がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
115)がん治療に役立つ食材(1):キクラゲ
図:キクラゲ(木耳)は中華料理や薬膳に使用されており、様々な健康作用が知られている。免疫増強作用や抗がん作用も報告されており、がんの漢方治療にも利用されている。
115)がん治療に役立つ食材(1):キクラゲ
【キクラゲとは】
キクラゲはコリコリとした食感が特徴のキノコで、スープや炒め物の具として中華料理にはなくてはならない食材です。ラーメンや日本料理にも使われています。
コリコリした食感が乾燥クラゲと似ていることから、日本では樹木に生えるクラゲの意味でキクラゲと呼ばれるようになりました。
中国で使われている漢字の「木耳」は、形が人間の耳に似ていることから付いて名前です。生薬名はモクジ(木耳)といいます。
木耳はクワ、エンジュ、ヤナギ、ニレ、コウゾなどの朽ちた木に生えます。
生えた木によって黒色や白色や淡褐色など異なった色になります。黒いキクラゲは黒木耳やクロキクラゲと呼びます。白いものは栗の木に生え、白木耳や銀耳や雪耳と言い、不老長寿や強壮に効果がある食材として利用されています。
白木耳はかつては珍重でしたが、現在では台湾などで人工栽培されていて、比較的安価に入手できます。
キクラゲは低カロリーで、ビタミンやミネラルなどの栄養素や多糖やエルゴステロールが豊富で、干した木耳にはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)が多く含まれています。きわめてヘルシーな食材であり、薬膳や薬用としても利用されています。
キクラゲ(木耳)には滋養強壮や胃腸の働きを良くし、造血機能を高める作用があります。さらに出血を止め、痔出血や月経過多に効果があります。血液を浄化する作用や血栓を予防する効果があり動脈硬化や高脂血症や高血圧症に良いとされています。
【キクラゲ(木耳)の抗がん作用】
木耳には、動物に移植したがん細胞や肉腫の増殖を抑制する効果や、放射線や抗がん剤などによる臓器のダメージを緩和する効果などが報告されています。
βグルカンなどの抗腫瘍多糖を含み、免疫力を高める効果が報告されています。
また、エルゴステロールにも抗がん作用が報告されています。
エルゴステロールは、キノコやカビなどの菌類において生成され、コレステロールやステロイドホルモンと類似の構造を持つ分子量が約400の脂溶性(脂に溶け水に溶けない)の物質です。菌類の細胞膜を構成する物質で、動物におけるコレステロールと同じような働きをしています。
エルゴステロールには腫瘍組織の血管新生阻害作用などの抗がん作があることが動物実験などで報告されています。
たとえば、愛媛大学医学部生化学からの研究では、エルゴステロールをマウスに経口投与(体重1kg当たり400又は800 mg)すると、移植した肉腫の増殖速度が著明に低下することが報告されています。エルゴステロールにはがん細胞を直接殺す作用はなかったが、腫瘍の血管新生を阻害する作用が認められたそうです。
さらにエルゴステロールは紫外線に当たるとコレカルシフェロール(ビタミンD2)になります。ビタミンDの抗がん作用については第110話で解説しています。
ビタミンDは細胞の増殖や分化や死に関する複数の遺伝子の働きを調節する作用があり、がん細胞の増殖や転移を抑制し、アポトーシスという細胞死を誘導する作用が確かめられています。がんの発生や再発を予防する効果が臨床試験で確認されています。
キクラゲはビタミンD2(コレカルシフェロール)が食材の中で飛び抜けて多いのが特徴です。
食品では、100g当たりのビタミンDの量は、乾燥した白キクラゲが970μg、乾燥キクラゲ435μg、干しシイタケ16.8μgです。
魚は100g当たり10~40μg程度のビタミンDを含み、特に肝臓に多く、あんこうのきもには110μgが含まれています。肉や卵や牛乳は100g当たり数μg以下で、多くは含まれていません。
(国立健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報より)
臨床報告では、子宮頚がんや膣がんに対して、毎日黒木耳10gを煎じて服用する、あるいは六味湯(当帰、白芍、黄耆、甘草、陳皮、桂円肉、各3g)と一緒に煎じて服用すると、かなりの効果があると報告されています。(葉橘泉編:食物中薬与便方)
また、毎回9~15gに水800mlを加え、50~60mlになるまで煎じ、1日3回服用すると子宮頚がんや食道がんに効果があるという報告があります(河北新医大学編:簡明中医学)
以上のことから、1日数グラムから10グラムくらいを摂取すると、エルゴステロールやコレカルシフェロール(ビタミンD2)やβグルカンなどの様々な成分による抗がん作用が期待できそうです。
キクラゲは食材として販売されており、100グラムが数百円程度です。1日10グラムを食べても1ヶ月分は1000~2000円程度です。高価なキノコの健康商品を購入するより、日頃からキクラゲを食べる方が効果があるかもしれません。
(文責:福田一典)
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