がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
116)がん治療に役立つ食材(2):魚油
図:脂肪(油脂)は脂肪酸のグリセリンエステルであり、3価のアルコールであるグリセリン1分子に3分子の脂肪酸 が結合した構造をしている(図の上)。グリセリンには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になる。 R1,R2,R3と示す脂肪酸は、1 個ないし複数個の炭化水素 (CH2) の連結した鎖 (炭化水素鎖)からなる。脂肪酸の鎖(R1,R2,R3)の構造の違い(飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸など)によって油脂の性状が違ってくる。不飽和脂肪酸の2重結合の部分はシス型とトランス型の2種類の構造があり、性状が違ってくる
116)がん治療に役立つ食材(2):魚油
【We are what we eat(食べたものが体をつくる)】
私たちは、食物から摂取した栄養素(蛋白質・脂肪・糖質・ビタミン・ミネラルなど)から、細胞や組織を作る材料や体を動かすエネルギーを産生しています。
このうち脂肪は、代謝されてエネルギー源となり、また分解されて生成した脂肪酸は細胞膜などに取り込まれ、細胞を構成します。この際、その脂肪酸自体は変化せず、それぞれの構造や性質を保ったまま使われます。つまり、細胞膜をつくるとき脂肪酸の違いを区別せず、手当たり次第にあるものを使用するのです。その結果、食事中の脂肪酸の種類によって細胞の性質も変わってきます。さらに、その細胞膜の脂肪酸から作られるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の種類も違ってきて、炎症やアレルギー反応や発がんに影響することが明らかになっています。
例えば、リノール酸のようなω6系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、血栓ができやすくなり、アレルギー反応を増悪させ、がんの発生頻度を高めます。ω6系不飽和脂肪酸を多く取り込んだがん細胞は増殖が早く転移をしやすくなります。
一方、魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のようなω3不飽和脂肪酸を多く摂取すると、炎症やアレルギーを抑え、血栓の形成や動脈硬化やがん細胞の発育を抑える作用があります。DHAやEPAを多く摂取するとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなることも報告されています。その理由は、食事から摂取されたω3不飽和脂肪酸ががん細胞の膜の脂質組成を変えることによって細胞シグナル系に影響して増殖を抑えるからです。
【脂肪(油脂)と脂肪酸の種類】
私たちは食物から様々な種類の「あぶら」を摂取しています。一般に、常温で液体のあぶらを油(oil)、個体のあぶらを脂(fat)と表記し、両方を総称して油脂と言います。
油という字に「さんずい」がついているのは液体であることを意味し、ほとんどの植物性油や魚油は常温で液体であり、油になります。一方、多くの陸上動物(牛脂、豚脂、人間の脂肪など)と熱帯植物(ヤシ油、パーム油、ココアバターなど)のあぶらは常温で個体の脂です。
油脂は、3価のアルコールであるグリセリン1分子に3分子の脂肪酸 が結合した構造をしています(図)。グリセリンには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になります。脂肪酸は、1 個ないし複数個の炭化水素 (CH2) の連結した鎖 (炭化水素鎖)からなります。
炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しているものを飽和脂肪酸といい、炭化水素鎖中に 1 個ないし数個の二重結合 (CH=CH)が含むものを不飽和脂肪酸といいます。
食べた脂肪は一旦グリセリン1分子と脂肪酸3分子に分解(消化)されて腸から吸収されて肝臓に送られ、肝臓で再び脂肪に組み立てられます。脂肪酸の構造の違いによって融点などの化学的性状が異なってきます。二重結合をもつ不飽和脂肪酸の多い脂肪は常温で液状になりますが、飽和脂肪酸になると固まりやすくなります。
固まりやすい脂肪を多く摂取すると血液がドロドロになって動脈硬化が起こりやすくなります。
一方、不飽和脂肪酸では種類によって健康に対する効果は極端に異なります。その代表がω3とω6という構造の違いです。これは炭化水素鎖の二重結合の位置による分類で、複数ある二重結合のうち最初の二重結合がメチル基(CH3)末端から3番目にある脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸と言い、6番目にあるものをω6系不飽和脂肪酸と呼びます。
ω3系不飽和脂肪酸にはα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸 (EPA)、ドコサヘキサエン酸 (DHA)などがあり、ω6系不飽和脂肪酸には、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸 などがあります。α-リノレン酸とリノール酸は体内で合成できないので、必須脂肪酸と呼ばれ、食事から摂取しなければなりません。
ω3系不飽和脂肪酸のDHA,EPAは魚の油に多く含まれ、α-リノレン酸は紫蘇油や亜麻仁油に多く含まれます。ω6系不飽和脂肪酸は肉や野菜など多くの食品に含まれています。
【ω-3系不飽和脂肪酸/ω-6系不飽和脂肪酸の比を上げるとがん細胞はおとなしくなる】
プロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性物質が増えすぎるとがん化しやすく進行も速まることがわかっています。PGE2は細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死が起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進します。PGE2はω6 系不飽和脂肪酸のリノール酸から合成され、DHAなどのω3 系不飽和脂肪酸はPGE2が体内で増えるのを抑える働きがあります。
脂肪酸の代謝産物は細胞内のシグナル伝達系に作用してがん遺伝子やがん抑制遺伝子の働きに影響を及ぼします。そして一般的に、DHAやEPAのようなω3系脂肪酸はがんの発育を抑制し、アラキドン酸のようなω6系脂肪酸はがんの発育を促進するので、摂取するω3系脂肪酸とω6系脂肪酸の比が腫瘍の発育に影響することになるのです。
つまり、肉はアラキドン酸などω6不飽和脂肪酸が多く、プロス タグランジンE2の産生を増やして、がん細胞の増殖・転移や血管新生を促進し、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制して再発促進に働きますが、一方、魚に含まれるDHAやEPAなどのω3不飽和脂肪酸は逆の作用でがんの発生や再発を抑制するのです。
DHAががんの予防や治療の効果を高めることは、多くの臨床的研究や実験的研究で 明らかになっています。毎日魚を食べている人は、そうでない人に比べ大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんになりにくいという研究結果があります。特に前立腺がンを予防する効果は大規模な疫学研究で証明されています。
ニュージーランドのオークランド大学のNorrish博士らは、317症例の前立腺がんの患者と480人の対照とを比較し、EPAやDHAの豊富な魚油を多く摂取すると前立腺がんのリスクを半分程度まで減らせることを報告しています。
米国における47,882名の男性の食事の解析では、1週間に3回以上魚を食べるグループは、月に2回以下のグループと比較して、前立腺がんの発生頻度は7%の低下、進行した前立腺がんは17%の低下、転移のリスクは44%の低下を認めています。
スウェーデン人の6272名の男性を30年以上にわたって追跡調査した研究では、魚をほとんど食べないグループの前立腺がんの発生頻度は、魚を良く食べるグループの2~3倍でした。
魚を多く食べるエスキモーのイヌイット人27人の死者の解剖では、潜在的な前立腺がんは認められませんでした。前立腺の潜在がんは、アジアを含めて多くの国の男性では25~35%に発見されるという事実を考えると、前立腺の潜在がんが27例中1例も認められなかったことは特異なことであり、魚油の効果が示唆されています。
多くの基礎研究で、ω3脂肪酸は前立腺がん細胞の増殖を抑制することが報告されており、マウスに移植した前立腺がんの実験モデルでも、魚油による前立腺がんの増殖抑制作用が示されています。
DHAががん細胞の増殖速度を遅くしたり転移を抑制し、腫瘍血管新生を阻害し、がん細胞に細胞死(アポトーシス)を引き起こすことなどが多くのがん細胞で示されています。例えば、米国健康財団のローズ博士らは、ヒト乳がん細胞をヌードマウスに移植した動物実験で、DHAは腫瘍血管の新生を阻害して増殖を抑制し、がん細胞の肺への転移を防ぐことを報告しています。プロスタグランジンE2は血管新生を促進するので、プロスタグランジンE2産生を阻害するDHAには腫瘍血管の新生を阻害するようです。その他にも、抗がん剤の効果を増強し副作用を軽減する効果も報告されています。
がんの治療においてはDHAやEPAをサプリメントで多く摂取すると、体重減少が防げたり、がんの増殖速度が低下してがん組織が縮小するような例も報告されています。
ω6:ω3の比が低いと、血管新生に必要な血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の血中濃度が低下し、炎症反応も抑制されることが報告されています。
血管新生は微小転移巣が成長するときに必要で、炎症は発がんや再発のリスクを高めます。したがって、血管新生や炎症を抑えることは、がんの発生や再発を抑えることができるのです。
肉類にはアラキドン酸が含まれていますので、肉を多く食べる人はがんになる危険が高いといわざるを得ません。リノール酸そのものは体に必須な物質ですが、大豆や米など植物性食品のほとんどに含まれているので、どうしても過剰摂取になりがちです。したがって、肉の替わりに魚を食べる回数を増やせば、がん細胞の増殖や血管新生を促進するプロスタグランジンE2ができにくくなって、がん増殖や再発が抑えることができることになるのです。
【ω3系不飽和脂肪酸を増やす食生活】
古代の人類の食事は、ω6:ω3の比が1程度でした。それが肉食中心になったことによってこの比が急激に増え、その結果、心臓病やがん、炎症性疾患、自己免疫疾患が増えてきたと考えられています。
アメリカ人の食事はω6:ω3の比が10~20になると報告されています。一方、伝統的な日本食(大豆と魚の豊富な食事)ではその比は1~2.8にあると言われています。
ω6:3の比を減らすとがんの発生率を減らすことができることが、大腸がん、乳がん、前立腺がんなどで確かめられています。
ω6脂肪酸は肉だけでなく野菜にも含まれます。したがって、一般的な食事ではω6脂肪酸が優位です。
ω6:ω3の比を1~2以下にする食生活は、がんや心臓病やアルツハイマー病やアレルギー疾患を予防したり治療する場合には試してみる価値があります。肉を多く摂取している人は肉を減らし、魚を多く食べるだけでも効果があります。意識してω3不飽和脂肪酸の多い魚やシソ油、亜麻仁油の摂取、DHAやEPAはのサプリメントも有効です。
健康的な食事では、脂肪は全カロリーの10%が目安になります。1日2000カロリーとすると、200カロリー分の脂肪は約22グラムになります。その半分の約10グラムくらいのω3脂肪酸を摂取し、肉類は極力控え、野菜はバランス良く摂取し、DHA/EPAのサプリメントを1日2~4グラム摂取すれば、ω6とω3の比をかなり下げることができます。野菜にはリノール酸などのω6脂肪酸が多いので、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の豊富なシソ油か亜麻仁油をドレッシングとして使用するのが有効です。DHAやEPAは高熱で酸化しやすいので、魚は揚げ物や焼き魚は避け、生(刺身)か煮付けで食べることが大切です。
極端にω3脂肪酸を多くとると、血液が固まりにくくなるという副作用が出ますが、DHA/EPAのサプリメントを1日2~4グラム程度で、食事の内容を変えてω3不飽和脂肪酸を増やすのであれば、問題はありません
【DHAは青い魚に含まれている】
DHAは、いわし、あじ、さば、さけ、にしん、などの「青みの魚」の脂肪に多く含まれます。
がんの発生や再発予防には1日に1から2グラムが適量です。1グラム取るのにイワシなら二尾、アジやサンマなら一尾、マグロの中トロで4~5切れで十分で、毎日魚を食べる習慣にしておけば必要量は摂取できます。
不飽和脂肪酸は酸化されやすいので、新鮮な魚を生か煮て食べるのが理想です。フライや焼き魚にすると、 EPA や DHA を損失するだけでなく、高度不飽和脂肪酸が 酸素 と反応すると過酸化脂質となって発がんを促進することになります。また、焼き魚の焼け焦げは発がん物質になり、フライは揚げ油のリノール酸を魚が吸収するという問題もあります。
魚が苦手な人は健康食品を利用するのも一つの方法です。DHAを補給するための健康食品が市販されています。魚の重金属汚染の問題や、高度不飽和脂肪酸は長期保存や加熱処理により酸化されやすという問題もあり、DHAをサプリメントで補給することの意義はあるようです。
サプリメントで一部の脂肪を摂取することが、栄養のバランスを崩すことになるのではと心配する方もいます。しかし、脂肪の摂取に注意した普通の食事でも、摂取カロリーの10%は脂肪でとっており、これは1日に15~20gの脂肪を食品から摂取していることになります。つまり、1~2gのDHAを摂取しても、脂肪の摂取量を増やしたり、栄養のバランスを崩すことにはなりません。
【DHAは再発予防以外にも健康増進にもいろいろな効果がある】
がん予防効果以外にも、DHAには健康増進に関連する多くの効果があります。血液中のコレステロールや中性脂肪を抑えたり、血圧を下げる作用があり、常にDHAを摂取していれば脳卒中や心筋梗塞などの血管が詰まって起きる病気は防ぐことが出来ます。アレルギーにも効果があります。さらに、脳の機能を高める作用から「DHAを取ると頭が良くなる」ともてはやされています。イギリスの栄養学者、マイケル・クロフォードが「日本の子供たちが頭がいいのは魚を常食しているからだ」と述べて魚油に含まれるDHAの生理作用が一躍脚光を浴びました。
グリーンランドのイヌイット人は魚を常食するため、血栓症などの血管障害が起こりにくいという疫学調査が発表されていますが、最近のハーバード大学の研究者らによる調査でもそうしたDHAの作用が裏付けられています。実験は40歳から84歳までの男性医師約2万人を対象に行ないましたが、週に少なくとも1回魚を食べている者は心臓発作などによる突然死が52%低下していることが判明しました。こうした結果を研究者らは魚のω-3系の高度不飽和脂肪酸が血流を促し、心臓での凝血を抑制しているものと見ています。
【DHAは過剰摂取と酸化に注意】
DHAやEPAは過剰に摂取すると、血液が固まる力を弱めるので出血しやすくなる場合があります。血小板が減少しやすい抗がん剤治療中や、出血の危険がある手術の前後などでは過剰な摂取は控えるべきです。
また、高度不飽和脂肪酸は長期保存や加熱処理により酸化しやすく、長期保存により劣化すると過酸化脂質となりがん細胞の発育を促進することにもなります。青みの魚は EPA と DHA を多く含みますが、同時に、多くのコレステロールを含み、そのコレステロール含量は牛肉や豚肉 に匹敵しています。 つまり、多くとれば良いというわけではなく、1日にDHAで1~2グラム程度ががんの再発予防に適量と考えられます。
【トランス脂肪酸とは】
飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和していますが、不飽和脂肪酸では、炭化水素鎖中に 1 個ないし数個の二重結合 (CH=CH) が含まれます。この二重結合の部分で脂肪酸の構造が変化します。飽和脂肪酸はまっすぐな構造をしていますが、炭素間に二重結合がある不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がっています。
脂肪酸が二重結合の所で曲がる時に、「シス型」と「トランス型」という2種類の構造を取ります(図下)。「シス(cis)は「同じ側」「近い方」、トランス(trans)は「反対側」「遠い方」というような意味の接頭辞です。
つまり、「シス型」は、二つの水素原子が二重結合の同じ側面側に存在する脂肪酸です。自然界に存在する脂肪酸のほとんどはシス型二重結合の分子構造を持っています。不規則な形のため、分子間の結合が弱く、より融点が低くなるため、室温では液体となります。
このシス型の天然の不飽和脂肪酸を、高温で加熱したり、水素を添加してマーガリンをつくるような加工を行うと、トランス型二重結合という分子構造を持った脂肪酸に変化します。トランス型二重結合では、二つの水素原子が二重結合の反対側に存在し、比較的安定した結合のため、室温でも固体に近くなります。つまり、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸なのに固まりやすい性質をもっているあぶらなのです。トランス脂肪酸はマーガリンやショートニングに多く含まれます。
マーガリンの原料は植物性の食用油で液体です。この食用油に水素を添加すると脂肪酸の二重結合の部分に水素が結合し、不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸に変化して固体になります。しかし、この製造過程で多くのトランス脂肪酸が生成してしまいます。_
ショートニングは植物油を原料とした常温でクリーム状の食用油脂です。マーガリンから水分と添加物を除いたもので、パンや焼き菓子などにバターやラードの代用として利用されています。お菓子に使用するとさっくり焼き上がり、揚げ物に使用すると衣がパリっと仕上がる効果があります。水素化すると、酸化されにくくなるので、市販のスナック菓子、ケーキ、ドーナツ、クッキーなど、安くて日持ちさせたい商品には、たいてい使われているようです。また、揚げ物に使う油も何回も使い回しているとトランス脂肪酸が増えてきます。
【トランス脂肪酸は健康に悪い】
マーガリンやショートニングは植物油から作られるのでバターやラードよりも健康的という間違ったイメージがありますが、マーガリンやショートニングを作る過程でトランス脂肪酸が作られ、動物性の飽和脂肪酸よりも健康に良いというのは間違いです。マーガリンやショートニングは、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸をたっぷり含んだ化学的に処理された油であって、トランス脂肪酸を含んでいないバターやラードのほうがまだ健康的だという意見もあります。
トランス脂肪酸は、炎症やアレルギー反応を悪化させる作用があります。また、細胞膜にトランス脂肪酸が入り込むと、細胞膜の機能を弱め、その結果、細胞の働きを障害します。悪玉コレステロールと言われる低密度リポ蛋白質(LDL)の量を増加し、善玉コレステロールの高密度リポ蛋白(HDL)の量の低下を招き、動脈硬化を促進することや、トランス脂肪酸が血管内皮の細胞膜に作用し、炎症因子や接着分子の産生を促し、心血管疾患リスクを高めることなどが報告されています。
米国においては2006年1月1日以降、食品の栄養成分表示欄に飽和脂肪酸、コレステロール に加えてトランス酸の含有量も明記することが義務付けらています。欧米では一定以上の「トランス脂肪酸」を含む製品は販売禁止にされ、ファーストフードなどの多くの外食産業で、トランス脂肪酸の少ない油を使うように規制されています。しかし日本ではまだそのような対応は行われていません。
トランス脂肪酸は摂取カロリーの2%以下ならそれほど問題ないという意見もあります。日本人では、トランス脂肪酸の1日摂取量はエネルギー比で0.7%と低く、普通の食生活においてトランス酸の摂取過剰によるリスクを心配する必要は無いという意見もあります。確かに、伝統的な日本食を食べている人にとっては問題ないのですが、最近は、フライドポテトやハンバーグばかりを食べている人も増えており、そのような食生活が健康に悪いのは確かです。
マーガリン、油であげたスナック菓子、何回も使い古した油で作った揚げ物、その他、マーガリンやショートニングを使用した食品は、取りすぎると健康に悪いことは確かだと思います。
(文責:福田一典)
116)がん治療に役立つ食材(2):魚油
【We are what we eat(食べたものが体をつくる)】
私たちは、食物から摂取した栄養素(蛋白質・脂肪・糖質・ビタミン・ミネラルなど)から、細胞や組織を作る材料や体を動かすエネルギーを産生しています。
このうち脂肪は、代謝されてエネルギー源となり、また分解されて生成した脂肪酸は細胞膜などに取り込まれ、細胞を構成します。この際、その脂肪酸自体は変化せず、それぞれの構造や性質を保ったまま使われます。つまり、細胞膜をつくるとき脂肪酸の違いを区別せず、手当たり次第にあるものを使用するのです。その結果、食事中の脂肪酸の種類によって細胞の性質も変わってきます。さらに、その細胞膜の脂肪酸から作られるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の種類も違ってきて、炎症やアレルギー反応や発がんに影響することが明らかになっています。
例えば、リノール酸のようなω6系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、血栓ができやすくなり、アレルギー反応を増悪させ、がんの発生頻度を高めます。ω6系不飽和脂肪酸を多く取り込んだがん細胞は増殖が早く転移をしやすくなります。
一方、魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のようなω3不飽和脂肪酸を多く摂取すると、炎症やアレルギーを抑え、血栓の形成や動脈硬化やがん細胞の発育を抑える作用があります。DHAやEPAを多く摂取するとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなることも報告されています。その理由は、食事から摂取されたω3不飽和脂肪酸ががん細胞の膜の脂質組成を変えることによって細胞シグナル系に影響して増殖を抑えるからです。
【脂肪(油脂)と脂肪酸の種類】
私たちは食物から様々な種類の「あぶら」を摂取しています。一般に、常温で液体のあぶらを油(oil)、個体のあぶらを脂(fat)と表記し、両方を総称して油脂と言います。
油という字に「さんずい」がついているのは液体であることを意味し、ほとんどの植物性油や魚油は常温で液体であり、油になります。一方、多くの陸上動物(牛脂、豚脂、人間の脂肪など)と熱帯植物(ヤシ油、パーム油、ココアバターなど)のあぶらは常温で個体の脂です。
油脂は、3価のアルコールであるグリセリン1分子に3分子の脂肪酸 が結合した構造をしています(図)。グリセリンには手(-OH)が3本あり、それに脂肪酸が結合して脂肪(油脂)になります。脂肪酸は、1 個ないし複数個の炭化水素 (CH2) の連結した鎖 (炭化水素鎖)からなります。
炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しているものを飽和脂肪酸といい、炭化水素鎖中に 1 個ないし数個の二重結合 (CH=CH)が含むものを不飽和脂肪酸といいます。
食べた脂肪は一旦グリセリン1分子と脂肪酸3分子に分解(消化)されて腸から吸収されて肝臓に送られ、肝臓で再び脂肪に組み立てられます。脂肪酸の構造の違いによって融点などの化学的性状が異なってきます。二重結合をもつ不飽和脂肪酸の多い脂肪は常温で液状になりますが、飽和脂肪酸になると固まりやすくなります。
固まりやすい脂肪を多く摂取すると血液がドロドロになって動脈硬化が起こりやすくなります。
一方、不飽和脂肪酸では種類によって健康に対する効果は極端に異なります。その代表がω3とω6という構造の違いです。これは炭化水素鎖の二重結合の位置による分類で、複数ある二重結合のうち最初の二重結合がメチル基(CH3)末端から3番目にある脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸と言い、6番目にあるものをω6系不飽和脂肪酸と呼びます。
ω3系不飽和脂肪酸にはα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸 (EPA)、ドコサヘキサエン酸 (DHA)などがあり、ω6系不飽和脂肪酸には、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸 などがあります。α-リノレン酸とリノール酸は体内で合成できないので、必須脂肪酸と呼ばれ、食事から摂取しなければなりません。
ω3系不飽和脂肪酸のDHA,EPAは魚の油に多く含まれ、α-リノレン酸は紫蘇油や亜麻仁油に多く含まれます。ω6系不飽和脂肪酸は肉や野菜など多くの食品に含まれています。
【ω-3系不飽和脂肪酸/ω-6系不飽和脂肪酸の比を上げるとがん細胞はおとなしくなる】
プロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性物質が増えすぎるとがん化しやすく進行も速まることがわかっています。PGE2は細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死が起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進します。PGE2はω6 系不飽和脂肪酸のリノール酸から合成され、DHAなどのω3 系不飽和脂肪酸はPGE2が体内で増えるのを抑える働きがあります。
脂肪酸の代謝産物は細胞内のシグナル伝達系に作用してがん遺伝子やがん抑制遺伝子の働きに影響を及ぼします。そして一般的に、DHAやEPAのようなω3系脂肪酸はがんの発育を抑制し、アラキドン酸のようなω6系脂肪酸はがんの発育を促進するので、摂取するω3系脂肪酸とω6系脂肪酸の比が腫瘍の発育に影響することになるのです。
つまり、肉はアラキドン酸などω6不飽和脂肪酸が多く、プロス タグランジンE2の産生を増やして、がん細胞の増殖・転移や血管新生を促進し、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制して再発促進に働きますが、一方、魚に含まれるDHAやEPAなどのω3不飽和脂肪酸は逆の作用でがんの発生や再発を抑制するのです。
DHAががんの予防や治療の効果を高めることは、多くの臨床的研究や実験的研究で 明らかになっています。毎日魚を食べている人は、そうでない人に比べ大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんになりにくいという研究結果があります。特に前立腺がンを予防する効果は大規模な疫学研究で証明されています。
ニュージーランドのオークランド大学のNorrish博士らは、317症例の前立腺がんの患者と480人の対照とを比較し、EPAやDHAの豊富な魚油を多く摂取すると前立腺がんのリスクを半分程度まで減らせることを報告しています。
米国における47,882名の男性の食事の解析では、1週間に3回以上魚を食べるグループは、月に2回以下のグループと比較して、前立腺がんの発生頻度は7%の低下、進行した前立腺がんは17%の低下、転移のリスクは44%の低下を認めています。
スウェーデン人の6272名の男性を30年以上にわたって追跡調査した研究では、魚をほとんど食べないグループの前立腺がんの発生頻度は、魚を良く食べるグループの2~3倍でした。
魚を多く食べるエスキモーのイヌイット人27人の死者の解剖では、潜在的な前立腺がんは認められませんでした。前立腺の潜在がんは、アジアを含めて多くの国の男性では25~35%に発見されるという事実を考えると、前立腺の潜在がんが27例中1例も認められなかったことは特異なことであり、魚油の効果が示唆されています。
多くの基礎研究で、ω3脂肪酸は前立腺がん細胞の増殖を抑制することが報告されており、マウスに移植した前立腺がんの実験モデルでも、魚油による前立腺がんの増殖抑制作用が示されています。
DHAががん細胞の増殖速度を遅くしたり転移を抑制し、腫瘍血管新生を阻害し、がん細胞に細胞死(アポトーシス)を引き起こすことなどが多くのがん細胞で示されています。例えば、米国健康財団のローズ博士らは、ヒト乳がん細胞をヌードマウスに移植した動物実験で、DHAは腫瘍血管の新生を阻害して増殖を抑制し、がん細胞の肺への転移を防ぐことを報告しています。プロスタグランジンE2は血管新生を促進するので、プロスタグランジンE2産生を阻害するDHAには腫瘍血管の新生を阻害するようです。その他にも、抗がん剤の効果を増強し副作用を軽減する効果も報告されています。
がんの治療においてはDHAやEPAをサプリメントで多く摂取すると、体重減少が防げたり、がんの増殖速度が低下してがん組織が縮小するような例も報告されています。
ω6:ω3の比が低いと、血管新生に必要な血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の血中濃度が低下し、炎症反応も抑制されることが報告されています。
血管新生は微小転移巣が成長するときに必要で、炎症は発がんや再発のリスクを高めます。したがって、血管新生や炎症を抑えることは、がんの発生や再発を抑えることができるのです。
肉類にはアラキドン酸が含まれていますので、肉を多く食べる人はがんになる危険が高いといわざるを得ません。リノール酸そのものは体に必須な物質ですが、大豆や米など植物性食品のほとんどに含まれているので、どうしても過剰摂取になりがちです。したがって、肉の替わりに魚を食べる回数を増やせば、がん細胞の増殖や血管新生を促進するプロスタグランジンE2ができにくくなって、がん増殖や再発が抑えることができることになるのです。
【ω3系不飽和脂肪酸を増やす食生活】
古代の人類の食事は、ω6:ω3の比が1程度でした。それが肉食中心になったことによってこの比が急激に増え、その結果、心臓病やがん、炎症性疾患、自己免疫疾患が増えてきたと考えられています。
アメリカ人の食事はω6:ω3の比が10~20になると報告されています。一方、伝統的な日本食(大豆と魚の豊富な食事)ではその比は1~2.8にあると言われています。
ω6:3の比を減らすとがんの発生率を減らすことができることが、大腸がん、乳がん、前立腺がんなどで確かめられています。
ω6脂肪酸は肉だけでなく野菜にも含まれます。したがって、一般的な食事ではω6脂肪酸が優位です。
ω6:ω3の比を1~2以下にする食生活は、がんや心臓病やアルツハイマー病やアレルギー疾患を予防したり治療する場合には試してみる価値があります。肉を多く摂取している人は肉を減らし、魚を多く食べるだけでも効果があります。意識してω3不飽和脂肪酸の多い魚やシソ油、亜麻仁油の摂取、DHAやEPAはのサプリメントも有効です。
健康的な食事では、脂肪は全カロリーの10%が目安になります。1日2000カロリーとすると、200カロリー分の脂肪は約22グラムになります。その半分の約10グラムくらいのω3脂肪酸を摂取し、肉類は極力控え、野菜はバランス良く摂取し、DHA/EPAのサプリメントを1日2~4グラム摂取すれば、ω6とω3の比をかなり下げることができます。野菜にはリノール酸などのω6脂肪酸が多いので、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の豊富なシソ油か亜麻仁油をドレッシングとして使用するのが有効です。DHAやEPAは高熱で酸化しやすいので、魚は揚げ物や焼き魚は避け、生(刺身)か煮付けで食べることが大切です。
極端にω3脂肪酸を多くとると、血液が固まりにくくなるという副作用が出ますが、DHA/EPAのサプリメントを1日2~4グラム程度で、食事の内容を変えてω3不飽和脂肪酸を増やすのであれば、問題はありません
【DHAは青い魚に含まれている】
DHAは、いわし、あじ、さば、さけ、にしん、などの「青みの魚」の脂肪に多く含まれます。
がんの発生や再発予防には1日に1から2グラムが適量です。1グラム取るのにイワシなら二尾、アジやサンマなら一尾、マグロの中トロで4~5切れで十分で、毎日魚を食べる習慣にしておけば必要量は摂取できます。
不飽和脂肪酸は酸化されやすいので、新鮮な魚を生か煮て食べるのが理想です。フライや焼き魚にすると、 EPA や DHA を損失するだけでなく、高度不飽和脂肪酸が 酸素 と反応すると過酸化脂質となって発がんを促進することになります。また、焼き魚の焼け焦げは発がん物質になり、フライは揚げ油のリノール酸を魚が吸収するという問題もあります。
魚が苦手な人は健康食品を利用するのも一つの方法です。DHAを補給するための健康食品が市販されています。魚の重金属汚染の問題や、高度不飽和脂肪酸は長期保存や加熱処理により酸化されやすという問題もあり、DHAをサプリメントで補給することの意義はあるようです。
サプリメントで一部の脂肪を摂取することが、栄養のバランスを崩すことになるのではと心配する方もいます。しかし、脂肪の摂取に注意した普通の食事でも、摂取カロリーの10%は脂肪でとっており、これは1日に15~20gの脂肪を食品から摂取していることになります。つまり、1~2gのDHAを摂取しても、脂肪の摂取量を増やしたり、栄養のバランスを崩すことにはなりません。
【DHAは再発予防以外にも健康増進にもいろいろな効果がある】
がん予防効果以外にも、DHAには健康増進に関連する多くの効果があります。血液中のコレステロールや中性脂肪を抑えたり、血圧を下げる作用があり、常にDHAを摂取していれば脳卒中や心筋梗塞などの血管が詰まって起きる病気は防ぐことが出来ます。アレルギーにも効果があります。さらに、脳の機能を高める作用から「DHAを取ると頭が良くなる」ともてはやされています。イギリスの栄養学者、マイケル・クロフォードが「日本の子供たちが頭がいいのは魚を常食しているからだ」と述べて魚油に含まれるDHAの生理作用が一躍脚光を浴びました。
グリーンランドのイヌイット人は魚を常食するため、血栓症などの血管障害が起こりにくいという疫学調査が発表されていますが、最近のハーバード大学の研究者らによる調査でもそうしたDHAの作用が裏付けられています。実験は40歳から84歳までの男性医師約2万人を対象に行ないましたが、週に少なくとも1回魚を食べている者は心臓発作などによる突然死が52%低下していることが判明しました。こうした結果を研究者らは魚のω-3系の高度不飽和脂肪酸が血流を促し、心臓での凝血を抑制しているものと見ています。
【DHAは過剰摂取と酸化に注意】
DHAやEPAは過剰に摂取すると、血液が固まる力を弱めるので出血しやすくなる場合があります。血小板が減少しやすい抗がん剤治療中や、出血の危険がある手術の前後などでは過剰な摂取は控えるべきです。
また、高度不飽和脂肪酸は長期保存や加熱処理により酸化しやすく、長期保存により劣化すると過酸化脂質となりがん細胞の発育を促進することにもなります。青みの魚は EPA と DHA を多く含みますが、同時に、多くのコレステロールを含み、そのコレステロール含量は牛肉や豚肉 に匹敵しています。 つまり、多くとれば良いというわけではなく、1日にDHAで1~2グラム程度ががんの再発予防に適量と考えられます。
【トランス脂肪酸とは】
飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和していますが、不飽和脂肪酸では、炭化水素鎖中に 1 個ないし数個の二重結合 (CH=CH) が含まれます。この二重結合の部分で脂肪酸の構造が変化します。飽和脂肪酸はまっすぐな構造をしていますが、炭素間に二重結合がある不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がっています。
脂肪酸が二重結合の所で曲がる時に、「シス型」と「トランス型」という2種類の構造を取ります(図下)。「シス(cis)は「同じ側」「近い方」、トランス(trans)は「反対側」「遠い方」というような意味の接頭辞です。
つまり、「シス型」は、二つの水素原子が二重結合の同じ側面側に存在する脂肪酸です。自然界に存在する脂肪酸のほとんどはシス型二重結合の分子構造を持っています。不規則な形のため、分子間の結合が弱く、より融点が低くなるため、室温では液体となります。
このシス型の天然の不飽和脂肪酸を、高温で加熱したり、水素を添加してマーガリンをつくるような加工を行うと、トランス型二重結合という分子構造を持った脂肪酸に変化します。トランス型二重結合では、二つの水素原子が二重結合の反対側に存在し、比較的安定した結合のため、室温でも固体に近くなります。つまり、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸なのに固まりやすい性質をもっているあぶらなのです。トランス脂肪酸はマーガリンやショートニングに多く含まれます。
マーガリンの原料は植物性の食用油で液体です。この食用油に水素を添加すると脂肪酸の二重結合の部分に水素が結合し、不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸に変化して固体になります。しかし、この製造過程で多くのトランス脂肪酸が生成してしまいます。_
ショートニングは植物油を原料とした常温でクリーム状の食用油脂です。マーガリンから水分と添加物を除いたもので、パンや焼き菓子などにバターやラードの代用として利用されています。お菓子に使用するとさっくり焼き上がり、揚げ物に使用すると衣がパリっと仕上がる効果があります。水素化すると、酸化されにくくなるので、市販のスナック菓子、ケーキ、ドーナツ、クッキーなど、安くて日持ちさせたい商品には、たいてい使われているようです。また、揚げ物に使う油も何回も使い回しているとトランス脂肪酸が増えてきます。
【トランス脂肪酸は健康に悪い】
マーガリンやショートニングは植物油から作られるのでバターやラードよりも健康的という間違ったイメージがありますが、マーガリンやショートニングを作る過程でトランス脂肪酸が作られ、動物性の飽和脂肪酸よりも健康に良いというのは間違いです。マーガリンやショートニングは、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸をたっぷり含んだ化学的に処理された油であって、トランス脂肪酸を含んでいないバターやラードのほうがまだ健康的だという意見もあります。
トランス脂肪酸は、炎症やアレルギー反応を悪化させる作用があります。また、細胞膜にトランス脂肪酸が入り込むと、細胞膜の機能を弱め、その結果、細胞の働きを障害します。悪玉コレステロールと言われる低密度リポ蛋白質(LDL)の量を増加し、善玉コレステロールの高密度リポ蛋白(HDL)の量の低下を招き、動脈硬化を促進することや、トランス脂肪酸が血管内皮の細胞膜に作用し、炎症因子や接着分子の産生を促し、心血管疾患リスクを高めることなどが報告されています。
米国においては2006年1月1日以降、食品の栄養成分表示欄に飽和脂肪酸、コレステロール に加えてトランス酸の含有量も明記することが義務付けらています。欧米では一定以上の「トランス脂肪酸」を含む製品は販売禁止にされ、ファーストフードなどの多くの外食産業で、トランス脂肪酸の少ない油を使うように規制されています。しかし日本ではまだそのような対応は行われていません。
トランス脂肪酸は摂取カロリーの2%以下ならそれほど問題ないという意見もあります。日本人では、トランス脂肪酸の1日摂取量はエネルギー比で0.7%と低く、普通の食生活においてトランス酸の摂取過剰によるリスクを心配する必要は無いという意見もあります。確かに、伝統的な日本食を食べている人にとっては問題ないのですが、最近は、フライドポテトやハンバーグばかりを食べている人も増えており、そのような食生活が健康に悪いのは確かです。
マーガリン、油であげたスナック菓子、何回も使い古した油で作った揚げ物、その他、マーガリンやショートニングを使用した食品は、取りすぎると健康に悪いことは確かだと思います。
(文責:福田一典)
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