52) がんの悪性進展を防ぐ漢方的戦略とは

図:がん細胞には様々な原因で遺伝子の変異が発生し、悪性度の高いがん細胞へと変化する。したがって、大きくなったがん組織は、様々な変異をもった多様ながん細胞から構成されている。がん細胞の遺伝子変異を引き起こす要因を減らせれば、がんの悪性進展を抑えることが可能になる。

52) がんの悪性進展を防ぐ漢方的戦略とは

マウスやラットなどの動物に移植したがん組織に対してはがん組織を完全に消滅させるほど劇的に効くのに、ヒトのがんに対しては十分な効果が得られないのが、多くの抗がん剤の現状です。
なぜ、動物の実験モデルに効いて、ヒトのがんに効かないのか?この理由の一つにヒト固形がんの
ポリクロナリティ(poly-clonality)の問題があります。クローン(clone)とは『全く同じもの』という意味です。
マウスやラットの実験で使用される腫瘍細胞はモノクローナル性が維持されている細胞株です。つまり単一のクローン(全く同じ性質のがん細胞)で構成されているため、効果がある抗がん剤を投与すれば、がん細胞を全滅させることが可能です。
一方、
ほとんどのヒト固形がんでは、そのがん組織の中には多くのクローンが存在します。固形がんとは胃がんや大腸がんや乳がんのようにがん細胞の固まりを作るようながんを指しますが、大きくなったがん組織には性質が異なる多様ながん細胞が存在すると言う事です(図)。
固形がんのがん細胞の遺伝子解析を行うと、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異は様々で、無数のクローンで構成されていることが判明しています。
したがって、ある抗がん剤を投与して腫瘍が小さくなっても、その抗がん剤が効かないがん細胞が存在することが多いため、いずれ耐性をもったがん細胞が再増殖してきます。あるいは、抗がん剤や放射線治療を行っている間に遺伝子の変異が起こって、抗がん剤に耐性をもったがん細胞が新たに出現してくることもあります。抗がん剤も放射線もDNAに変異を引き起こす作用があるからです。
最近は、がん細胞の増殖に関連している単一分子を標的にした
分子標的剤と言われる抗がん剤が開発されていますが、これらの奏功率はほとんど20%以下です。たとえ一時的に効果が認められても、数ヶ月から数年以内に再燃し、根治することはほとんど期待できません。
ヒト固形がんにおけるがん細胞のポリクロナリティ、つまり多様性の存在が、抗がん剤治療の限界であり、再発の原因として重要な要因となっています。
がん細胞の多様性が起こる原因の一つは、がん組織の中で、
炎症細胞から産生される活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカルによってDNA変異が起こっているからです。DNAが複製する過程でもエラーが起こりやすいため、がん細胞が分裂する時にも遺伝子変異が生じるリスクが発生します。抗がん剤や放射線ががん細胞の遺伝子変異を促進している可能性も指摘されています。

西洋医学の標準治療では、ある程度進行したがんの手術後には、転移しているかもしれないがん細胞を殺す目的で、術後に抗がん剤治療(
術後補助化学療法)を行う方が良いと考えられています。実際にその考えをサポートする臨床試験のデータも報告されています。
確かに、何もしないよりは術後補助化学療法を行なう方が、再発率を低下させ、延命効果が得られることが報告されています。
しかし、術後補助化学療法の評価は、患者全体の平均された再発率や生存期間で行なわれており、副作用のデメリットは考慮されない傾向があります。『がんが小さくなれば、生活の質が低下しても仕方ない』という考えが西洋医学のがん治療にはあります。『がんは消滅したが、患者さんは亡くなった』という笑い話は誇張ではないのが現実です。

最近は、
抗がん剤治療による副作用のデメリットを重視し、術後補助化学療法が最善の治療法なのか疑問を示す意見もあります。
例えば、乳がんの外科切除単独と、外科手術+術後化学療法を併用した場合を比較した研究によると、術後化学療法併用による5年生存率の改善は5%程度、2~3ヶ月の延命効果に過ぎず、一方、化学療法を受けたために、緊急入院や輸血を要するような重度の副作用や、生活の質の低下などのデメリットも多いことが報告されてます。つまり、数ヶ月の延命効果を得るためには代償が大きすぎるという指摘です。

がんは攻撃しなければ延命できないという西洋医学のパラダイムは、必ずしも正しくないかもしれません。抗がん剤至上主義の対がん作戦には根本的な問題がある可能性も言及されています。少なくとも、この治療戦略の重大な欠点は、本来なら再発しない可能性のある患者まで、毒性のある治療を受けなければならないという点です。

がん手術後には、よほど再発リスクが高くない限りは、一律に抗がん剤治療を行うのではなく、体力や免疫力を高め、炎症反応を抑え、フリーラジカルを消去して遺伝子の酸化障害を防ぎ、残っているかもしれないがん細胞を自分の治癒力を利用して消滅させる方法の方が良いのではないかと思います。
食生活や生活習慣(運動や禁煙など)の改善だけでも再発率を低下させることが疫学的研究で明らかになっていますので、再発予防のために抗がん剤でがん細胞を攻撃しなければならないという西洋医学の考え方は、考え直す必要があるようにも思います。

再発予防のための漢方治療は、滋養強壮作用、免疫増強作用、抗炎症作用、抗酸化作用、植物の抗がん成分を利用した抗腫瘍作用などを組み合わせます。
医食同源を基本とする漢方治療は食生活の改善によるがん予防効果を高めることを目標にしています

がん細胞の悪性進展を抑えながら、体の治癒力を強化してがんの再発を予防する治療戦略は、もっと見直されて良いように思います。

(文責:福田一典)


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