161)白朮の抗がん作用と悪液質改善効果

図:白朮(ビャクジュツ:キク科オケラの根茎)は胃腸の働きを良くし、体力や免疫力を高める滋養強壮作用の他に、がん細胞の増殖を抑制する効果も報告されている。白朮の主要成分のアトラクチレノリドIが胃がんの悪液質の治療に有効という報告もある

161)白朮の抗がん作用と悪液質改善効果

白朮(ビャクジュツ)は、日本や朝鮮半島や中国東北部に分布するキク科のオケラ(Atractylodes japonica Koizumi)またはオオバナオケラ(Atractylodes ovata De Candolle)の根茎です。オケラは山野に多く自生する多年草で、秋に白または淡紅色の花が咲きます。
白朮は約2000年前の本草書の「神農本草経」の上品(上薬)に分類され、その効能として、体力や生命エネルギーを増し(
補気)、胃腸の働きを良くし(健脾)、体液の循環を良くしてむくみを軽減し(利水消腫)、下痢を治す(止瀉)などが認められています。
胃腸虚弱を改善し、食欲不振、下痢、疲労倦怠などの症状を改善する滋養強壮薬として、漢方処方で使用される頻度が極めて高い生薬の一つで、補中益気湯や六君子湯やなど多くの処方に使用されています。お正月に飲まれるお屠蘇にも使われています。
活性成分として
アトラクチロン(atractylon)やアトラクチレノリド I, II, III(atractylenolide I,II,III)などのセスキテルペノイドが含まれています。
薬理作用として、利尿作用、抗ストレス作用、血糖降下作用、血液凝固抑制作用、肝障害抑制作用、抗消化性潰瘍作用、抗炎症作用、免疫増強作用、放射線障害防護作用、インターフェロン誘起作用、抗腫瘍作用などが報告されています。
がん細胞の増殖抑制作用や、造血機能を増強する作用も報告されています。
動物を使った実験で、白朮の抽出エキスの投与が、移植腫瘍の増殖を抑制し延命効果を示すことが報告されています。
中国では多くのがんの治療に使用され、有効性が多く報告されています。
このように、
白朮は胃腸の状態を良くし、体力と免疫力を高め、さらに抗がん作用があるので、がん治療にも非常に役立つ生薬ですがん治療の伴う胃腸障害や骨髄障害などの副作用軽減や再発予防の目的にも有用です
最近の論文で、進行した胃がん患者さんを対象にした臨床試験で、白朮に含まれるアトラクチレノリドIが悪液質の症状を改善する効果が報告されています。

A Randomized Pilot Study of Atractylenolide I on Gastric Cancer Cachexia Patients(胃がんの悪液質の患者に対するアトラクチレノリド Iの効果に関するランダム化予備試験)Evid Based Complement Alternat Med.5(3):337-344. 2008
論文要旨:
進行した胃がん患者における悪液質の治療において、白朮に含まれる活性成分のアトラクチレノリド I(Atractylenolide I)の治療効果と作用機序を検討した。
進行胃がんの患者22例を2つのグループ(11例づつ)に分け、1つのグループには1日1.32gのアトラクチレノリドIを投与し、もう一つのグループには、悪液質の改善効果が証明されている魚油由来のω3不飽和脂肪酸を含む栄養サプリメント(fish-oil enriched nutritional supplement)を投与し、3週間後と7週間後の症状(食欲や体重や筋肉の状態など)や血液検査(各種サイトカインなど)などによって効果を評価した。
体重と筋肉量(上腕筋肉周囲長:mid-arm muscle circumference)は両群とも増加した。血中サイトカインのIL-1は低下し、TNF-αは増加した。
食欲とKarnofsky performance status(患者の日常生活動作から一般全身状態を評価するスコア)の改善においては、アトラクチレノリドIの方が、魚油含有サプリメントよりも統計的有意に効果が高かった。
また、蛋白分解を促進する因子(Proteolysis-inducing factor)の尿中産生もアトラクチレノリドI投与群の方が減少した。

この報告はまだ症例の数が少ないので、アトラクチレノリドIの有効性についてはまだ結論は出せません。
しかし、
がん性悪液質の改善効果が知られているω3不飽和脂肪酸(ドコサヒキサエン酸やエイコサペンタエン酸など)と同等ないしそれ以上の有効性が示唆されています
白朮は、2000年以上も前から滋養強壮の目的で使用され、食欲不振や胃腸虚弱、下痢、全身倦怠感などに対する効果は経験的に認められています。
白朮は、胃弱体質の人の下痢に良く効くので、抗がん剤治療で下痢の副作用の改善に有効です。
白朮に含まれるセスキテルペンなどの成分には、胃腸の状態を良くすると同時は、体力と免疫力を高め、抗炎症作用や抗がん作用も報告されていますので、がん治療に積極的に利用できる生薬と言えます。
日本漢方では白朮の使用量は1日3g前後ですが、抗がん剤治療の副作用軽減などがん治療に併用する場合は、1日量10~15グラム程度の量を使用すると効果が高まると思います。(ただし単独で大量に服用すると吐き気や口渇が起こることがあるので、注意が必要です。)

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(文責:福田一典)

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