がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
575)がん患者は血液循環が悪くなっている:駆瘀血薬の有用性
図:がん細胞は組織因子などの血液凝固を促進する因子を産生して血液凝固因子を活性化する(①)。がん組織内の活性化した血小板や白血球や血管皮細胞は組織因子や炎症性サイトカインを産生して(②)、血液凝固因子を活性化する(③)。抗がん剤治療も炎症性サイトカインの産生を亢進する(④)。抗がん剤治療はがん組織や正常組織に炎症を引き起こして凝固因子を活性化する(⑤)。抗がん剤は血管内皮細胞などにダメージを与え、組織因子の産生を亢進し血液凝固因子を活性化する(⑥)。これらの結果として、がん患者では、血液凝固能や血栓形成が亢進している。このような病態を漢方では瘀血(おけつ)と呼ぶ(⑦)。瘀血は血液循環を悪くして、治癒力を低下させる(⑧)。駆瘀血薬は血液凝固因子の活性化や血管内皮細胞の活性化を阻害することによって血液凝固や血栓形成の亢進を抑制し、血液循環を良好にする(⑨)。
575)がん患者は血液循環が悪くなっている:駆瘀血薬の有用性
【血液はスムーズに流れることによって働くことができる】
血液も体を構成する組織の一つです。しかし、他の組織や臓器と異なるのは、「流動する」ことによって機能を発揮するという点です。
血液は血管を使って身体の中を循環し、個々の細胞に酸素と必要な栄養素やホルモンなどを届け、代謝によって生じた老廃物を体外へ捨てる働きを担っています。
さらに、体外より入ってきた細菌や毒素、体内の異物を処理するための生体防御に必要な免疫細胞や炎症細胞を運ぶ働きも担っています。
したがって、血液循環が悪くなれば、全ての組織・臓器の働きが低下し、老廃物が蓄積し、感染症やがんに対する抵抗力が低下することになります。
図:血液には、酸素や二酸化炭素を運搬する赤血球や、出血を防ぐ血小板や、生体防御に働く白血球などの血球成分が含まれ、血管を介して、体中を循環している。
図:血液は血球成分(赤血球、白血球、血小板)と液体成分(血漿)から構成される。血漿中には水やミネラルや栄養成分や老廃物が含まれる。これらの成分は血流によって全身に運ばれる。血液循環が悪いと、これらの成分の働きが阻害される。
【血液は凝固する】
通常、血液は血管内で固まることはなくスムーズに流れています。しかし、いったん血管が破れると、血液が体外に流れ出てしまわないように止血機構が働いて急速に血液を固めてしまいます。
この止血機構で活躍するのが血液細胞である血小板と血漿蛋白質のフィブリノゲンをはじめとする凝固因子です。
血管が破れると、まず血小板が塊になって血管壁に付着します。凝集した血小板からセロトニンが放出され、血管の収縮を助けて血流が低下します。同時に、血漿中にある凝固因子やカルシウムが作用して血漿中のプロトロンビンをトロンビンに変換します。
さらに、このトロンビンが可溶性(水に溶ける)のフィブリノゲンを不溶性(水に溶けない)のフィブリンに変換します。フ
ィブリンは細長い線維状の分子で、集まって網目構造をつくり、そこに赤血球が絡まるようにして凝血塊ができます。破れた血管壁が再生されるまで、この凝血塊が傷を塞いでくれます。血液が固まるまでの時間は通常2~6分です(下図)。
図:血管が破れて出血すると、血液中の血小板が出血部位に集まり、血小板血栓が形成される(一次止血)。血液中の凝固因子が活性化されて網目状のフィブリンができる。フィブリン網が血小板血栓と一緒になって血栓として傷口を塞ぐ(二次止血)。
このように、血液が凝固する反応は、ある凝固因子を活性化し、活性化された凝固因子がまた別の凝固因子を活性するという、いくつかの反応が次々と連鎖的に起こります。
血管破綻という引き金により凝固因子が連鎖反応のように次々と活性化されるのです(下図)。
図:止血の過程には、12種類の凝固因子が関与している。第Ⅳ因子はカルシウムイオンで、それ以外はタンパク質。これらの凝固因子は次々に反応を引き起こして、最後にフィブリノゲンからフィブリンの網の膜を作って血小板血栓を覆い固めて、二次止血が終了することになる。
【がん患者は血液凝固能と血栓形成が亢進している】
元来、正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子のはたらきにより、血液は凝固しないような仕組みをもっています。
しかし、がん患者では血液凝固能が亢進し,血栓塞栓症を起こしやすくなっていることが知られています。
がん患者は非がん患者に比べて、静脈血栓症の発生率が約6倍という報告があります。がんで死亡した患者の50%くらいに剖検で静脈血栓症が見つかるという報告もあります。
フランスの著明な神経内科医のトルーソー(Armand Trousseau)が1865年に悪性腫瘍に伴う血液凝固亢進により脳卒中症状(多発脳梗塞)を生じる病態を報告し、Trousseau 症候群と呼ばれています。
原因となる悪性腫瘍は固形がんがほとんどで,そのなかでも婦人科腫瘍が多く,ほかに肺がん,消化器がん,腎臓がん,前立腺がんなどが知られています。組織学的には腺がん,特にムチン産生性腺がんが多いと報告されています。
がん細胞が血液凝固系を活性化させる機序としては
1)がん細胞が凝固促進物質を産生・放出したり、腫瘍細胞膜表面に露呈する
2)がん細胞の壊死により、凝固促進物質が放出される
3)がん細胞やマクロファージなどの炎症細胞がサイトカイン(IL-1,IL-6, TNF-αなど)を誘導し、血管内皮細胞における組織因子の産生を亢進させる
などが考えられます。
凝固促進物質としては組織因子(tissue factor)が最も重要です。
ヒト組織因子は分子量47kDの糖蛋白質で、脂質と複合体を形成して生理作用を発現する膜蛋白質として存在します。
組織因子は,血液凝固VII因子または活性化血液凝固VII因子と複合体を形成して血液凝固X因子や血液凝固IX因子を活性化し、血液凝固反応の開始機構において重要な役割を担っています。
生体内では多くの組織に広く分布していますが、血管内皮と末梢血液細胞では認められず、血液は組織因子から隔離された状態にあります。
一方、出血時には血管外の常在性の組織因子が止血機序のトリガーとして作用します。
血管内皮細胞と単球・マクロファージはエンドトキシン、IL-1、TNFなどの刺激によって細胞膜表面に組織因子を発現します。
また、がん細胞や白血病細胞なども大量の組織因子を持っています。
がん細胞からは,組織因子のみならず,第X因子を直接活性化するプロコアグラントも放出されます。
さらに、抗がん剤治療は、血管内皮細胞のダメージや炎症性サイトカインの産生を亢進して、血液凝固能の亢進や血栓形成を亢進します(下図)。
図:がん細胞はムチンやシアル酸などの血液凝固を促進する因子を産生して血液凝固因子を活性化する(①)。がん組織内の活性化した単球やマクロファージは組織因子を産生して血液凝固因子を活性化する(②)。活性化した単球やマクロファージは炎症性サイトカインのIL-1, IL-6, TNF-αの産生を亢進する(③)。抗がん剤治療も炎症性サイトカインの産生を亢進する(④)。炎症性サイトカインは血管内皮細胞に作用し、組織因子の産生を亢進し血液凝固因子を活性化する(⑤)。活性化した血液凝固因子はトロンビンを活性化し(⑥)、フィブリノゲンからフィブリンを産生して血液を凝固させて血栓を形成する(⑦)。がん患者では、血液凝固能が亢進し、血栓ができ易い状況にある。
がん患者には播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)の合併も多いことが知られています。
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、血液凝固反応系の過剰な活性化が生ずるため、全身の細小血管内で微小血栓が多発して臓器不全や出血傾向のみられる予後不良の病気です。
さらに、がん患者における血栓形成の亢進は 腫瘍の増殖・浸潤・転移にも影響を及ぼすことが指摘されています。
がん細胞は種々の血小板凝集物質を放出し、血栓形成や凝固亢進状態を促進し、がん細胞自らを巻き込んだ形で血栓を形成することにより、血行性転移を助長しています。
【血液循環が悪いと組織の治癒力が低下する】
血液は、酸素を運搬する赤血球、血管の傷を塞ぐ血小板、生体防御に働く白血球などの血球成分と、いろんな栄養素や蛋白質・脂質などを含む血漿成分から構成されます。
「血のめぐり」は、専門用語で「血液循環」といいます。組織や細胞の活動に不可欠な酸素と栄養物の供給および代謝産物である炭酸ガスや老廃物の除去が、血液循環によって行なわれています。
したがって、血液循環が悪くなることは、そのまま組織の働きが悪くなることを意味します。各血液細胞の機能が正常でも、栄養を十分含んでいても、血液循環が正常でなければ用をなしません。
図:がん患者では様々なメカニズムで血液凝固や血栓形成が亢進して、血液循環が悪くなっている。このような病態を漢方では「瘀血(おけつ)」という。
漢方診療では患者さんの組織の治癒力を判断するときに、皮膚や爪や舌の色を参考にします。皮膚や爪がどす黒い、口唇や歯肉や舌が暗紫色、皮下出血しやすいなどの所見は組織の血液循環が悪く、治癒力や回復力が低下していると判断できます。
抗がん剤や放射線照射はフリーラジカルを産生し、フリーラジカルによる組織の酸化障害は血液循環を障害します。
抗がん剤や放射線治療の副作用を予防するために体力や免疫力を高める補剤(十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)など)を使用する場合には、血液循環を良くする生薬(駆瘀血薬)を併用すると効果を高めることができます。
【活血化瘀法とは】
組織の血液循環を促進して瘀血の状態を解消する治法を「活血化瘀法」といいます。
生薬の中には、血液凝固や末梢循環に作用する生理活性物質が多数見つかっており、抗酸化作用の強い成分も多く含まれています。このように血液の質を改善(浄化)し流れを良くする(血行促進)する生薬を「駆瘀血薬(くおけつやく)」あるいは「活血化瘀薬」と呼びます。
作用機序としては、末梢血管の拡張、血小板凝集の抑制、抗酸化・フリーラジカル消去、赤血球変形能増強、血液粘度低下などの作用が指摘されています。
例えば、牡丹皮の主成分ペオノール(paeonol)や桂皮のケイヒアルデヒド(cinnamic aldehyde)はトロンボキサンA2の産生を抑制したり活性を阻害することにより、強力な血小板凝集抑制作用を示します。
川芎などのセリ科植物の成分であるテトラメチルピラジンやフェラル酸にも血小板凝集を抑える作用が報告されています。一般に香味野菜には血栓を予防する効果が強いことが知られており、生薬の中にも血栓形成を抑制するものは多く知られています。
血中のコレステロールや中性脂肪が高い状態(高脂血症)では血液の粘稠度が高まります。赤血球膜の柔軟性が低下すると赤血球変形能が低下して毛細血管での血液の流れが停滞します。
桂枝茯苓丸や当帰芍薬散や桃核承気湯などの代表的な駆瘀血剤には血液粘度低下作用や赤血球変形能増強作用が科学的研究で証明されています。
このように生薬の微小循環改善(駆瘀血)作用のメカニズムには数多くのものが想定され、その薬理作用が科学的にも証明されてきています。
がんの漢方治療で常用される駆瘀血薬として当帰(とうき)・赤芍(せきしゃく)・川芎(せんきゅう)・延胡索(えんごさく)・欝金(うこん)・莪朮(がじゅつ)・三稜(さんりょう)・紅花(こうか)・桃仁(とうにん)・牡丹皮(ぼたんぴ)・丹参(たんじん)・益母草(やくもそう)、地竜(じりゅう)、大黄(だいおう)、乳香(にゅうこう)、没薬(もつやく)などがあります。
図:漢方治療においては、補気や補血などの効能に駆瘀血薬を適切に併用すると、体の治癒力を高める上で役立つ。
それぞれの駆瘀血薬には特徴があり、それらを理解して使い分けると種々のがん病態で効果を上げることができます。
当帰(とうき)は補血作用を持つ駆瘀血薬で、肉芽形成促進作用があるので、難治性の皮膚潰瘍などに黄耆(おうぎ)とともに使用します。
川芎(せんきゅう)は気と血の両方の流れを良くし、憂うつ・抑うつの症状を改善し、気や血の滞りに起因する様々な痛みに良く効きます。
赤芍(せきしゃく)は抗炎症作用があるので炎症に伴う血液循環障害の治療に使用します。
延胡索(えんごさく)は鎮痛効果をもち、さまざまな疼痛を緩和します。
欝金(うこん)はクルクミンなどの成分に抗腫瘍効果やがん予防効果が指摘されています。
莪朮(がじゅつ)と三稜(さんりょう)は強い駆瘀血の作用により血腫や凝血塊などを吸収して除きます。がんに対する抑制作用があり、両者は一緒に使用されています。
紅花(こうか)は少量(3~6g)では穏やかな活血養血作用を有し、十全大補湯などの補血剤に併用することによって補血の作用を強めます。多めに用いると強力な活血化瘀作用を発揮するので、出血中の場合は少なめに用いないと出血を助長する恐れがあるので注意が必要です。
桃仁(とうにん)は豊富な油性成分を含み、腸管内を潤滑にして便通を良くします。炎症による充血によって疼痛を呈する場合に効果があります。桃仁は紅花と相性が良くしばしば一緒に配合されます。
牡丹皮(ぼたんぴ)は炎症に付随する微小循環障害によく用いられます。
丹参(たんじん)は血管拡張作用や血液循環改善作用があり、抗炎症作用や抗酸化作用も強く、慢性肝炎や心筋梗塞の治療にも使用されています。肝硬変における線維化を抑制し、がん細胞の増殖を抑える作用なども報告されています。薬性が「寒」なので、熱性の病態に使用されます。また、紅花と同様に、瘀血を取り除き、血の新生を促す作用があります。「一味の丹参の効は、四物湯に匹敵する」といわれ、丹参は「一味四物湯」と呼ばれることがあります。
益母草(やくもそう)も薬性が寒で、熱性の瘀血に使用されます。婦人科疾患に多用され、乳腺炎などの炎症にも使われます。利尿作用があり、むくみを改善する効果があります。
地竜(じりゅう)は血管内外の凝血塊や血腫を溶解して除き、微小循環を改善します。
大黄(だいおう)は腸蠕動を刺激して瀉下通便の作用をもたらし、腸管内の腐敗物を除去します。組織の微小循環改善に働くとともに、抗炎症・解熱・化膿抑制の効果(清熱解毒)を示します。鎮静作用があり、のぼせ・いらいら・不眠などを改善します。
疼痛に対しては止痛の効果に優れる川芎・欝金・莪朮・乳香・没薬・延胡索などを選びます。頭痛など身体上部の痛みには川芎、腰や膝など下部の痛みには牛膝をよく用います。
炎症や発熱がある時は、薬性が「寒」の丹参・益母草や、抗炎症作用のある欝金・牡丹皮・赤芍のような駆瘀血薬に、清熱作用のある黄連・黄芩・山梔子などを併用します。便秘がある時は、大黄を使用します。
打撲などによる内出血の場合は、乳香・没薬・蘇木などを用います。
病状や症状に応じて、以上のような駆瘀血薬を使い分けながら血液循環を促進することが主体になりますが、さらに、瘀血を引き起こしている原因に応じて原因の解除も同時に行う必要があります。
瘀血の発生は気虚、陽虚、気滞など「気」の異常とも密接に関連しています。すなわち、血液を循環させるエネルギーは生命エネルギーである「気」が関与するからです。
気虚や陽虚では全身の機能が低下するため、循環系の機能も低下して血流の停滞を引き起こします。したがって、体力の低下がある場合(気虚)は補気薬(人参・黄耆など)を、体の冷えがある場合(陽虚)は、補陽薬(附子・桂皮・乾姜など)を併用する必要があります。
気の滞りである「気滞」では、血管運動神経系の失調を通じて血流を停滞させます。逆に、瘀血が発生すると、血液循環の異常によって、多くの臓器の機能が低下し、気虚や気滞、水滞の原因にもなります。
特に、瘀血と気滞は密接に関連しており、「瘀血は気滞を、気滞は瘀血を生じる」という密接な関連があるため、瘀血の治療においては、血の巡りを良くする駆瘀血薬だけでなく、気の巡りを良くする理気薬(柴胡・青皮・陳皮・蘇葉・香附子・木香・烏薬など)を適切に併用することがポイントになります。
また、貧血がある場合(血虚)は補血薬(地黄・鶏血藤・何首烏など)を併用し、炎症が強い場合は清熱解毒薬(黄芩、黄連・半枝蓮・白花蛇舌草など)を併用する必要があります。
図:瘀血の病態には血液循環の異常だけでなく、気虚、血虚、陽虚、水滞などの病態も併存していて、これらの病態がお互いに悪循環を形成していることが多い。したがって、瘀血の改善には、駆瘀血薬だけでなく、場合によっては補気薬、補血薬、補陽薬、利水薬などの併用も必要になる。
【駆瘀血薬はがん治療の効果を高める】
瘀血はがん患者の病態の基礎として多く認められます。
がん組織が産生する生理活性物質や老廃物、炎症や酸化ストレス、抗がん剤やステロイド剤の連用など、多くの要因によってがん患者の血液は高粘稠・高凝固状態になり、瘀血病態が引き起こされています。
瘀血病態を改善することにより、組織の新陳代謝が高まり免疫力や治癒力が向上します。腫瘍患部に抗がん薬物を到達させ、免疫細胞によるがん細胞の攻撃力を促進します。
放射線治療では、低酸素状態でがん細胞の放射線抵抗性が著しく増大するため、低酸素のがん細胞の放射線感受性を高めることが大切です。丹参などの駆瘀血作用の強い生薬を併用することにより、温熱療法や放射線治療の効果を高めることが報告されています。
中国では、駆瘀血薬の川芎や紅花を含む注射液を使用することにより、治療に必要な放射線線量を減らせることが報告されています。
駆瘀血薬を抗がん剤治療と併用することによって、抗がん剤の治療効果が高まることも報告されています。また、障害された正常組織の修復を促進するためにも、組織の微小循環を良好にすることは意義があります。
組織の血流を改善することは、がん組織の血流も増加させることになって、増殖を速めるのではないかという疑問がでてきますが、その心配はありません。
がん細胞は、生体の血流が悪くても、自分で血管新生を誘導する物質を産生して腫瘍血管を増生させ、身体の栄養物を1人占めにしようとします。その結果、正常組織の栄養が障害されて抵抗力が低下し、がんの増殖が促進されます。
したがって、正常な組織の血行を良くして、栄養を正常細胞に回すことは、がんが栄養物を1人占めしている状況を断ち切ることになり、がんの増殖を抑える方向に働くのです。
がん組織に増生してくる新生血管には、平滑筋細胞や神経支配が不十分であることが知られています。正常の細動脈の拡張や収縮は、自律神経や血管平滑筋の働きによって調節されています。生薬の中には、血管周囲の自律神経や平滑筋細胞などに働きかけて、血管拡張作用を起こすものが知られています。このような生薬を用いると、正常な組織の血流を増加させて、相対的に腫瘍へ行く血流を減らすことも可能になります。
組織の血液循環や新陳代謝を良くすることは、治癒力や免疫力を高めることによってがんを予防する効果も期待できます。漢方治療に使われる駆瘀血薬は、西洋医学のがん治療にない効果を発揮します。
がん患者に血栓症が多いことや、抗がん剤治療が血栓症の発症を促進することが明らかになっているため、予防的に抗凝固剤をがん治療に併用する試みが行われています。
低用量のワーファリンや低分子のヘパリンやアスピリンなどを用いた臨床試験では、血栓症の予防効果が報告されています。ある特定の凝固因子の阻害剤の開発も行われています。抗がん剤治療中や進行がんにおいて抗凝固療法は意味があるようです。
駆瘀血薬を利用した漢方薬は、副作用が少なく、体力や抵抗力を高める効果もあるので、抗がん剤治療中や進行がんの血栓症予防の目的でも漢方治療を取り入れる価値は高いと思います。
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