162)がん治療に役立つ食材(8):ルテオリンの豊富な野菜

図:フラボノイドの基本骨格は15の炭素原子を有し,2つのベンゼン環(A,B)が3つの炭素原子で結合された構造(C6-C3-C6構造)を持つ。ルテオリンは、フラボノイドの一つのカテゴリのフラボンに分類され、シュンギク、ピーマン、セロリ、パセリなど多くの野菜やハーブに含まれている。近年、ルテオリンの抗がん作用が注目されている。2-3の二重結合と5,7,3',4'のOH基の存在がその薬効において重要と考えられている

162)がん治療に役立つ食材(8):ルテオリンの豊富な野菜(シュンギク、ピーマン、セロリ,パセリなど)


【フラボノイドとは】
フラボノイドは植物に含まれる色素成分として、その種類は数千種類知られています。
フラボノイドの基本骨格は15の炭素原子を有し,2つのベンゼン環が3つの炭素原子で結合された構造です。フラボノイドに含まれる物質には、抗酸化作用や抗菌作用やがん予防効果など、多くの薬理作用が報告されています。

フラボノイドは化学構造に基づいて、以下のように分類されます。
1)
フラボン(flavones):キク科(春菊)やナス科(ピーマン)やセリ科(セロリ、パセリ)の野菜に含まれ、ルテオリン、アピゲニンが代表。
2)
フラボノール(flavonols):柑橘類やリンゴなどの果実や、ほとんどの野菜や豆類に配糖体として含まれ、ケンフェロール(ブロッコリー)やケルセチン(レタス、たまねぎ、パセリ)が代表。
3)
フラバノール(flavanol):緑茶や赤ワインに含まれるカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンガレートなど。
4)
フラバノン(flavanones):柑橘類に含まれるフラボノイドでナリンジン、ヘスペリジンが代表。
5)
イソフラボン(isoflavones):大豆に含まれるゲニステイン、ダイゼインなど。
6)
アントシアニジン(anthocyanidins):フルーベリーなどのベリー類やぶどうに含まる赤色から赤紫色や青色の色素。


【ルテオリンの抗がん作用】
ルテオリン(Luteolin:3',4',5,7-tetrahydroxyflavone)はフラボノイドのカテゴリの一つであるフラボン類(Flavones)に分類される物質です。
フラボノイドに含まれる物質には、抗がん作用を示すものが多く知られていますが、最近、ルテオリンのがん予防効果や抗がん作用の研究報告の論文が多く発表されています。それらの報告をまとめると、ルテオリンの抗がん作用に関する薬効として以下のようなものがあります。
1)
抗酸化作用
活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカルを消去する活性が強く、フリーラジカルによる細胞のダメージや遺伝子変異を軽減します。フリーラジカルを産生する酵素(キサンチン酸化酵素など)を阻害し、抗酸化酵素(カタラーゼ,SODなど)の活性を高めて、体内の抗酸化力を高める効果も報告されています。
2)
抗炎症作用
炎症性サイトカインの産生や、炎症性のシグナル伝達を阻害することによって、発がん促進やがん細胞増殖の原因となる慢性炎症を抑えます。
3)
血管新生阻害作用
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生や活性を抑制し、血管新生のシグナル伝達を阻害することによって、腫瘍血管の新生を抑える効果が報告されています。
4)
がん細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導、転移抑制作用
トポイソメラーゼI、IIの活性を阻害してアポトーシスを誘導する作用、がん細胞の増殖促進に関与する転写因子のNF-κBやAP-1を阻害する作用、がん抑制遺伝子のp53の安定化、がん細胞の増殖促進に関与するシグナル伝達系(PI3K, STAT3, IGF1R and HER2 )を阻害する作用などが報告されています。
5)
抗がん剤感受性を高める作用
がん細胞の抗がん剤抵抗性に関与しているphosphatidylinositol 3'-kinase (PI3K)/Akt, nuclear factor kappa B (NF-kappaB), X-linked inhibitor of apoptosis protein (XIAP)などの活性を抑え、さらにがん抑制遺伝子のp53を誘導することによって、がん細胞の抗がん剤抵抗性を低下させる効果が報告されています。
6)
発がん予防効果
動物発がん実験でがんの発生や成長を抑制する効果が報告されています。
その作用機序としては上記の抗酸化作用、抗炎症作用、血管新生阻害作用、がん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導作用などが関連しています。人間での疫学調査でも、ルテインの摂取の多いほど、がんの発生が少なくなることが報告されています。
7)
抗エストロゲン作用
エストロゲン受容体とエストロゲンの結合を競合阻害し、エストロゲンを産生するアロマターゼ活性を阻害するなどの作用によって、エストロゲン依存性の乳がんに対して抗腫瘍効果を示す効果が報告されています。

【ルテオリンを多く含む野菜やハーブ】
ルテオリンは野菜やハーブや生薬に多く含まれています。
食品としては、シュンギク、ピーマン、セロリ,パセリ、ブロッコリー、ニンジン、キャベツなどに多く含まれます。オリーブオイルにも含まれています。
ハーブや生薬としてはシソ科のペパーミント(peppermint)、タイム(thyme)、ローズマリー(rosemary)、オレガノ(oregano)に多く含まれています。キク科のタンポポ(蒲公英)の葉にも含まれています。
漢方薬でも、シソ科の生薬(蘇葉など)は抗がん作用が知られており、多くの抗がん成分が含まれていますが、ルテオリンも重要な薬効成分と言えます。
ルテオリンの豊富な食品はがんの予防や治療に役立ちます。ルテオリンは熱に安定で、調理によってロスが少ないと言われています。
また、ルテオリンの豊富なハーブや生薬を使った漢方治療はがんの治療や再発予防の目的で効果が期待できます。ルテオリンは血液脳関門(blood-brain barrier)を通過できるので、脳腫瘍にも効果が期待できます。
参考文献:Luteolin, a flavonoid with potentials for cancer prevention and therapy(ルテオリン:がんの予防と治療に有効なフラボノイド)Curr Cancer Drug Targets. 8(7): 634-646. 2008年
(文責:福田一典)
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