

★ 事業に行き詰まり見知らぬ街を彷徨っている男。ふと立ち寄った古本屋で帆船の画集を購入する。それは今から16年前、旅の途中で知り合った女性が持っていたものだった。

★ その女性は海難で海に沈んだはずなのに。男はかつて女性と一夜を過ごした海辺の町へと向かう。

★ 全体的に幻想的な作品だった。短い文で淡々と記述されていた。

 

☆ ふと気が付くともう11月も数日過ぎている。中学校では3年生の進路相談(三者面談)真っ盛りだ。進路が具体的に決まっていく。塾はいよいよ追い込み態勢に入る。

☆ 明日は朝から町内会の草むしり(次の週は避難訓練)。明後日は模試。そうこうしているうちに期末テスト2週間前になる。今年もあっという間に1年が過ぎそうだ。この1年、何を残せたのだろうか。

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森村誠一「人生のB・C(ベースキャンプ)」

2022-11-03 21:39:19 | Weblog

★ クラス会というのはどうも成功者の集まりのような気がして、私は二の足を踏んでしまう。

★ 森村誠一さんの「永遠のマフラー」(角川文庫)から「人生のB・C(ベースキャンプ)」を読んだ。主人公の元に大学のクラス会の案内が届いた。

★ 案内を受け取り、彼は学生時代の甘酸っぱい思い出に浸る。彼には退屈な講義を並んで受けるガールフレンドがいた。容姿端麗にして高級なブランドを身につけている。実は銀座のクラブで働いているという。今では売れっ子作家の仲間入りをした主人公だが、当時はただの貧乏学生。どう考えても釣り合うはずはないのだが、一度だけ結ばれたことがあった。

★ それから20年。期待と不安を胸に彼はクラス会に出席する。同窓生の内には各方面で活躍している人もいれば、行方知れずの人もいる。そして主人公はかつてのあこがれの女性と再会を果たすのだが。

★ 最後は切ない。何も恐れるものの無かった学生時代、まさに人生のベースキャンプを懐かしく思える作品だった。

★ 年月の流れは早すぎる。老いは残酷だね。

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小川糸「ライオンのおやつ」

2022-11-02 15:54:00 | Weblog

★ 小川糸さんの「ライオンのおやつ」(ポプラ文庫)を読んだ。この作品は泣ける。特に170頁を過ぎた辺りからは、涙が止まらない。

★ 主人公は海野雫。30歳を少し超えた女性だ。癌を発症し、抗がん剤の効果もなく、医師から余命を宣告される。ぶつけるあてのない葛藤の後、彼女が決めたのはホスピスで最後の時を過ごすこと。

★ 瀬戸内の島にあるそのホスピスは「ライオンの家」と言った。彼女同様、最後の時をその施設で過ごす人はゲストと呼ばれた。白髪交じりのおさげ髪、「ライオンの家」の代表はマドンナと言った。

★ 雫は入居した当時まだ体力があり、瀬戸内の美しい風景を見、空気を吸い、朝食の粥を味わい、寿命が伸びる感じがした。ブドウ園を経営するイケメンの男性とのドライブ、先の住人が残した犬の六花の温もり。彼女は充実した時間を過ごす。

★ しかし、時間は残酷だ。入居するゲストは一人、また一人と旅立ち、雫の病も進行する。昨日までできたことが今日はできなくなり、寝たきりになってしまう。夢うつつの状態で、思い出の人々と出会い、そして静かに息を引き取る。

★ 「ライオンの家」では、週に1回、ゲストがリクエストしたおやつが提供される。ゲストは思い出とともにリクエストし、その文面はマドンナが朗読する。

★ 「人生の最後に食べたい”おやつ”はなんですか」。帯のメッセージが心に沁みる。

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宮本輝「小旗」

2022-11-01 17:38:53 | Weblog

★ 昨日の夕方、くっきりとした虹が出た。灰色の空を背景に2重のアーチが描かれていた。

★ さて、今日は宮本輝さんの「星々の悲しみ」(文春文庫)から「火」と「小旗」を読んだ。

★ 「火」は、マッチの火を見つめることによって、蓄膿症の不快感を和らげる男の話。物語は、数十年前のまだテレビが珍しく、力道山が活躍するプロレスが大人気だった時代と、作品が書かれた「今」とを行き来する。京阪四条駅がまだ地上にあったところが懐かしい。

★ 「小旗」は、「父が精神病院で死んだ」から始まる。主人公は大学卒業を間近にしながら、就職も決まらず、繁華街をぶらつく日々を送っていた。そんな時、父が死んだという知らせを受ける。

★ この父親は事業を始めては失敗を重ね、遂に姿をくらました。残された母親と主人公の元には悪い筋の借金取りが昼夜を問わずやってきていた。

★ しばらくして、父親が女性と同棲していると知って母親は怒り心頭。そうこうしているうちに父親は卒中で倒れ半身不随に。言葉が通じない苛立ちからか乱暴になり精神科のある病院に収容される。

★ 主人公は父親が亡くなった病院へと向かう途中、律義に小旗を振る男を見かける。往来を整理しているようだが、その姿に気を引かれる。

★ どちらも私小説のような味わいがある。それでいて、暗い色彩を感じる。人生はどす黒く、それでも人は生きねばならない。

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