がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
120)がん治療に役立つ食材(3):クコ(枸杞)の実
図:クコの実(枸杞子)は、滋養強壮や抗老化の効能が知られ、食材や薬用酒や生薬などとして古くから利用されている。がん治療における副作用軽減や抗腫瘍効果の増強作用、免疫増強作用なども報告されている。
120)がん治療に役立つ食材(3):クコ(枸杞)の実
クコ(枸杞:Lycium barbarum)は日本、中国、台湾、朝鮮、マレー半島などに分布するナス科の落葉小低木です。茎はつる状に伸び、小枝の変化した短いトゲがまばらに見られます。枸(カラタチ)のようなトゲがあり、茎は杞柳(カワヤナギ)の小枝に似ているので、枸杞と名付けられたと言われています。
滋養強壮や不良長寿の効能があると言われ、果実、葉、根が古代から珍重されています。約2000年前の中国の漢の時代の本草書である「神農本草経」の上品(上薬)に記載されています。
クコの果実はクコシ(枸杞子)、葉はクコヨウ(枸杞葉)、根皮はジコッピ(地骨皮)という生薬名で漢方薬に使用されます。
根皮は医薬品、果実と葉は非医薬品区分されますので、枸杞子と枸杞葉は食品としても販売されています。
クコの果実は2cm程度の長楕円形をし、成熟した果皮は赤く光沢があります。夏に収穫され、天日干しして乾燥したものが、ドライフルーツや生薬として流通しています。
疲労回復や老化防止の効果があり、昔から不老長寿の民間薬として利用され、枸杞酒や薬膳としても利用されています。各種ビタミンやミネラルを豊富に含み栄養価が高く、強い抗酸化作用も注目されています。
視力の低下、足腰の倦怠感、性機能障害にも効果があります。
水性エキスにコレステロールおよび肝脂肪の増加抑制効果が認められていますが、その効果は含有成分のベタイン(コリンの生体内代謝産物)によるとされています。
糖尿病や不眠症にも効果があると言われ、疲労回復や老化防止にも良いと言われています。
クコの葉(枸杞葉)は漢方生薬としてよりお茶として利用されています。ベタイン、ルチン、ベータ-シトステロール、ビタミンCなどを含み、動脈硬化や高血圧の予防に効果があります。
クコの根皮の地骨皮は解熱作用があり、慢性の感染症などで熱や体力消耗がある場合に使用されます。糖尿病や高血圧にも効果があります。
クコの実は、米国ではGoji berryと言い、強い抗酸化作用や滋養強壮作用の効能から抗老化作用(アンチエイジング)が宣伝され、ジュースやサプリメントの材料としても人気があります。
がん治療との関連で、クコシの効能を検討した研究も多くあります。
枸杞子に含まれる多糖成分には免疫増強作用が報告されています。
マウスを使った実験では、がん細胞に対する免疫力である細胞障害性Tリンパ球やナチュラルキラー細胞の活性を高める効果が報告されています。
さらに臨床試験で、枸杞子多糖をリンパ球療法(LAK/IL-2療法)と併用すると、抗腫瘍効果が高まることが報告されています。75例の進行がん患者を対象に行われた臨床試験では、腫瘍が縮小した率(response rate)がLAK/IL-2療法単独の場合は16.1%でしたが、枸杞子多糖を併用した患者では40.9%に上昇しました。
Zhonghua Zhong Liu Za Zhi (Chinese Journal of Oncology)16:428-31, 1994
その他、マウスの移植腫瘍を使った実験では、放射線治療や抗がん剤治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めることが報告されています。
ラットを用いドキソルビシンを5mg/kg静脈内注射で週1回、3週間投与する実験では、38%のラットが死にましたが、クコシを25mg/kg毎日摂取させることによって致死率は13%に低下し、心臓機能のダメージも顕著に低下しました。ドキソルビシンの抗腫瘍効果を妨げる作用は認められませんでした。
Protective effect of Lycium barbarum on doxorubicin-induced cardiotoxicity.(ドキソルビシンの心臓毒性に対するクコの保護効果)Phytother Res. 21:1020-1024, 2007
枸杞子を熱水で抽出して得られるエキスに含まれる水溶性の多糖成分には、免疫増強作用の他、直接的な抗腫瘍効果も示唆されています。
培養した肝細胞がん細胞を用いた実験ですが、水溶性の多糖成分が、肝細胞がん細胞の増殖を抑え、アポトーシス(細胞死)を誘導する効果が報告されています。
Hot water-extracted Lycium barbarum and Rehmannia glutinosa inhibit proliferation and induce apoptosis of hepatocellular carcinoma cells (枸杞子と地黄の熱水抽出成分は肝細胞がんの増殖を阻害しアポトーシスを誘導する)World J Gastroenterol 12:4478-4484, 2006
枸杞子は滋養強壮作用や抗老化作用をもった生薬や代表ですが、食品としても販売されています。1日に10~30gくらいを食べると、がんの治療中の体力や免疫力の増強や副作用の軽減に効果が期待できると思います。
ただし、月経促進や人工中絶薬の作用をする成分(ベタイン)が含有されている為、妊婦あるいは授乳中の摂取は避けたほうがよいという報告や、 ワルファリンの効き目を高めることが知られています。妊娠中や授乳中、ワルファリン服用中は枸杞子の摂取はしない方が良いと言えます。
また、血圧や血糖を下げる効果があるので、降圧剤や血糖降下剤を服用中は、その効き目が増強される可能性があるので、注意が必要です。
(文責:福田一典)
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