翌日の職員会議で、良子は自分の心情をみんなの前でぶちまけた。
自分は巻き込まれている。
スーパーヴァイズされる必要がある。
今の自己不一致な自分では、他人の心のケアにあたれない。
プロとして客観的にそう判断したからだ。
一ヶ月前に周君から告白されたこと。
自分の中で周君に対する愛情が芽生えたこと。
周君と優子が付き合い始めたこと。
それに対して心の動揺を抑えることが出来ないこと。 . . . 本文を読む
良子と周君の間に何の進展も無いまま、日々が過ぎていった。
良子は周君を充分意識していた。
でも、周君からは何のお誘いも無い。
それもそうだ、良子は自分の携帯の番号もメールアドレスも教えていなかった。
それは、規則なのだ。
職員が当事者のかかえる問題に巻き込まれないための、必要不可欠な規則だ。
それを守らなかったら、職を辞さねばならない。
良子は最近、変わったとよく言われる。
実際 . . . 本文を読む
「あ、僕、料理の出来ない女はパスです。」
周君は間発を容れずに答えた。
ええっ?周君はそんなところに女の子を評価する基準を設けていたの?
そういえば、こないだの調理実習のとき優子は
「玉ねぎの皮の剥きかたを教えてください。」
と、職員に聞いていた。
はたして周君は本心から言っているのだろうか?
「料理くらい教えてあげればいいじゃない。」
「そんなことより、僕、良子さんのことが好きで . . . 本文を読む
それからまた1ヶ月がたった。
結果は凶と出た。
まあ、それまでの話でそうなることは良子をはじめ周君以外のみんなにはわかっていたが…。
健さんのアドバイスも、良子を始め関係者全員の心配も全部無駄になってしまった。
「話聞いたげるよ。」
良子は周君にそう言って、2階の廊下の奥のベンチへ誘った。
プレイボーイ周君は攻撃は天才的だが、ひとたびタチの悪い女に引っかかると
防御がてんでなってない . . . 本文を読む
それからひと月がたった。
優子は毎朝8時半に送迎バスに乗って施設にやって来る。
みんなの輪の中にもうまく溶け込んだ。
男共はというと、約2名が優子に交際を申し込み、
いずれも見事玉砕したと噂で聞いた。
なかなか手強いゾ。
以前恋人がいたが、優子が病気になって別れたという情報も仕入れた。
今は誰とも付き合っていないらしい。
周君はというと、ごく普通に接している。
というより、素っ気 . . . 本文を読む
事務室に戻って仕事をしながら、優子とのやり取りを反芻した。
優子は良子の真意を理解できたであろうか?
今年で30才になる筒井周、統合失調症、入院歴2回、自・殺未遂経験あり、
ジャニーズ系の呼び名がはまっているので、年下の子もみんな君付けで呼んでいる。
周君は陰に隠れた問題児なのだが、本人は全く意識していない。
どこが問題なのかというと、一言で言って、
"女ったらし"なのだ。
女と見れ . . . 本文を読む
また一人、今日も施設の見学者が病院のケースワーカーさんに連れられてやって来た。
20才代の女の子、上玉だ。(おっと、失言)
萌え系でおっとりした可愛い子。
CGの世界から抜け出してきたかのような整った顔立ちと見事なプロポーション。
名前を山口優子という。
所長が外出していたので良子が面接にあたった。
「ここは何をしていても自由なのよ。
眠たかったらお昼寝しててもいいの。
スポー . . . 本文を読む
施設には男女交際禁止という規則がある。
だが、良子の知る限り守られたためしは無い。
むしろ、自由恋愛を薦めているきらいさえ感じられる。
去年、メンバーさん同士が結婚したときには、所長が仲人をした。
内々の結婚式だったので良子はお呼ばれしなかったが、花嫁は所長のスピーチに感動し、
何もかも、所長を始め職員さん方のおかげです、と言って泣いていたらしい。
施設とは、正式名称:精神障害者地域活 . . . 本文を読む
翌日、武は5等のくじを換金してもらいに、近くのショッピングモールへ行った。
愚かなことに、武はこの期に及んでもまだ、自分が見落としていただけで
実は1等のくじが紛れ込んでいるかもしれない、
という希望を捨てきれないでいた。
何度も見直したハズレくじを機械にかけてもらった。
「俺にもいつかはツキがめぐってくる」
その希望というより野望に近いものが打ち砕かれるのに、ものの2分もかかりはしな . . . 本文を読む
金曜の朝、5時きっかりに武は目を覚ました。
起き上がるとすぐ、玄関に朝刊を取りに行った。
ロト6の当選番号を見るためだ。
ロト6は、先々週と先週2回続けてキャリーオーバーになっている。
その繰越金は8億を超えている。
ということは、今週1等が2人出ても、賞金は最高額の4億円がもらえる。
武は毎週ロト6を買っている。
1週間に1口(200円)ずつという、チョー貧乏くさい買い方だ。
そ . . . 本文を読む