がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
53) 煎じ薬とエキス剤
図:天然薬物由来の複数の生薬を病気や症状を改善するように組み合わせ、熱水で抽出した煎じ液を服用するのが漢方薬の本来の方法である。生薬を煎じた液を濃縮した後、スプレードライ法によって粉末にしたエキス製剤も使用されている。スプレードライ法で粉末化する過程で水分と同時に、多くの活性成分を含む精油成分が損失する。
53) 煎じ薬とエキス剤
漢方薬の剤型として、湯液(煎じ薬)、散剤、丸剤、エキス剤の4つがあります。「湯液」は複数のきざみ生薬を混ぜ合わせて成分を煮出したスープ状のもの(煎じ液)を服用します。
煎じる方法としては通常、キザミ生薬の一日分に3~4合程度(約600~800ml)の水を加えて火にかけコトコトと煮ます。時間は30~45分で、量がはじめの半分になるのが目安で、カスを捨ててスープ状の液体を服用します。
「散剤」は生薬を粉末にしたもので、煎じると飛んでしまう揮発性・芳香性成分保持のための剤型といえ、当帰芍薬散や五苓散などがあります。
「丸剤」は散剤を蜂蜜などで固めたもので徐放性剤型といえます。八味地黄丸や桂枝茯苓丸などがあります。
しかし多くの場合は、キザミ生薬を時間をかけて煎じて服用するのが一般的で、散剤や丸剤も湯液として服用されています。湯液(煎じ薬)・散剤・丸剤は昔から使われている伝統的な剤型で、生薬の持ち味が十分発揮されるようになっています。
さらに近代的剤型として「エキス製剤」があります。大量の生薬を大きな釜で煎じ、それらをろ過し、濃縮した後、インスタントコーヒーを作るのと同じような方法(スプレードライ法)で粉末あるいは顆粒状にしたもので、工場で大量生産されるようになりました。
エキス剤は手軽に携帯できる利点がありますが、粉末にする過程で一部の成分が飛んでしまう欠点があります。メーカーによって生薬の原料に品質や製造方法に差がありますが、信頼できるメーカーのものを使えば品質が一定し効果も十分です。
煎じ薬は手間がかかることや、生薬の品質が不均一であるという短所がありますが、エキス製剤にない漢方薬を調合できることや、症状や体質の違いに応じて生薬を加えたり減らしたりして、その処方の効果を強めたり補ったりできる「さじ加減」が容易に行えるなどの利点があります。両者の長所と短所を下の表にまとめています。
品質の確実な生薬を用いれば、エキス剤より煎じ薬(湯液)の方が効果が高いのが一般的です。その理由は、スプレードライ法で水分を蒸発させるときに、生薬の香りの成分である精油成分が水分と一緒に蒸発してしまうからです。特に、がんの漢方治療の場合、精油成分の中に抗がん作用を持った成分を多く含まれていますので、煎じ液から水分や精油成分を蒸発させてしまうエキス粉末(顆粒)は、抗腫瘍効果がかなり低下するのが問題です。
つまり、生薬に含まれている抗がん成分がエキス製剤に加工する過程でかなり損失するので、せっかくの漢方薬の効果が弱まることになります。漢方薬をがんの予防や治療の目的で利用する場合は、多少の手間がかかっても、煎じ薬で服用することが大切です。
伝統的剤型(湯液・散剤・丸剤) |
エキス製剤 |
|
長所 |
●生薬を吟味・管理できる。 ●いわゆる匙加減ができる。 ●エキス製剤にない漢方薬を調合できる。 ●生薬の特性に合わせて煎じ方を工夫できる。(揮発性成分に富む生薬や熱に弱い生薬を後で入れるなど) ●丸剤や散剤など処方の持ち味が十分発揮できる剤型がある。 |
●手間がかからず旅行などの携帯に便利。 ●メーカーごとの品質がほぼ一定。 ●科学的な薬効評価が可能 ●保存・管理が簡単 |
短所 |
●煎じる手間がかかる。 ●生薬の品質が漢方薬の効果に大きく影響する。 ●科学的な薬効評価が困難(品質の不均一性) ●保存・管理に労力がかかる。 |
●エキス製剤化の過程で、水分と一緒に精油成分などが蒸発してしまう。 ●病態に合わせた適切な匙加減ができない。2剤を併用するとき共通する成分が重複して過量になる恐れがある。 ●生薬の品質を治療者がチェックできない。 |
表:伝統的剤型とエキス製剤の長所と短所
(文責:福田一典)
◯ 漢方漢方煎じ薬についてはこちらへ
画像をクリックするとサイトに移行します。
« 52) がんの悪... | 54) がん患者... » |