218)鶏血藤(けいけっとう)

図:鶏血藤はマメ科のつる性植物の茎を用いる。その基原植物は、地域によってムラサキナツフジ(昆明鶏血藤)、白花油麻藤、蜜花豆など様々。造血作用(特に白血球増加)や血液循環を良くする作用、さらに鎮痛作用や抗がん作用もあるので、がんの漢方治療に使用頻度が高い。


218)鶏血藤(けいけっとう)


鶏血藤(ケイケットウ)はマメ科のつる性植物の茎を用いますが、その基原植物は地域によって様々で、ムラサキナツフジ(昆明鶏血藤;Millettia reticulata)白花油麻藤(Mucuna birdwoodiana)蜜花豆(Spatholobus suberectus)香花岩豆藤(Millettia dielsiana)などの植物が用いられています。このように基原植物は複数ありますが、赤い色素(樹脂)を含み、切ると赤い汁が出ることから「鶏血藤」の名があります。
ムラサキナツクサは中国南部・台湾の原産で、高さ2~4mのつる性常緑低木で、日本には江戸時代に渡来し、醋甲藤(サッコウフジ)とも呼ばれています。
薬用部位は茎で、8~9月に藤茎を切り取り、枝葉をきれいに除去してから天日で乾燥します。
茎にはフェノール性成分、アミノ酸、糖類、鉄分、樹脂などが含まれます。
味は苦、性は温で、漢方では、補血・行血・舒筋活絡の効能があり、月経異常や生理痛、麻痺、関節痛、打撲痛などに用います。つまり、補血と行血によって血液循環を良くし、舒筋と活絡によって鎮痛作用を発揮します。
がん治療においては、抗がん剤治療や放射線治療による白血球減少を改善する効果が報告されています。鶏血藤を10~20g程度煎じて服用すると、3~4日すると白血球が増えてくるとと言われています。効果は速効性で持続します。
肝障害の予防にも効果があることが動物実験で報告されています。以下のような論文があります。


Protective effect of Millettia reticulata Benth against CCl(4)-induced hepatic damage and inflammatory action in rats.(ラットにおける四塩化炭素による肝障害と炎症反応に対する鶏血藤の保護作用)J Med Food 12(4):821-8, 2009



(論文要旨)台湾の台中市の国立中興大学(National Chung Hsing University)からの報告。
ラットに四塩化炭素を投与して起こる急性肝障害と炎症反応に対する、鶏血藤の熱水抽出エキスとその活性成分であるプロトカテキュ酸(protocatechuic acid)の効果を検討した。
ラットに、鶏血藤エキスまたはプロトカテキュ酸を28日間連続して経口投与した後、腹腔内に四塩化炭素を投与した。四塩化炭素による肝障害(ASTとALTの上昇)は、鶏血藤エキスまたはプロトカテキュ酸の前投与によって著明に抑制された。組織学的な検査でも、四塩化炭素によって引き起こされる肝細胞の空砲変成と壊死は、鶏血藤エキスの前投与によって軽減した。四塩化炭素投与によって、肝臓ではシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)や誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やミエロペルオキシダーゼの発現が増加し、亜硝酸塩(nitrite)や硝酸塩(nitrate)の産生量が増えるが、これらの炎症反応は鶏血藤エキスの前投与によって抑制された。
鶏血藤エキスの経口投与は、グルタチオン依存性の抗酸化酵素の活性を高め、四塩化炭素投与のよって生じる酸化ストレスや炎症を低下させる。



鶏血藤は1980年代以前は、中国医学ではあまり注目されていませんでした。しかし、補血・行血・舒筋活絡の効能から、血行障害に起因する痛みやしびれや麻痺に有効で、さらに放射線や抗がん剤治療による白血球減少に対して、非常に良い治療効果を示すことが報告され、中国医学や漢方で多く利用されるようになりました。
抗がん剤や放射線治療で、貧血や白血球や血小板の減少、手足のしびれや痛みがあるとき、鶏血藤10~20gに、さらに補気薬(人参・黄耆・大棗)、補血薬(当帰・地黄・枸杞子・竜眼肉)、駆お血薬(桃仁・紅花・延胡索・牛膝・赤芍・川きゅう)などを併用すると効果が期待できます。さらに、免疫力を高める霊芝、梅寄生、茯苓、猪苓などサルノコシカケ科のキノコの生薬も併用すると有用です。
例えば、抗がん剤や放射線治療による白血球減少には、鶏血藤15g、黄耆15g、当帰10g、大棗10g、竜眼肉10g、何首烏10g、梅寄生10gなどを加えて煎じて服用します。
がん性疼痛やしびれには、鶏血藤15g、当帰10g、川きゅう10g、牛膝9g、延胡索9gなどを煎じて服用すると効果があります。


黄耆(オウギ)・大棗(タイソウ)・茯苓(ブクリョウ)・鶏血藤(ケイケットウ)をそれぞれ18gづつ加えた漢方薬エキスを、白血球数が3500以下の患者50人に20~30日間投与すると、56%の人が白血球数が4000以上増加し、24%の人は1000以上増加したという臨床試験の結果が報告されています。(50 cases of agranulocytosis treated with soluble powder of astragalus and jujube, Journal of Traditional Chinese Medicine 1985; 26(3): 33-34.)
体力や食欲や免疫力が低下(脾虚・気虚)したがん患者242人(主に胃がんや大腸がん)に、1日当たり黄耆30g、鶏血藤30g、茯苓15g、枸杞子15g、太子参15g、女貞子15g、菟糸子(としし)15gからなる漢方薬を服用させると、2~3日後には、マクロファージやリンパ球の働きが活性化され、末梢血のナチュラルキラー細胞活性が著明に上昇したという報告があります。この処方は上記の処方の大棗を枸杞子・太子参・女貞子・菟糸子の4種類に代えたものです。(Observation on immunofunction of spleen-deficiency tumor patients treated with Sheng Xue Tang, Chinese Journal of Traditional and Western Medicine 1991; 11(4): 218-219.)
中医学で白血球減少の治療に使われている28種類の処方のうち、黄耆は21処方、鶏血藤は20処方、丹参が13処方、補骨脂が12処方、当帰が11処方という報告があります。10処方以下の生薬には、女貞子、大棗、枸杞子などがあります。(Treatment of granulocytopenia with Traditional Chinese Medicine, Zhongyiyao Yanjiu 1994; 3: 63-64.)
このような生薬を使用した処方は、抗がん剤治療中の患者に使用すると、白血球減少の著明な改善が80%以上で認められるという報告があります。


鶏血藤は補血と駆お血作用によって造血作用(特に白血球増加)と血液循環を良くし、さらに鎮痛作用や抗がん作用もあるので、がんの漢方治療に使用頻度が高い生薬の一つで、多めの量を使用すると治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強に有効です。


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