渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

日本刀保護の代用油 ~バルブオイル~

2013年11月14日 | open


(出錆の原理)

日本刀保護には大気と刀身
表面の接触をシャットアウ
トする刀剣油が
欠かせない。
観賞用の刀は、表面に不動態
皮膜が形成されているので防
錆力が
高く、頻繁に油を引き
換える必要はない。
不動態が形成された刀身は油
を塗らなくても錆びない程だ
(例:江戸期の平和な時代の
抜刀をほぼしない武士の刀。
日常的に帯刀する塗り鞘の
中の刀身は油をほとんど引い
ていなかった)


ただし、これが頻繁に抜刀・
納刀を繰り返す武用刀の真剣
となると話は違ってくる。

武用刀は必ず錆びる。これは、
どんな刀でも100%錆びる。

錆といっても真茶色の赤錆は
あまり出ない。

最初薄曇るような感じで変色
し、それからどんどん薄黒く
錆びて行く。

これは、たび重なる納刀や
試斬による摩擦で、表面の
不動態が除去
されて刀身が
直接大気と触れるため、化
学反応を起こして錆が
形成
されて行くのである。

実用刀剣の防錆のためには、
使用後に手脂を完全に除去
し、保存油
を刀身にまんべん
なく塗布して大気と遮断する
ことが必要だ。

できることなら白鞘を休め鞘
として、白鞘に刀身を入れて
保管することが
望ましい(武
用刀の柄はむしろ何度も脱着
しないほうがよい)。


刀剣専用の油は各職人がオリ
ジナルの油をリリースして販
売している。

私が最もおすすめするのは
太田商店謹製(銀座刀剣柴田
で販売)の
専用刀剣油で、こ
れは国立博物館刀剣室でも使
用されている。

一般的な刀剣油よりも粘度が
高く、皮膜が持続する。

次におすすめは藤代製だが、
未確認だが、これも実は太田
製なのでは
なかろうか。

だが、刀剣専用油には最大
の欠点がある。

それは、成分表示がないため、
瓶などの容器であっても、航
空機に持ち込みが
一切できな
いことだ。手荷物でなく預け
荷物でも積載を拒否される。

厳密にはネルなどに染み込ま
せた刀剣用の油も、航空機の
保安上の問題から
持ち込みが
拒否される。成分が不明であ
るから、安全管理が厳しくな
った2013年現在
では、これは
致し方ない措置といえるかも
しれない。


ではどうしたらよいか。
それは、成分表示が明記して
あり、かつ、航空会社の規定
に沿った油である

ならば、適量に限り運搬がで
きる。化粧品の椿油や化学合
成油も規定量まで
なら預け荷
物で運搬できるので刀剣と一
緒に預けるのがよいだろう。

ちなみに銃砲刀剣類は厳重な
大型ジュラルミンケースを
航空会社が用意して
くれる。
当然美術刀剣は預け荷物で
運搬ができるし、実銃と実包
(5kgまで)も
預けて運搬す
ることができる。


そして、航空機での運搬可能
な刀剣用に使える油を私はか
ねてから物色して
いたが、実
際に刀剣に使ってみてすこぶ
る防錆効果が高いオイルとし
て、
管楽器用のバルブオイル
がマッチすることを発見した。

一般的な刀剣油よりも伸びが
よく、かつ防錆効果も高い。

私が使っているのはヤマハの
一番粘度が高いバルブオイル
だ。



金額は高級刀剣油よりもかなり
安い。

私は油で刀身を洗い流すように
して手脂を除去するので、防錆
油の使用量が
かなり多い。
噴射スプレー式の各種オイルは
有機溶剤が刀身の金肌拭いや刀
身自身に良い
影響は及ぼさない
と考えられるので使用していな
い。

まして、自動車用のルーセン
(CRC5-56等)はベースオイル
が不明であるのと
石油と有機溶
剤との混ざり物なので絶対に私
は使用しない。そもそも刃物に
CRCを
使用するのは厳禁という
のは刃物遣いの常識にもなって
いる。特に、つんつるてん
のナ
イフならともかく、折り返し鍛
錬をした鋼の打ち刃物にはCRC
は組織保護の
観点からも危険す
ぎるように思われる。石油臭く
なるのもCRCの欠点だろう。
CRC5-56は別な場面での使用を
前提に作られているオイルなの
で、製造目的に合った使用法が
適した使い方だといえるだろう。
例えば、CRC5-56をスチール
パイプの内部にスプレーして
そのままにしておくと、てき
面に錆を呼んでしまう。また
プラスティックに噴射したら、
プラの組織が崩壊してクラック
が入るのは有名だ。

ただし、刀剣油として、シリ
コンオイルに関しては、ティ
ッシュなどに吹き付けてから
有機溶剤を
飛ばした後に刀身
に塗布するのはある程度の防
錆効果はあると思われる。
エアソフトガンは実銃に比べ
て非常にデリケートであるの
で、私は内部機構の部位によ
り6種類の油(含むグリス)を
適宜使い分けている。本来の
メンテナンスというものは
そのようなものだと私は思っ
ている。ミシン油を注してお
けば十分に稼働してくれた
足踏みミシンのようなことに
はならない繊細なエアソフト
ガンの内部機構には、細心
すぎる程の注意を以て扱う
ように私はしている。
刀剣も同様に、油に関しては
厳選したいところだ。


管楽器用のバルブオイルはかな
り良いものがあり、各社が鎬を
削るように開発
して販売競争し
ている。

私がヤマハのバルブオイル(ビ
ンテージ)をテストで使用し始
めて1年が経過したが、
防錆効
果はむしろ一般的な高級刀剣
油よりも高い。

そして、なによりも良いのが、
極めて薄く伸びてべたつかない
ので、抜刀・納刀が
実に楽に
なることだ。

ただし、私はネルに染み込ま
せた古い油のまま刀身を拭う
ことは一切しない。

すべて、常に新品の油を揉んだ
ティッシュに垂らしてからそれ
を塗布する。

そうして1年テストした結果、
ヤマハのバルブオイルは一般
的刀剣油よりも
良好な結果が
出たことを体感した。

油としても良好で、価格も安く、
航空機にも持ち込めるのはヤマ
ハが宣伝して
おり、これは刀剣
油としてもおすすめです。


楽器関連メーカー各社から販売
されているバルブオイルの製品
紹介は
こちらから→島村楽器


(刀剣油は防錆という管理上の
問題が伴います。あくまで自己
責任でお試しください)